第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述5

卒前教育・臨床実習

2015年6月5日(金) 10:10 〜 11:10 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:松本泉(熊本駅前看護リハビリテーション学院 理学療法学科)

[O-0049] 心肺蘇生法授業履修前後の心理的変化

―理学療法学科学生を対象として―

加藤太郎 (文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

キーワード:心肺蘇生法, 蘇生教育, 心理的変化

【目的】
突然の心停止(sudden cardiac arrest;以下SCA)には,速やかな心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation;以下CPR)の実施が重要であり,SCA症例に多い心室細動に対してCPRは生存率を上昇させる。生存退院に関わる因子として,早期通報,早期CPR,早期除細動の実施が,患者の年齢や二次救命処置よりも有意に良い影響を与えるとされる。近年,身体状態が変化しやすい発症直後から理学療法士が介入することが増えている。理学療法施行中に身体状態の悪化や,SCAのリスクは増大することが予想される。また,2025年問題を始めとする高齢社会問題により今後,訪問リハビリテーションのニーズは急速に増えていく。利用者と1対1の環境での急変に対して理学療法士は適切に行動できるのであろうか。理学療法士に対する蘇生教育の拡充は重要である。本学では,平成26年度入学生よりカリキュラムに一次救命処置(Basic Life Support;以下BLS)を組み込み,理学療法学科の学生(以下学生)への蘇生教育を授業として導入した(90分授業×8コマ)。この内,実技練習を90分×4コマ分とし,十分な実技練習時間を確保している。また,内容は成人に対するBLSを中心に,学習効果が高いとされるPractice while Watching(PWW)方式で実施している。授業として蘇生教育を実施している理学療法士養成校は少ないであろう。本研究は,学生に対する蘇生教育の効果を実際の行動に関する心理的側面から明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は,本学理学療法学科1年生86名であった。対象者にBLS授業開始前,修了後に質問紙調査を実施した。調査期間は平成26年9月から同年10月とした。調査項目は,(1)BLSに関する関心(以下関心),(2)今,目の前で人が倒れたら近づいて声をかけられるか(以下初動)と,(3)今,目の前で人が倒れたら適切な対応ができるか(以下実施)の3項目とした。各項目は5段階とし,関心は,5ある,4ややある,3どちらともいえない,2あまりない,1ないとした。初動と実施は,5できる,4ややできる,3どちらともいえない,2あまりできない,1できないとした。授業履修前後における各項目の回答の変化と,各項目内の回答の割合について比較検討した。統計処理は,各項目の回答の変化(群間比較)についてWilcoxonの符号付順位検定を用い,また各項目内の回答の割合(群内比較)についてχ2適合度検定を用いて分析検討した。統計的有意水準は1%未満とした。なお,全ての統計解析はSPSS ver.21.0J for Windowsを使用した。
【結果】
アンケート回収率は99%(85名)であった。授業開始前と修了後の群間比較において,関心は,4.1±0.9から4.9±0.4に向上した。初動は,3.6±0.9から4.3±0.8に向上した。実施は,2.4±1.0から4.2±0.8に向上した。これら各項目の回答の変化は,全て有意に差があった(p<0.01)。また,授業開始前と修了後の群内比較において,関心は「ある」が増加し,初動は「できる」,「ややできる」が増加し,実施は「できる」,「ややできる」が増加した。これら各項目内の回答の割合は,全て有意に差があった(p<0.01)。
【考察】
本研究により,学生に対する実技練習を中心とした蘇生教育の効果が,実際の行動に関する心理的側面から明らかとなった。特に,生存率に高く寄与する早期通報(初動),早期CPR(実施)が大きく向上した。これらは,理学療法士を含むコメディカルが行動できる重要な役割である。学生に対しても蘇生教育が果たす役割,効果は大きいと考える。平成24年度より,日本理学療法士協会の新人教育プログラムにBLS(B-1一次救命処置と基本処置)が加わり,理学療法士における蘇生教育は徐々に広がりをみせている。しかし,質の高いCPRを正しく実施できるためには,ガイドラインや書物を読むだけでは不十分であり,実技練習を中心としたCPR教育とトレーニングが重要とされる。本研究結果は,実技練習を多く取り入れたことが要因として大きいと考えられ,これは資格を有する理学療法士への蘇生教育方法の再考にもつながると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,実技練習を中心とした蘇生教育が実際の行動に関する心理的側面へ効果をもたらすことが明らかとなり,今後の理学療法士への蘇生教育方法の再考への一助になると考える。