[O-0053] 高齢者における臥位姿勢の変化が咳嗽および呼吸機能に与える影響
Keywords:咳嗽, 高齢者, 体位
【はじめに,目的】高齢者では,加齢の影響として,呼吸筋群の出力や肺・胸郭の柔軟性の低下がみられる。そしてこれらの要因により咳嗽・呼吸機能の低下が生じ,様々な呼吸器疾患,特に痰の排出不全による肺炎や無気肺を誘発する原因となる。痰を排出するためには咳嗽が重要であり,咳嗽を行うにあたって座位が最も有利であることは明らかとなっている。しかし,覚醒度や安静度,全身状態などによっては座位をとらせることが困難なため,臥位姿勢で呼吸理学療法を行う必要がある場面は多々存在する。臥位での排痰方法としては重力を用いて中枢気道への痰の移動を促す体位ドレナージが知られている。本方法の有用性は多く示されているが,体位によって患者の咳嗽の強さや呼吸様式が変化することを臨床上多く経験する。特に腹臥位や,その代用とされる半腹臥位で咳嗽や呼吸の困難を訴える患者に遭遇することは少なくない。そのため,臥位での体位変化が咳嗽機能や呼吸様式にどの程度変化を与えるか検討することは必要であると考えられる。咳嗽機能を評価するにあたり,咳嗽加速度の概念が提唱されており,これは気道粘膜から異物を取り除く際に生じる剪断力に関する値であるとされている。
我々は第24回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会において若年健常者では腹臥位や半腹臥位で咳嗽・呼吸機能が低下し,その要因は胸郭運動の制限である可能性を報告した。そこで,本研究では,高齢者を対象に体位の変化が咳嗽・呼吸機能にどのような影響を与えるのか検討し,さらに咳嗽の評価を行うにあたり空気力学的指標を用いることで咳嗽に関して多方面から分析した。
【方法】対象者は65歳以上で呼吸器・循環器疾患のない男女6名(男3名,女3名,年齢:73.0±9.0歳)とした。ベッド上で背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の5つの体位を無作為にとらせ,その姿勢で最大努力咳嗽を行わせて呼気立ち上がり時間,咳嗽時最大流量(PCF)を呼気ガス分析装置を用いて測定した。また,オートスパイロメーターを用いて努力肺活量(FVC)と呼吸筋力として最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)の測定を行った。さらに,Respiratory Inductance Plethysmographyを用いて咳嗽時の胸部と腹部の拡張差を同時に計測した。そして,咳嗽時の空気力学的指標としてPCFを呼気立ち上がり時間で除することで咳嗽加速度を算出した。
統計学的検定には各データについてFriedman検定を実施した,有意差がみられた場合Tukey法による多重比較を実施した。有意水準は5%とした。
【結果】咳嗽機能に関して,PCFは側臥位が半腹臥位よりも有意に高い結果を示した。咳嗽加速度は側臥位が半腹臥位,および腹臥位よりも有意に高い値を示した。呼気立ち上がり時間に関しては各体位間に有意差を認めなかった。また,咳嗽時の胸部拡張差は背臥位と比較して腹臥位が有意に低かったが,腹部拡張差には各体位間に有意差を認めなかった。その他の項目には有意差を認めなかった。
【考察】若年男女と同様に側臥位と比較すると半腹臥位や腹臥位で咳嗽機能が低下する傾向が認められた。この理由として若年者では胸郭運動がベッド面の圧迫により制限されたためであると考えられ,高齢者でも同様の理由が可能性として挙げられる。また,PCFにおいては側臥位以外で,米国胸部学会で示されている日常的に気道のクリアランスを保つための推奨値である270L/minを下回っているという結果であった。このことより,臥位姿勢の中では側臥位が最も咳嗽に有利であり,半腹臥位や腹臥位は比較的不利となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,体位によって咳嗽・呼吸機能が変化することを明らかにした。臨床上,半腹臥位や腹臥位をとることによって咳嗽が困難となる患者が認められる。したがって,本研究の結果を踏まえ体位を変化させながら咳嗽・呼吸への介入を行うことで安楽,かつ効果的な呼吸理学療法が展開できる可能性があると考えられる。
我々は第24回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会において若年健常者では腹臥位や半腹臥位で咳嗽・呼吸機能が低下し,その要因は胸郭運動の制限である可能性を報告した。そこで,本研究では,高齢者を対象に体位の変化が咳嗽・呼吸機能にどのような影響を与えるのか検討し,さらに咳嗽の評価を行うにあたり空気力学的指標を用いることで咳嗽に関して多方面から分析した。
【方法】対象者は65歳以上で呼吸器・循環器疾患のない男女6名(男3名,女3名,年齢:73.0±9.0歳)とした。ベッド上で背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の5つの体位を無作為にとらせ,その姿勢で最大努力咳嗽を行わせて呼気立ち上がり時間,咳嗽時最大流量(PCF)を呼気ガス分析装置を用いて測定した。また,オートスパイロメーターを用いて努力肺活量(FVC)と呼吸筋力として最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)の測定を行った。さらに,Respiratory Inductance Plethysmographyを用いて咳嗽時の胸部と腹部の拡張差を同時に計測した。そして,咳嗽時の空気力学的指標としてPCFを呼気立ち上がり時間で除することで咳嗽加速度を算出した。
統計学的検定には各データについてFriedman検定を実施した,有意差がみられた場合Tukey法による多重比較を実施した。有意水準は5%とした。
【結果】咳嗽機能に関して,PCFは側臥位が半腹臥位よりも有意に高い結果を示した。咳嗽加速度は側臥位が半腹臥位,および腹臥位よりも有意に高い値を示した。呼気立ち上がり時間に関しては各体位間に有意差を認めなかった。また,咳嗽時の胸部拡張差は背臥位と比較して腹臥位が有意に低かったが,腹部拡張差には各体位間に有意差を認めなかった。その他の項目には有意差を認めなかった。
【考察】若年男女と同様に側臥位と比較すると半腹臥位や腹臥位で咳嗽機能が低下する傾向が認められた。この理由として若年者では胸郭運動がベッド面の圧迫により制限されたためであると考えられ,高齢者でも同様の理由が可能性として挙げられる。また,PCFにおいては側臥位以外で,米国胸部学会で示されている日常的に気道のクリアランスを保つための推奨値である270L/minを下回っているという結果であった。このことより,臥位姿勢の中では側臥位が最も咳嗽に有利であり,半腹臥位や腹臥位は比較的不利となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,体位によって咳嗽・呼吸機能が変化することを明らかにした。臨床上,半腹臥位や腹臥位をとることによって咳嗽が困難となる患者が認められる。したがって,本研究の結果を踏まえ体位を変化させながら咳嗽・呼吸への介入を行うことで安楽,かつ効果的な呼吸理学療法が展開できる可能性があると考えられる。