[O-0038] 歩行時における前十字靭帯不全膝の三次元動作解析
回旋中心の検討
Keywords:膝前十字靭帯損傷, 評価・動作解析, 歩行
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(ACL)損傷後の長期経過における関節症性変化の発生が知られており,その一因として膝関節の異常運動が指摘されている。この異常運動を明らかにする事は膝関節に生じる機械的ストレスを推察し関節症性変化の発生メカニズムを解明する一助になると期待されている。ACL損傷後の異常運動については“Quadriceps avoidance gait”や“Pivot-shift avoidance gait”など運動学的および運動力学的な変化に関する報告が散見されるものの,動的環境下における生体膝の回旋中心(center of rotation,以下COR)の変化に関する報告は演者らが渉猟し得た限りない。本研究の目的は三次元動作解析装置を用いて歩行時におけるACL不全膝のキネマティクス,キネティクス,そして回旋中心を明らかにする事である。
【方法】
平成21年4月から平成24年6月までの期間に当院を受診した片側ACL損傷患者のうち,動作解析を施行し得た36例の患側と健側を対象とした。内訳は男性18例,女性18例,BMI23.5±3.8kg/m2,年齢24.7±12.8歳,受傷から計測までの期間は6.7±12.8ヵ月であった。また健常成人ボランティア20例の40膝を対照群とした。内訳は男性10例,女性10例,BMI20.5±2.4kg/m2,年齢26.0±5.7歳であった。全ての対象者はAndriacchiらが報告したポイントクラスター法に準じて体表マーカが貼付され,赤外線カメラ(120Hz)と床反力計(120Hz)により定常歩行が計測された。得られたデータはQualisys Track Manager 3Dにて処理し,ポイントクラスター法に準じて膝関節の6自由度運動を算出した。キネマティクスデータは膝完全伸展位での自然立位をゼロ点とし,一歩行周期を100%として時系列を規格化した。また逆動力学計算により膝関節の外的モーメント(屈伸,回旋,内外反)を算出した。算出した関節モーメントは対象者ごとに身長と体重で標準化し,立脚期を60%として時系列を規格化した。CORは脛骨平面上に投影されたtransepicondylar axis(pTEA)と運動により変位したpTEA’の交点と定義した。CORについては荷重応答期と立脚終期について検討した。これらのパラメーターについてACL不全群の患側,健側そして対照群の3群間で比較検討した。統計解析には一元配置分散分析および事後検定としてTukey-kramer法を用いた。なお有意水準は5%に設定した。
【結果】
荷重応答期における患側の回旋中心は脛骨関節面中央より外側に11.8cm,前方に1.1cmであり対照群(外側7.0cm,前方0.0cm)と較べて外側傾向かつ有意に前方であった。さらにこの時の患側の膝屈曲モーメントは0.229±0.127Nm/Bw×Htであり対照群の0.336±0.113Nm/Bw×Htと較べて有意に低値,脛骨後方並進移動量は1.1±0.5cmであり対照群の0.8±0.5cmと較べて有意に高値であった。立脚終期において3群の回旋中心の間に有意差は認められなかった。しかしこの時の患側の膝屈曲角度は13.3±7.1°であり対照群の9.3±5.2°と較べて有意に高値,脛骨内旋モーメントは0.026±0.023Nm/Bw×Htであり対照群の0.043±0.034Nm/Bw×Htと較べて有意に低値であった。脛骨の回旋角度については3群間に有意差は認められなかった。
【考察】
荷重応答期においてACL不全膝の膝屈曲モーメントは有意に低値,かつ脛骨後方並進移動量は有意に高値であった。これにより大腿四頭筋活動により生じる脛骨の前方不安定性の発現を抑えていたことが推察された。この時,荷重による脛骨内旋と代償動作の一つである脛骨後方並進によりCORは前外方に位置するものと考えられた。立脚終期においてACL不全膝は屈曲角度が有意に高値であり,かつ脛骨内旋モーメントが有意に低値であった。これらの特徴はFuentesらが報告したACL不全膝に認められる“Pivot-shift avoidance gait”と同様の所見であり,これにより脛骨の前外側回旋不安定性の発現を抑えていたと考えられた。ACL不全膝で認められたこれらの変化は脛骨大腿関節の軟骨接点を変化させ長期経過における関節症性変化の一因となる可能性があると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は歩行時におけるACL不全膝のキネマティクス,キネティクス,そして回旋中心を示した。ACL損傷後においては不安定性を代償するための異常運動が現れており,長期経過における関節症性変化の一因となる可能性があると考えられた。
