[O-0055] 咳嗽時流量波形シミュレーションの汎用性の検討
キーワード:咳嗽, シミュレーション, 流量波形
【はじめに,目的】
我々は,肺活量,呼気筋力,気道抵抗などから咳嗽時流量波形のシミュレーションの可能性について本学会で報告した。現在,胸腔内圧を測定し,パターン化することで精度の高いシミュレーションが可能になったが,他の対象者への応用(汎用性)についてはまだ明らかになっていない。
そこで今回,肺活量,呼気筋力,気道抵抗を測定し,呼気筋力から胸腔内圧を推定した咳嗽時流量波形のシミュレーションの汎用性について検討したので報告する。
【方法】
対象は,健常若年男性9名(年齢:21.5±0.5歳)を対象に,肺活量,最大呼気筋力(PEmax),安静時気道抵抗を測定し,咳嗽時流量波形をシミュレーションした。また,実際の咳嗽時の流量波形を測定し,シミュレーション波形と比較した。
シミュレーションパラメータの測定:PEmaxは口腔内圧計(Vitalopower KH-101,チェスト社)を用いて,最大吸気位より最大努力の呼気を行わせて測定した。安静時気道抵抗は,呼吸抵抗測定装置(Mostgraph-01,チェスト社)を用いて測定し,全体の気道抵抗を反映するR5をシミュレーションに利用した。
咳嗽時流量波形シミュレーションの方法:気道内の気流は,生理学でも電気回路に例えられ,気道の圧力差=気流×気道抵抗というオームの法則が適用できる。気流発生時の気道内圧は直接測定できないが,肺弾性圧と胸腔内圧の和で表され,肺弾性圧は,肺コンプライアンスから算出可能である。本研究では,肺コンプライアンスは標準値を,胸腔内圧の変化は先行研究(前回報告)を利用し,PEmaxを併せて咳嗽時の気道内圧を推定した。尚シミュレーションのモデルは,咳嗽時に気道内圧と胸腔内圧が等しくなる点(等圧点)の上流(肺胞側)に注目した電気回路におけるコンデンサの放電モデルを用いた。上流側の気道抵抗は,圧縮期に無限大,呼出期に声帯の開大に合わせて指数関数的に抵抗が低下し,安静時気道抵抗の90%に収束する(前回報告)としてシミュレーションした。
咳嗽時呼気流量の測定:被験者に最大吸気位から最大努力の咳嗽をさせた。その間の流量データをフロートランスデューサー(ML311 Spirometer Pod)およびA/Dコンバータ(Power Lab16/35,ModelPL3516:ADInstruments)を介してサンプリング周波数1000Hzでパーソナルコンピュータに取り込み,咳嗽時最大呼気流量(CPF),咳嗽時呼気量を測定した。
解析方法:シミュレーション波形と実測波形の比較は視覚的に,相関性については回帰分析を用い,いずれも対象者毎に行った。CPFおよび肺活量,咳嗽時呼気量の比較は,対応のあるt検定を用い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
回帰分析では,全例で実測値とシミュレーション波形の間に良好な相関関係(R2=0.80~0.93,P<0.001)がみられ,CPFは2群間で差を認めなかった。視覚的には,6例は実測値とよく近似しており,3例は実測値が低かった。咳嗽時呼気量は肺活量より有意に低く(P<0.01),平均で肺活量の57%であった。シミュレーションより実測値の低かった3例は,いずれも肺活量の20~30%程度の咳嗽時呼気量であった。
【考察】
今回は胸腔内圧をパターン化したシミュレーションモデルで,PEmaxで個人の咳嗽時胸腔内圧を推定した。胸腔内圧を測定しなくても,波形(形状),CPFともに良好なシミュレーションが可能であった。但し,3例は50%程度高く見積もっていた。シミュレーションでは肺活量の70~80%呼出することを想定していたが,この3例は20%台と明らかに不十分な咳嗽であった。これは,シミュレーションの問題ではなく,咳嗽のスキルの問題と考えられた。また,実測波形が低かった場合の原因を検討する事がこのシミュレーションの目的でもあるため,その判定としてうまく機能していたとも考えられた。但し,健常者でもこのようなスキルの問題もあるため,咳嗽時の呼気量は常に確認しておく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究より,咳嗽時の流量波形のシミュレーションの汎用性がある程度確認できた。健常者のデータを蓄積し,標準的な流量波形のモデルが出来れば,疾患毎,個人毎の咳嗽力低下の原因を判定することが可能となり,治療方法の選択や治療効果の判定への利用が期待できると考える。
