[O-0060] 回復期脳卒中患者における運動麻痺重症度の予測
Keywords:脳卒中, 麻痺, 予後予測
【はじめに,目的】脳卒中治療ガイドライン2009より,リハビリテーションプログラムを実施する際は機能障害を予測し参考にすることが勧められている。一方で,従来の予測法は予測精度が低い,検証群を用いた検証がなされていない,予測に用いる変数の信頼性が不十分などの問題が指摘されている。そこで今回,上記問題を考慮して回復期脳卒中患者における運動麻痺重症度の予測法を考案したため報告する。
【方法】対象は2004年9月1日から2013年3月31日に当院回復期リハビリテーション病棟に入退棟したテント上一側病変を有する初発脳卒中患者のうち,発症から入棟までの日数(以下,発症後期間)が60日以内,リハビリテーションの実施に支障をきたす重篤な併存症(comorbidity index 4以上)がない,入棟中の急変・再発のない1751名とした。そのうち,入棟から退棟までの期間(以下,入棟期間)が8週間未満の760名,主要データが欠損していた37名を除外し,991名を解析対象とした。対象の年齢は66.1±12.9歳,性別は男性580名,女性411名,原疾患は脳梗塞429名,脳出血562名,病巣側は右485名,左506名,発症後期間は34.3±12.1日,入棟期間は88.8±29.1日であった。交差妥当性を検証するため,対象をランダムに予測群811名,検証群180名に分割した。予測式を作成するため,予測群において入棟から8週時点のSIAS運動項目合計点(以下,SIAS-M)を目的変数,入棟時の年齢,性別,原疾患,病巣側,発症後期間,FIM運動項目合計点(以下,FIM-M),FIM認知項目合計点(以下,FIM-C),SIAS-M,SIAS各項目を説明変数に設定し,重回帰分析(変数増減法)を行った。SIAS各項目は障害あり(0~2点)を0,障害無し(3点)を1とした。事前に説明変数間のspearman相関係数が0.9以上ではないことを確認し,全ての変数を投入した。得られた予測式を検証群に当てはめ,予測値と実測値の相関係数の二乗(以下,R2)を算出した。統計解析にはSPSS(ver.19.0)を用いた。
【結果】重回帰分析の結果,入棟時SIAS-M,発症後期間,FIM-C,原疾患,視空間認知の順に予測因子として採択された。標準偏回帰係数は順に0.887,-0.091,0.075,0.058,0.045であり,全ての変数は有意(p<0.01)だった。得られた予測式は8週時SIAS-M=2.506+入棟時SIAS-M×0.909+発症後期間×-0.052+FIM-C×0.062+原疾患(脳梗塞=1,脳出血=2)×0.813+視空間認知×0.657となり,R2は0.874で,ダービンワトソン比は2.130であった。予測式を検証群に当てはめた結果,R2は0.874であった。
【考察】先行研究により運動麻痺回復の重要な予測因子は初期の運動麻痺重症度であること,発症後早期は運動麻痺が回復しやすいことが報告されており,本研究においても同様の傾向を認めた。FIM-C,視空間認知が選択された理由は,認知機能が良ければ運動に集中しやすく,麻痺肢の使用頻度が増加したためと推察する。原疾患が採択された理由は,脳出血の発症後早期には血腫増大により見かけ上,重篤な症状を呈するが,血腫吸収とともに急速な症状の改善を示すケースがあり,脳梗塞に比して運動麻痺が改善しやすかったためであろう。Duncanら(1992)は第30病日のFugl-Meyer motor score(以下,FM)から第180病日のFMを予測し,R2は予測群で0.862,検証群で0.886と報告している。本研究で得られた予測式のR2は予測群,検証群ともに0.874と先行研究と同程度の予測精度であった。FMは腱反射などの評価も含んでおり合計点の解釈が難しい。一方,本研究では運動麻痺の評価にSIAS-Mを採用しており,より明確に運動麻痺の重症度を予測する事ができる。今回は単一病院の患者を対象にしている事,対象から8週未満の患者を除外している事,詳細な病型分類ができていない事から,妥当性が低下している可能性がある。今後の課題は上記問題を考慮して妥当性を向上させる事,SIAS-Mとその各項目との関係性を明らかにし,臨床応用しやすい予測方法を考案する事である。
