[O-0057] 新たな最大吸気測定法の臨床応用への可能性の検証
~若年健常者による再現性,肺気量分画測定法との差異からの分析~
Keywords:理学療法, 慢性閉塞性肺疾患, 動的肺過膨張
【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者のADL,身体活動量などを阻害する症状は,動作時の呼吸困難である。その呼吸困難の最大の要因は,エアートラッピングによる肺の過膨張が挙げられる。特に,動作に伴う動的肺過膨張の抑制は,COPD患者の最優先治療の一つとされている。この動的肺過膨張の程度の指標として,最大吸気量(IC)が用いられる。しかし,動作直後,または過換気直後のICの測定は,従来の肺気量分画測定法(従来法;最大吸気,最大呼気の繰り返し)では,患者に苦痛を強いるばかりでなく,直後の測定が必要なため再測定が許されないなど,非常に難しい状況が求められる。そこで,今回,我々は,動作直後,または過換気直後に「最大吸気のみ」を行う,簡便なIC測定法(吸気IC測定法)を考案した。
本研究の目的は,吸気IC測定法は再現性を有するのか,呼吸回数を変更しても同様に測定が可能か,従来法と比較して差異なく測定可能かを検証し,COPD患者への臨床応用への可能性について言及することとした。
【方法】
対象は,若年健常者32名(男性18名,女性14名,平均年齢20±0.6歳)とした。本研究の除外対象は,既往として呼吸器疾患を有する者,呼吸機能検査が実施困難な者,研究に同意が得られなかった者とした。
測定指標は,IC,一回換気量(TV),予備吸気量(IRV)とした。測定は,従来法と吸気IC測定法で,それぞれを20回/分,40回/分の呼吸回数で,30秒間呼吸し,そのまま続けて測定指標を測定した。呼吸リズムは,電子メトロノームを用いて吸気,呼気を強制的にコントロールした。従来法と吸気IC測定法は,それぞれ別日に,順序はランダムに実施した。呼吸回数の変更,および同条件での繰り返しの測定は,前の測定条件における動的肺過膨張の影響をなくすため,最低3分間以上で測定間隔をあけて実施した。
統計学的分析方法として,吸気IC測定法の再現性は,検者内の3回の繰り返し測定による級内相関係数(ICC(1,3))を用いて分析した。また,吸気IC測定法(20回)と(40回)の測定指標の比較,および従来法と吸気IC想定法の測定指標の比較は,対応のあるt検定を用いて分析した。なお,統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトはSPSSを使用した。
【結果】
吸気IC測定法(20回)における,ICのICC(1,3)はρ=0.985,TVのICC(1,3)はρ=0.957,IRVのICC(1,3)はρ=0.979であり,どの指標も非常に高い検者内再現性を有していた。一方,吸気IC測定法(40回)における,ICのICC(1,3)はρ=0.970,TVのICC(1,3)はρ=0.959,IRVのICC(1,3)はρ=0.963と,こちらの指標も非常に高い検者内再現性を有していた。吸気IC測定法(20回)と(40回)の比較では,IC,TV,IRVで両者に有意差は認められなかった。吸気IC測定法(20回)と従来法(20回),および吸気IC測定法(40回)と従来法(40回)の比較でも,IC,TV,IRVで,それぞれ両者に有意差は認められなかった。
【考察】
吸気IC測定法は,安静呼吸をイメージした呼吸回数20回/分の場合,動作直後の呼吸をイメージした呼吸回数40回/分の場合,共に呼吸回数の条件を変更しても高い再現性を有していた。また,若年健常者を対象とした本研究では,「動的肺過膨張は起こらない」,いわゆる「20回/分と40回/分でICに差異はない」との仮説をクリアすることができた。更に,20回/分と40回/分における従来法との比較でも,測定指標に差異を生じさせないことが検証された。以上のことから,吸気IC測定法は,従来法と変わらない精度をもって,簡便,かつ迅速に測定が可能であることから,COPD患者への臨床応用も可能であると考えた。今後,COPD患者に対し,CT所見,呼吸機能検査,気管支拡張剤テスト,身体能力など多次元的に分析し,動的肺過膨張の評価となりうるかを検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,吸気IC測定法が高い再現性をもって,従来法と遜色なくICの測定が可能であることを示した意義深い研究となった。吸気IC測定法は,従来法と比較して,肺活量や予備呼気量の測定は不可能であるが,IC(TV,IRV)の測定が簡便,かつ迅速に可能であり,COPD患者の動的肺過膨張の評価として,臨床応用へと期待ができる測定法である。