[O-0054] 脳卒中片麻痺患者における咳嗽力と体幹機能の関係
キーワード:咳嗽, 脳卒中, 体幹機能
【はじめに,目的】
咳嗽は,気道内に挿入した異物を排出する生体防御反応の一つであり,誤嚥性肺炎の予防において,咳嗽力を維持することは重要である。咳嗽のメカニズムは4相に分かれており,第1相は咳の誘発,第2相は深い吸気,声門の閉鎖,第3相で胸腔内圧ならびに腹腔内圧を上昇させ,第4相で声門を開き肺内の空気を一気に呼出させる。第3~4相にかけて,咳嗽力を増大させるための因子として体幹筋力が必要とされており,呼吸筋トレーニングの実施や咳嗽時に体幹筋力を効率的に発揮するための座位姿勢の調整は重要といわれている。しかし,脳卒中片麻痺により,体幹機能が低下した症例は効率的な咳嗽が困難となり,誤嚥性肺炎を併発するリスクが高くなることが予測される。そこで,脳卒中片麻痺患者を対象に,咳嗽力と体幹機能の関係について検討した。
【方法】
対象は,当院に入院した脳卒中片麻痺患者30名とした。対象者の属性は,平均年齢66.0±9.7歳,男性19名,女性11名であり,疾患の内訳は脳出血患者13名,脳梗塞患者17名であった。咳嗽力の測定は,ミナト医科学株式会社オートスパイロAS-507を使用し,車いす座位または背もたれのある椅子座位にて,最大吸気位より咳嗽を行った際の最大呼気量を咳嗽力として採用した。体幹機能検査は,「Trunk control test(以下,TCT)」,足底を浮かした端座位姿勢より非麻痺側へのリーチ距離を測定した「非麻痺側への座位リーチテスト」,「ハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)を使用した体幹機能評価(田中ら,2001)」を実施した。咳嗽力と各々の体幹機能検査で得られた結果については,Pearsonの相関分析を用いて検討した。
【結果】
咳嗽力の平均値は3.8±1.5L/s,TCTの平均値は87.2±19.1点,座位リーチテストの平均値は23.7±7.6cm,HHDを使用した体幹機能評価の平均値は2.1±0.8N/kgであった。各体幹機能検査と咳嗽力との相関については,咳嗽力とTCTの相関係数はr=0.29(p>0.05),咳嗽力と非麻痺側への座位リーチテストの相関係数はr=0.71(p<0.05),咳嗽力とHHDを使用した体幹機能評価の相関係数はr=0.18(p>0.05)であり,非麻痺側への座位リーチテストのみ咳嗽力との相関が認められた。
【考察】
咳嗽に必要な筋力は,腹斜筋群をはじめ,腹部の深層筋であると報告されている。咳嗽の第3相においては呼気筋の強い収縮によって腹腔内圧を向上させ,横隔膜を押し上げることで強力な呼気(咳嗽)を生じさせることから,腹斜筋群の筋活動を高め,腹腔内圧を向上させることは咳嗽力を向上させる1つの要因であると考えられる。側方座位リーチテストの筋活動については,リーチ側と反対側の腹斜筋群の筋活動が必要と報告されていることから,脳卒中片麻痺患者においては,非麻痺側への座位リーチ時には麻痺側の腹斜筋群の活動が必要であり,非麻痺側への座位リーチ距離が長いほど麻痺側の腹斜筋群の筋活動量が大きいと考えられる。そのため,咳嗽の第3相に腹腔内圧を向上させ,肺内の空気を上気道へ押し上げることが可能となることで,咳嗽力の向上に繋がったと考える。一方,TCT,HHDを使用した体幹機能評価は咳嗽力と相関を認めなかった。これは,TCTは寝返りなどの動作を含むテストであり,HHDを使用した体幹機能評価は,麻痺側,非麻痺側の双方から抵抗をかけた合計値を体重で除すという検査の性質上,どちらの検査においても,麻痺側の体幹機能に限局した評価ではないことが要因に挙げられる。よって,麻痺側腹斜筋群の機能を評価できる非麻痺側への座位リーチテストのみ咳嗽力と相関を認めたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者において,非麻痺側への座位リーチテスト結果は,咳嗽力の指標となる可能性が示唆され,リーチ距離の短い症例は咳嗽力が低下している可能性があり,誤嚥性肺炎を併発するリスクが高い状態であることが考えられた。そのため,誤嚥性肺炎の予防に向け,嚥下機能についての評価のほか,腹斜筋群の筋活動向上による咳嗽力の向上を図ることや,食事時の座位姿勢の調整や食形態の検討が必要であると考える。また,脳卒中発症後は,早期より離床を行い,座位保持時間を確保することや,座位リーチ動作練習を積極的に実施し,体幹機能低下を予防することが,咳嗽力を維持する上でも重要であると考えられた。