【理学療法学研究としての意義】本研究により回復期脳卒中患者の運動麻痺重症度を高精度で予測することができた。今後の予後予測研究や臨床でのインフォームドコンセント,リハビリテーションプログラムの立案に寄与すると考える。
【方法】対象は2004年9月1日から2013年3月31日に当院回復期リハビリテーション病棟に入退棟したテント上一側病変を有する初発脳卒中患者のうち,発症から入棟までの日数(以下,発症後期間)が60日以内,リハビリテーションの実施に支障をきたす重篤な併存症(comorbidity index 4以上)がない,入棟中の急変・再発のない1751名とした。そのうち,入棟から退棟までの期間(以下,入棟期間)が8週間未満の760名,主要データが欠損していた37名を除外し,991名を解析対象とした。対象の年齢は66.1±12.9歳,性別は男性580名,女性411名,原疾患は脳梗塞429名,脳出血562名,病巣側は右485名,左506名,発症後期間は34.3±12.1日,入棟期間は88.8±29.1日であった。交差妥当性を検証するため,対象をランダムに予測群811名,検証群180名に分割した。予測式を作成するため,予測群において入棟から8週時点のSIAS運動項目合計点(以下,SIAS-M)を目的変数,入棟時の年齢,性別,原疾患,病巣側,発症後期間,FIM運動項目合計点(以下,FIM-M),FIM認知項目合計点(以下,FIM-C),SIAS-M,SIAS各項目を説明変数に設定し,重回帰分析(変数増減法)を行った。SIAS各項目は障害あり(0~2点)を0,障害無し(3点)を1とした。事前に説明変数間のspearman相関係数が0.9以上ではないことを確認し,全ての変数を投入した。得られた予測式を検証群に当てはめ,予測値と実測値の相関係数の二乗(以下,R2)を算出した。統計解析にはSPSS(ver.19.0)を用いた。
【結果】重回帰分析の結果,入棟時SIAS-M,発症後期間,FIM-C,原疾患,視空間認知の順に予測因子として採択された。標準偏回帰係数は順に0.887,-0.091,0.075,0.058,0.045であり,全ての変数は有意(p<0.01)だった。得られた予測式は8週時SIAS-M=2.506+入棟時SIAS-M×0.909+発症後期間×-0.052+FIM-C×0.062+原疾患(脳梗塞=1,脳出血=2)×0.813+視空間認知×0.657となり,R2は0.874で,ダービンワトソン比は2.130であった。予測式を検証群に当てはめた結果,R2は0.874であった。
【考察】先行研究により運動麻痺回復の重要な予測因子は初期の運動麻痺重症度であること,発症後早期は運動麻痺が回復しやすいことが報告されており,本研究においても同様の傾向を認めた。FIM-C,視空間認知が選択された理由は,認知機能が良ければ運動に集中しやすく,麻痺肢の使用頻度が増加したためと推察する。原疾患が採択された理由は,脳出血の発症後早期には血腫増大により見かけ上,重篤な症状を呈するが,血腫吸収とともに急速な症状の改善を示すケースがあり,脳梗塞に比して運動麻痺が改善しやすかったためであろう。Duncanら(1992)は第30病日のFugl-Meyer motor score(以下,FM)から第180病日のFMを予測し,R2は予測群で0.862,検証群で0.886と報告している。本研究で得られた予測式のR2は予測群,検証群ともに0.874と先行研究と同程度の予測精度であった。FMは腱反射などの評価も含んでおり合計点の解釈が難しい。一方,本研究では運動麻痺の評価にSIAS-Mを採用しており,より明確に運動麻痺の重症度を予測する事ができる。今回は単一病院の患者を対象にしている事,対象から8週未満の患者を除外している事,詳細な病型分類ができていない事から,妥当性が低下している可能性がある。今後の課題は上記問題を考慮して妥当性を向上させる事,SIAS-Mとその各項目との関係性を明らかにし,臨床応用しやすい予測方法を考案する事である。
【理学療法学研究としての意義】本研究により回復期脳卒中患者の運動麻痺重症度を高精度で予測することができた。今後の予後予測研究や臨床でのインフォームドコンセント,リハビリテーションプログラムの立案に寄与すると考える。