更に,動的肺過膨張の程度が,身体機能や身体能力,身体活動量やADLに如何に影響するかなど,研究の展開にも繋がるのではないかと期待する。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者のADL,身体活動量などを阻害する症状は,動作時の呼吸困難である。その呼吸困難の最大の要因は,エアートラッピングによる肺の過膨張が挙げられる。特に,動作に伴う動的肺過膨張の抑制は,COPD患者の最優先治療の一つとされている。この動的肺過膨張の程度の指標として,最大吸気量(IC)が用いられる。しかし,動作直後,または過換気直後のICの測定は,従来の肺気量分画測定法(従来法;最大吸気,最大呼気の繰り返し)では,患者に苦痛を強いるばかりでなく,直後の測定が必要なため再測定が許されないなど,非常に難しい状況が求められる。そこで,今回,我々は,動作直後,または過換気直後に「最大吸気のみ」を行う,簡便なIC測定法(吸気IC測定法)を考案した。
本研究の目的は,吸気IC測定法は再現性を有するのか,呼吸回数を変更しても同様に測定が可能か,従来法と比較して差異なく測定可能かを検証し,COPD患者への臨床応用への可能性について言及することとした。
【方法】
対象は,若年健常者32名(男性18名,女性14名,平均年齢20±0.6歳)とした。本研究の除外対象は,既往として呼吸器疾患を有する者,呼吸機能検査が実施困難な者,研究に同意が得られなかった者とした。
測定指標は,IC,一回換気量(TV),予備吸気量(IRV)とした。測定は,従来法と吸気IC測定法で,それぞれを20回/分,40回/分の呼吸回数で,30秒間呼吸し,そのまま続けて測定指標を測定した。呼吸リズムは,電子メトロノームを用いて吸気,呼気を強制的にコントロールした。従来法と吸気IC測定法は,それぞれ別日に,順序はランダムに実施した。呼吸回数の変更,および同条件での繰り返しの測定は,前の測定条件における動的肺過膨張の影響をなくすため,最低3分間以上で測定間隔をあけて実施した。
統計学的分析方法として,吸気IC測定法の再現性は,検者内の3回の繰り返し測定による級内相関係数(ICC(1,3))を用いて分析した。また,吸気IC測定法(20回)と(40回)の測定指標の比較,および従来法と吸気IC想定法の測定指標の比較は,対応のあるt検定を用いて分析した。なお,統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトはSPSSを使用した。
【結果】
吸気IC測定法(20回)における,ICのICC(1,3)はρ=0.985,TVのICC(1,3)はρ=0.957,IRVのICC(1,3)はρ=0.979であり,どの指標も非常に高い検者内再現性を有していた。一方,吸気IC測定法(40回)における,ICのICC(1,3)はρ=0.970,TVのICC(1,3)はρ=0.959,IRVのICC(1,3)はρ=0.963と,こちらの指標も非常に高い検者内再現性を有していた。吸気IC測定法(20回)と(40回)の比較では,IC,TV,IRVで両者に有意差は認められなかった。吸気IC測定法(20回)と従来法(20回),および吸気IC測定法(40回)と従来法(40回)の比較でも,IC,TV,IRVで,それぞれ両者に有意差は認められなかった。
【考察】
吸気IC測定法は,安静呼吸をイメージした呼吸回数20回/分の場合,動作直後の呼吸をイメージした呼吸回数40回/分の場合,共に呼吸回数の条件を変更しても高い再現性を有していた。また,若年健常者を対象とした本研究では,「動的肺過膨張は起こらない」,いわゆる「20回/分と40回/分でICに差異はない」との仮説をクリアすることができた。更に,20回/分と40回/分における従来法との比較でも,測定指標に差異を生じさせないことが検証された。以上のことから,吸気IC測定法は,従来法と変わらない精度をもって,簡便,かつ迅速に測定が可能であることから,COPD患者への臨床応用も可能であると考えた。今後,COPD患者に対し,CT所見,呼吸機能検査,気管支拡張剤テスト,身体能力など多次元的に分析し,動的肺過膨張の評価となりうるかを検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,吸気IC測定法が高い再現性をもって,従来法と遜色なくICの測定が可能であることを示した意義深い研究となった。吸気IC測定法は,従来法と比較して,肺活量や予備呼気量の測定は不可能であるが,IC(TV,IRV)の測定が簡便,かつ迅速に可能であり,COPD患者の動的肺過膨張の評価として,臨床応用へと期待ができる測定法である。更に,動的肺過膨張の程度が,身体機能や身体能力,身体活動量やADLに如何に影響するかなど,研究の展開にも繋がるのではないかと期待する。