咳嗽は,気道内に挿入した異物を排出する生体防御反応の一つであり,誤嚥性肺炎の予防において,咳嗽力を維持することは重要である。咳嗽のメカニズムは4相に分かれており,第1相は咳の誘発,第2相は深い吸気,声門の閉鎖,第3相で胸腔内圧ならびに腹腔内圧を上昇させ,第4相で声門を開き肺内の空気を一気に呼出させる。第3~4相にかけて,咳嗽力を増大させるための因子として体幹筋力が必要とされており,呼吸筋トレーニングの実施や咳嗽時に体幹筋力を効率的に発揮するための座位姿勢の調整は重要といわれている。しかし,脳卒中片麻痺により,体幹機能が低下した症例は効率的な咳嗽が困難となり,誤嚥性肺炎を併発するリスクが高くなることが予測される。そこで,脳卒中片麻痺患者を対象に,咳嗽力と体幹機能の関係について検討した。
【方法】
対象は,当院に入院した脳卒中片麻痺患者30名とした。対象者の属性は,平均年齢66.0±9.7歳,男性19名,女性11名であり,疾患の内訳は脳出血患者13名,脳梗塞患者17名であった。咳嗽力の測定は,ミナト医科学株式会社オートスパイロAS-507を使用し,車いす座位または背もたれのある椅子座位にて,最大吸気位より咳嗽を行った際の最大呼気量を咳嗽力として採用した。体幹機能検査は,「Trunk control test(以下,TCT)」,足底を浮かした端座位姿勢より非麻痺側へのリーチ距離を測定した「非麻痺側への座位リーチテスト」,「ハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)を使用した体幹機能評価(田中ら,2001)」を実施した。咳嗽力と各々の体幹機能検査で得られた結果については,Pearsonの相関分析を用いて検討した。
【結果】
咳嗽力の平均値は3.8±1.5L/s,TCTの平均値は87.2±19.1点,座位リーチテストの平均値は23.7±7.6cm,HHDを使用した体幹機能評価の平均値は2.1±0.8N/kgであった。各体幹機能検査と咳嗽力との相関については,咳嗽力とTCTの相関係数はr=0.29(p>0.05),咳嗽力と非麻痺側への座位リーチテストの相関係数はr=0.71(p<0.05),咳嗽力とHHDを使用した体幹機能評価の相関係数はr=0.18(p>0.05)であり,非麻痺側への座位リーチテストのみ咳嗽力との相関が認められた。
【考察】
咳嗽に必要な筋力は,腹斜筋群をはじめ,腹部の深層筋であると報告されている。咳嗽の第3相においては呼気筋の強い収縮によって腹腔内圧を向上させ,横隔膜を押し上げることで強力な呼気(咳嗽)を生じさせることから,腹斜筋群の筋活動を高め,腹腔内圧を向上させることは咳嗽力を向上させる1つの要因であると考えられる。側方座位リーチテストの筋活動については,リーチ側と反対側の腹斜筋群の筋活動が必要と報告されていることから,脳卒中片麻痺患者においては,非麻痺側への座位リーチ時には麻痺側の腹斜筋群の活動が必要であり,非麻痺側への座位リーチ距離が長いほど麻痺側の腹斜筋群の筋活動量が大きいと考えられる。そのため,咳嗽の第3相に腹腔内圧を向上させ,肺内の空気を上気道へ押し上げることが可能となることで,咳嗽力の向上に繋がったと考える。一方,TCT,HHDを使用した体幹機能評価は咳嗽力と相関を認めなかった。これは,TCTは寝返りなどの動作を含むテストであり,HHDを使用した体幹機能評価は,麻痺側,非麻痺側の双方から抵抗をかけた合計値を体重で除すという検査の性質上,どちらの検査においても,麻痺側の体幹機能に限局した評価ではないことが要因に挙げられる。よって,麻痺側腹斜筋群の機能を評価できる非麻痺側への座位リーチテストのみ咳嗽力と相関を認めたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者において,非麻痺側への座位リーチテスト結果は,咳嗽力の指標となる可能性が示唆され,リーチ距離の短い症例は咳嗽力が低下している可能性があり,誤嚥性肺炎を併発するリスクが高い状態であることが考えられた。そのため,誤嚥性肺炎の予防に向け,嚥下機能についての評価のほか,腹斜筋群の筋活動向上による咳嗽力の向上を図ることや,食事時の座位姿勢の調整や食形態の検討が必要であると考える。また,脳卒中発症後は,早期より離床を行い,座位保持時間を確保することや,座位リーチ動作練習を積極的に実施し,体幹機能低下を予防することが,咳嗽力を維持する上でも重要であると考えられた。