我々は,肺活量,呼気筋力,気道抵抗などから咳嗽時流量波形のシミュレーションの可能性について本学会で報告した。現在,胸腔内圧を測定し,パターン化することで精度の高いシミュレーションが可能になったが,他の対象者への応用(汎用性)についてはまだ明らかになっていない。
そこで今回,肺活量,呼気筋力,気道抵抗を測定し,呼気筋力から胸腔内圧を推定した咳嗽時流量波形のシミュレーションの汎用性について検討したので報告する。
【方法】
対象は,健常若年男性9名(年齢:21.5±0.5歳)を対象に,肺活量,最大呼気筋力(PEmax),安静時気道抵抗を測定し,咳嗽時流量波形をシミュレーションした。また,実際の咳嗽時の流量波形を測定し,シミュレーション波形と比較した。
シミュレーションパラメータの測定:PEmaxは口腔内圧計(Vitalopower KH-101,チェスト社)を用いて,最大吸気位より最大努力の呼気を行わせて測定した。安静時気道抵抗は,呼吸抵抗測定装置(Mostgraph-01,チェスト社)を用いて測定し,全体の気道抵抗を反映するR5をシミュレーションに利用した。
咳嗽時流量波形シミュレーションの方法:気道内の気流は,生理学でも電気回路に例えられ,気道の圧力差=気流×気道抵抗というオームの法則が適用できる。気流発生時の気道内圧は直接測定できないが,肺弾性圧と胸腔内圧の和で表され,肺弾性圧は,肺コンプライアンスから算出可能である。本研究では,肺コンプライアンスは標準値を,胸腔内圧の変化は先行研究(前回報告)を利用し,PEmaxを併せて咳嗽時の気道内圧を推定した。尚シミュレーションのモデルは,咳嗽時に気道内圧と胸腔内圧が等しくなる点(等圧点)の上流(肺胞側)に注目した電気回路におけるコンデンサの放電モデルを用いた。上流側の気道抵抗は,圧縮期に無限大,呼出期に声帯の開大に合わせて指数関数的に抵抗が低下し,安静時気道抵抗の90%に収束する(前回報告)としてシミュレーションした。
咳嗽時呼気流量の測定:被験者に最大吸気位から最大努力の咳嗽をさせた。その間の流量データをフロートランスデューサー(ML311 Spirometer Pod)およびA/Dコンバータ(Power Lab16/35,ModelPL3516:ADInstruments)を介してサンプリング周波数1000Hzでパーソナルコンピュータに取り込み,咳嗽時最大呼気流量(CPF),咳嗽時呼気量を測定した。
解析方法:シミュレーション波形と実測波形の比較は視覚的に,相関性については回帰分析を用い,いずれも対象者毎に行った。CPFおよび肺活量,咳嗽時呼気量の比較は,対応のあるt検定を用い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
回帰分析では,全例で実測値とシミュレーション波形の間に良好な相関関係(R2=0.80~0.93,P<0.001)がみられ,CPFは2群間で差を認めなかった。視覚的には,6例は実測値とよく近似しており,3例は実測値が低かった。咳嗽時呼気量は肺活量より有意に低く(P<0.01),平均で肺活量の57%であった。シミュレーションより実測値の低かった3例は,いずれも肺活量の20~30%程度の咳嗽時呼気量であった。
【考察】
今回は胸腔内圧をパターン化したシミュレーションモデルで,PEmaxで個人の咳嗽時胸腔内圧を推定した。胸腔内圧を測定しなくても,波形(形状),CPFともに良好なシミュレーションが可能であった。但し,3例は50%程度高く見積もっていた。シミュレーションでは肺活量の70~80%呼出することを想定していたが,この3例は20%台と明らかに不十分な咳嗽であった。これは,シミュレーションの問題ではなく,咳嗽のスキルの問題と考えられた。また,実測波形が低かった場合の原因を検討する事がこのシミュレーションの目的でもあるため,その判定としてうまく機能していたとも考えられた。但し,健常者でもこのようなスキルの問題もあるため,咳嗽時の呼気量は常に確認しておく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究より,咳嗽時の流量波形のシミュレーションの汎用性がある程度確認できた。健常者のデータを蓄積し,標準的な流量波形のモデルが出来れば,疾患毎,個人毎の咳嗽力低下の原因を判定することが可能となり,治療方法の選択や治療効果の判定への利用が期待できると考える。