[O-0056] 高齢者における努力性吸気時の脊柱の自動伸展能力と呼吸機能の関係性について
キーワード:円背, 脊柱後彎変形, 呼吸機能
【はじめに,目的】
近年,高齢者の呼吸機能の低下要因の一つとして,脊柱の後彎変形が指摘されている。脊柱の後彎変形の原因は,椎体骨折や椎間板変性により脊柱の伸展可動性が減少することによる静的で受動的な要因と,脊柱の伸展筋力低下による脊柱の自動伸展能力が低下することによる動的で能動的な要因が混在していると考えられる。しかし,高齢者を対象とした脊柱の後彎変形と呼吸機能との関係を調査した報告では,静的で受動的な要因と呼吸機能の関係性を調査するものが多く,動的で能動的な要因と呼吸機能との関係性を調査した研究は少ない。以上のことから本研究では,通所リハビリテーションを利用する高齢者を対象として,脊柱後彎変形の静的で受動的な要因に加え,動的で能動的な要因を評価し,呼吸機能との関係性について調査することで,高齢者の脊柱後彎変形の動的で能動的な要因の評価の有用性について検討したので報告する。
【方法】
対象は通所リハビリテーションの利用者,男性16名,女性45名,計61名(年齢84.1±6.5歳)とした。
呼吸機能の評価は,スパイロメーターを用いて肺活量(VC),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1.0),最大呼気流速(PF),咳嗽時最大呼気流速(CPF)を測定した。
脊柱後彎変形の評価は円背指数を用いて,静的で受動的な要因である安静時の脊柱の後彎と,動的で能動的な要因である努力性吸気時の脊柱の後彎を測定した。円背指数は対象の第7頸椎棘突起(C7),第4腰椎棘突起(L4)及び脊柱の彎曲の頂点に反射マーカーを貼付し,C7とL4を結ぶ直線をLとし,背部の彎曲の頂点と直線Lが直交する直線をHとして,直線Lと直線Hの距離を計測し,この計測値から円背指数(H/L×100)を算出した。安静時の円背指数(以下,安静時円背指数)の測定肢位は膝関節屈曲90°,足底を全面接地した安楽端坐位とした。安静時円背指数は高値を示すほど脊柱の後彎変形が高度であることを意味している。また,努力性吸気時の円背指数(以下,伸展位円背指数)の測定肢位は,安楽端座位より努力性吸気を行った際の脊柱の最大自動伸展位とした。伸展位円背指数は高値を示すほど努力性吸気時の脊柱の自動伸展能力が低いことを意味している。
統計処理は,安静時および伸展位円背指数と呼吸機能の各項目についてPearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。
【結果】
安静時円背指数と各呼吸機能との相関係数は,VC:r=-0.302(p<0.018),FVC:r=-0.278(p<0.030),FEV1.0:r=-0.287(p<0.025),PF:r=-0.418(p<0.001),CPF:r=-0.346(p<0.006)であった。伸展位円背指数と各呼吸機能との相関係数は,VC:r=-0.342(p<0.007),FVC:r=-0.312(p<0.014),FEV1.0:r=-0.324(p<0.011),PF:r=-0.447(p<0.000),CPF:r=-0.373(p<0.003)であった。
【考察】
高齢者の脊柱の後彎変形と呼吸機能との関係を調査したこれまでの報告では,脊柱の後彎変形が呼吸機能に影響を与えるか否かについて,一定の見解は得られていない。その理由はそれらの報告が高齢者の脊柱の後彎変形の要因のうち静的で受動的な要因のみを評価しており,動的で能動的な要因が考慮されていないことが考えられる。そこで本研究は,静的で受動的な要因に加え動的で能動的な要因である脊柱の自動伸展能力と呼吸機能との関係性を調査した。その結果,安静時円背指数と伸展位円背指数はいずれも,VC,FVC,FEV1.0,PF,CPFとの間に有意な負の相関を認め,脊柱の後彎変形が高度なほど呼吸器機能は低下し,かつ脊柱の自動伸展能力が低いほど呼吸機能が低下していた。このことから,静的な脊柱の後彎変形だけでなく,動的な脊柱の自動伸展能力も高齢者の呼吸機能においては重要な因子であると考えられる。したがって安静時には脊柱の後彎変形を認める高齢者であって,脊柱の自動伸展能力のうち脊柱の伸展可動性を有しており,脊柱の伸展筋力のみが低下している高齢者においては,この筋力を増強することで呼吸機能を回復する可能性を有していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の呼吸機能評価において脊柱の自動伸展能力の評価を加えることは,脊柱の後彎変形による呼吸機能の低下の評価や,脊柱の伸展筋力のトレーニングによる呼吸機能向上の可能性の有無の鑑別に有用であると考えられる。