膝前十字靭帯(ACL)損傷後の長期経過における関節症性変化の発生が知られており,その一因として膝関節の異常運動が指摘されている。この異常運動を明らかにする事は膝関節に生じる機械的ストレスを推察し関節症性変化の発生メカニズムを解明する一助になると期待されている。ACL損傷後の異常運動については“Quadriceps avoidance gait”や“Pivot-shift avoidance gait”など運動学的および運動力学的な変化に関する報告が散見されるものの,動的環境下における生体膝の回旋中心(center of rotation,以下COR)の変化に関する報告は演者らが渉猟し得た限りない。本研究の目的は三次元動作解析装置を用いて歩行時におけるACL不全膝のキネマティクス,キネティクス,そして回旋中心を明らかにする事である。
【方法】
平成21年4月から平成24年6月までの期間に当院を受診した片側ACL損傷患者のうち,動作解析を施行し得た36例の患側と健側を対象とした。内訳は男性18例,女性18例,BMI23.5±3.8kg/m2,年齢24.7±12.8歳,受傷から計測までの期間は6.7±12.8ヵ月であった。また健常成人ボランティア20例の40膝を対照群とした。内訳は男性10例,女性10例,BMI20.5±2.4kg/m2,年齢26.0±5.7歳であった。全ての対象者はAndriacchiらが報告したポイントクラスター法に準じて体表マーカが貼付され,赤外線カメラ(120Hz)と床反力計(120Hz)により定常歩行が計測された。得られたデータはQualisys Track Manager 3Dにて処理し,ポイントクラスター法に準じて膝関節の6自由度運動を算出した。キネマティクスデータは膝完全伸展位での自然立位をゼロ点とし,一歩行周期を100%として時系列を規格化した。また逆動力学計算により膝関節の外的モーメント(屈伸,回旋,内外反)を算出した。算出した関節モーメントは対象者ごとに身長と体重で標準化し,立脚期を60%として時系列を規格化した。CORは脛骨平面上に投影されたtransepicondylar axis(pTEA)と運動により変位したpTEA’の交点と定義した。CORについては荷重応答期と立脚終期について検討した。これらのパラメーターについてACL不全群の患側,健側そして対照群の3群間で比較検討した。統計解析には一元配置分散分析および事後検定としてTukey-kramer法を用いた。なお有意水準は5%に設定した。
【結果】
荷重応答期における患側の回旋中心は脛骨関節面中央より外側に11.8cm,前方に1.1cmであり対照群(外側7.0cm,前方0.0cm)と較べて外側傾向かつ有意に前方であった。さらにこの時の患側の膝屈曲モーメントは0.229±0.127Nm/Bw×Htであり対照群の0.336±0.113Nm/Bw×Htと較べて有意に低値,脛骨後方並進移動量は1.1±0.5cmであり対照群の0.8±0.5cmと較べて有意に高値であった。立脚終期において3群の回旋中心の間に有意差は認められなかった。しかしこの時の患側の膝屈曲角度は13.3±7.1°であり対照群の9.3±5.2°と較べて有意に高値,脛骨内旋モーメントは0.026±0.023Nm/Bw×Htであり対照群の0.043±0.034Nm/Bw×Htと較べて有意に低値であった。脛骨の回旋角度については3群間に有意差は認められなかった。
【考察】
荷重応答期においてACL不全膝の膝屈曲モーメントは有意に低値,かつ脛骨後方並進移動量は有意に高値であった。これにより大腿四頭筋活動により生じる脛骨の前方不安定性の発現を抑えていたことが推察された。この時,荷重による脛骨内旋と代償動作の一つである脛骨後方並進によりCORは前外方に位置するものと考えられた。立脚終期においてACL不全膝は屈曲角度が有意に高値であり,かつ脛骨内旋モーメントが有意に低値であった。これらの特徴はFuentesらが報告したACL不全膝に認められる“Pivot-shift avoidance gait”と同様の所見であり,これにより脛骨の前外側回旋不安定性の発現を抑えていたと考えられた。ACL不全膝で認められたこれらの変化は脛骨大腿関節の軟骨接点を変化させ長期経過における関節症性変化の一因となる可能性があると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は歩行時におけるACL不全膝のキネマティクス,キネティクス,そして回旋中心を示した。ACL損傷後においては不安定性を代償するための異常運動が現れており,長期経過における関節症性変化の一因となる可能性があると考えられた。