近年,高齢者の呼吸機能の低下要因の一つとして,脊柱の後彎変形が指摘されている。脊柱の後彎変形の原因は,椎体骨折や椎間板変性により脊柱の伸展可動性が減少することによる静的で受動的な要因と,脊柱の伸展筋力低下による脊柱の自動伸展能力が低下することによる動的で能動的な要因が混在していると考えられる。しかし,高齢者を対象とした脊柱の後彎変形と呼吸機能との関係を調査した報告では,静的で受動的な要因と呼吸機能の関係性を調査するものが多く,動的で能動的な要因と呼吸機能との関係性を調査した研究は少ない。以上のことから本研究では,通所リハビリテーションを利用する高齢者を対象として,脊柱後彎変形の静的で受動的な要因に加え,動的で能動的な要因を評価し,呼吸機能との関係性について調査することで,高齢者の脊柱後彎変形の動的で能動的な要因の評価の有用性について検討したので報告する。
【方法】
対象は通所リハビリテーションの利用者,男性16名,女性45名,計61名(年齢84.1±6.5歳)とした。
呼吸機能の評価は,スパイロメーターを用いて肺活量(VC),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1.0),最大呼気流速(PF),咳嗽時最大呼気流速(CPF)を測定した。
脊柱後彎変形の評価は円背指数を用いて,静的で受動的な要因である安静時の脊柱の後彎と,動的で能動的な要因である努力性吸気時の脊柱の後彎を測定した。円背指数は対象の第7頸椎棘突起(C7),第4腰椎棘突起(L4)及び脊柱の彎曲の頂点に反射マーカーを貼付し,C7とL4を結ぶ直線をLとし,背部の彎曲の頂点と直線Lが直交する直線をHとして,直線Lと直線Hの距離を計測し,この計測値から円背指数(H/L×100)を算出した。安静時の円背指数(以下,安静時円背指数)の測定肢位は膝関節屈曲90°,足底を全面接地した安楽端坐位とした。安静時円背指数は高値を示すほど脊柱の後彎変形が高度であることを意味している。また,努力性吸気時の円背指数(以下,伸展位円背指数)の測定肢位は,安楽端座位より努力性吸気を行った際の脊柱の最大自動伸展位とした。伸展位円背指数は高値を示すほど努力性吸気時の脊柱の自動伸展能力が低いことを意味している。
統計処理は,安静時および伸展位円背指数と呼吸機能の各項目についてPearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。
【結果】
安静時円背指数と各呼吸機能との相関係数は,VC:r=-0.302(p<0.018),FVC:r=-0.278(p<0.030),FEV1.0:r=-0.287(p<0.025),PF:r=-0.418(p<0.001),CPF:r=-0.346(p<0.006)であった。伸展位円背指数と各呼吸機能との相関係数は,VC:r=-0.342(p<0.007),FVC:r=-0.312(p<0.014),FEV1.0:r=-0.324(p<0.011),PF:r=-0.447(p<0.000),CPF:r=-0.373(p<0.003)であった。
【考察】
高齢者の脊柱の後彎変形と呼吸機能との関係を調査したこれまでの報告では,脊柱の後彎変形が呼吸機能に影響を与えるか否かについて,一定の見解は得られていない。その理由はそれらの報告が高齢者の脊柱の後彎変形の要因のうち静的で受動的な要因のみを評価しており,動的で能動的な要因が考慮されていないことが考えられる。そこで本研究は,静的で受動的な要因に加え動的で能動的な要因である脊柱の自動伸展能力と呼吸機能との関係性を調査した。その結果,安静時円背指数と伸展位円背指数はいずれも,VC,FVC,FEV1.0,PF,CPFとの間に有意な負の相関を認め,脊柱の後彎変形が高度なほど呼吸器機能は低下し,かつ脊柱の自動伸展能力が低いほど呼吸機能が低下していた。このことから,静的な脊柱の後彎変形だけでなく,動的な脊柱の自動伸展能力も高齢者の呼吸機能においては重要な因子であると考えられる。したがって安静時には脊柱の後彎変形を認める高齢者であって,脊柱の自動伸展能力のうち脊柱の伸展可動性を有しており,脊柱の伸展筋力のみが低下している高齢者においては,この筋力を増強することで呼吸機能を回復する可能性を有していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の呼吸機能評価において脊柱の自動伸展能力の評価を加えることは,脊柱の後彎変形による呼吸機能の低下の評価や,脊柱の伸展筋力のトレーニングによる呼吸機能向上の可能性の有無の鑑別に有用であると考えられる。