[O-0062] 短時間末梢神経電気刺激による皮質脊髄路興奮性の変化
キーワード:末梢神経電気刺激, 経頭蓋磁気刺激, 運動誘発電位
【はじめに,目的】
末梢神経への電気刺激により,皮質脊髄路の興奮性は可塑的に変化することが知られている。近年の先行研究では,高頻度,高強度で末梢神経電気刺激を持続的に与えることにより,皮質脊髄路の興奮性は一時的に増大し,低頻度,低強度の電気刺激で皮質脊髄路の興奮性は一時的に減弱することが報告されている(Chipchase, 2011)。一方で,高頻度の電気刺激により皮質脊髄路の興奮性は減弱することや(Murakami, 2007),低強度の電気刺激で皮質脊髄路の興奮性が増大するとの報告もあり(Ridding, 2000),電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与えるメカニズムの詳細については未だ不明である。また,これらの報告はいずれも20分以上の持続的に末梢神経電気刺激を行った際の報告であり,短時間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与える影響については検討されていない。そこで,本研究では短時間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与える影響について検証することとした。
【方法】
対象は同意が得られた健常成人10名(22±1.2歳)とした。末梢神経電気刺激による介入は,電気刺激装置(SEN-330,日本光電工業)を使用し,電気刺激部位は右尺骨神経とした。刺激頻度は50 Hzおよび200 Hzの2条件とし,運動閾値の110%の刺激強度で5秒間行った。皮質脊髄路の興奮性の評価には経頭蓋磁気刺激によって誘発される運動誘発電位(Motor evoked potential;MEP)を利用した。MEPは経頭蓋磁気刺激装置(Magstim200)および8の字コイルを使用した。刺激部位は左一次運動野手指領域とし,右第一背側骨間筋よりMEPを記録した。磁気刺激強度は安静時に1 mVのMEPが誘発される強度とし,刺激頻度は0.2 Hzとした。MEPの計測は介入60秒前から30秒前(Pre1),30秒前から介入直前(Pre2),介入終了直後から30秒後(Post1),30秒後から60秒後(Post2),60秒後から90秒後(Post3),90秒後から120秒後(Post4)とし,各間隔6波形ずつ記録した(合計36波形)。これを1セットとし,セット間に休息を取り入れ3セット施行した。解析対象は介入前後のMEP振幅とし,各間隔の最大および最小の波形を除いた16波形を加算平均し,peak to peak値を算出した。各間隔より得られたMEP振幅値の比較には多重比較によるTukey法を用いて統計処理を行った。なお有意水準は5%とした。
【結果】
介入前後のMEP振幅(平均値±標準誤差)は,50 Hz条件では,0.87±0.07 mV(Pre1),0.86±0.07 mV(Pre2),0.79±0.08 mV(Post1),0.91±0.08 mV(Post2),0.99±0.08mV(Post3),1.04±0.10 mV(Post4)であった。各間隔の比較では,Post1と比べPost4でMEP振幅が有意に増大した(p<0.05)。200 Hz条件では,0.90±0.06 mV(Pre1),0.84±0.04 mV(Pre2),1.19±0.09 mV(Post1),1.02±0.12 mV(Post2),1.15±0.08 mV(Post3),1.11±0.11 mV(Post4)であった。各間隔の比較では,Pre1と比べ,Post1(p<0.05),Post2(p<0.05)においてMEP振幅が有意に増大した。またPre2と比べPost1(p<0.01),Post2(p<0.01),Post3(p<0.05),Post4(p<0.05)においてMEP振幅が有意に増大した。
【考察】
介入前後のMEP振幅を比較すると,50 Hz条件ではMEP振幅に変化認められず,200 Hz条件では介入後にMEP振幅の有意な増大が認められ,その増大は2分間持続していた。このことは5秒間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の可塑的変化を誘導したことを示唆していると考えられる。動物実験において一次運動野の興奮性シナプス後電位(EPSP)を記録した先行研究では,体性感覚野にtetanic刺激を50 Hzの刺激頻度で5秒間刺激を与えるとシナプス長期増強(Long term potentiation;LTP)が誘発され,刺激頻度および刺激時間を増加させることによりLTPが増大すると報告されている(Keller, 1991)。本実験において50 Hz条件の介入前後でMEP振幅に有意な差は認められず,200 Hz条件において介入後にMEP振幅の増大が認められたのは,周波数に依存するLTPの特徴を反映しているのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,末梢神経電気刺激による皮質脊髄路の興奮性の変化を明らかにすることを目的としており,理学療法場面において,大脳皮質の興奮性増大を目的とした電気刺激療法の効果的な介入方法の発展に繋がるものと考えられる。
末梢神経への電気刺激により,皮質脊髄路の興奮性は可塑的に変化することが知られている。近年の先行研究では,高頻度,高強度で末梢神経電気刺激を持続的に与えることにより,皮質脊髄路の興奮性は一時的に増大し,低頻度,低強度の電気刺激で皮質脊髄路の興奮性は一時的に減弱することが報告されている(Chipchase, 2011)。一方で,高頻度の電気刺激により皮質脊髄路の興奮性は減弱することや(Murakami, 2007),低強度の電気刺激で皮質脊髄路の興奮性が増大するとの報告もあり(Ridding, 2000),電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与えるメカニズムの詳細については未だ不明である。また,これらの報告はいずれも20分以上の持続的に末梢神経電気刺激を行った際の報告であり,短時間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与える影響については検討されていない。そこで,本研究では短時間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の興奮性に与える影響について検証することとした。
【方法】
対象は同意が得られた健常成人10名(22±1.2歳)とした。末梢神経電気刺激による介入は,電気刺激装置(SEN-330,日本光電工業)を使用し,電気刺激部位は右尺骨神経とした。刺激頻度は50 Hzおよび200 Hzの2条件とし,運動閾値の110%の刺激強度で5秒間行った。皮質脊髄路の興奮性の評価には経頭蓋磁気刺激によって誘発される運動誘発電位(Motor evoked potential;MEP)を利用した。MEPは経頭蓋磁気刺激装置(Magstim200)および8の字コイルを使用した。刺激部位は左一次運動野手指領域とし,右第一背側骨間筋よりMEPを記録した。磁気刺激強度は安静時に1 mVのMEPが誘発される強度とし,刺激頻度は0.2 Hzとした。MEPの計測は介入60秒前から30秒前(Pre1),30秒前から介入直前(Pre2),介入終了直後から30秒後(Post1),30秒後から60秒後(Post2),60秒後から90秒後(Post3),90秒後から120秒後(Post4)とし,各間隔6波形ずつ記録した(合計36波形)。これを1セットとし,セット間に休息を取り入れ3セット施行した。解析対象は介入前後のMEP振幅とし,各間隔の最大および最小の波形を除いた16波形を加算平均し,peak to peak値を算出した。各間隔より得られたMEP振幅値の比較には多重比較によるTukey法を用いて統計処理を行った。なお有意水準は5%とした。
【結果】
介入前後のMEP振幅(平均値±標準誤差)は,50 Hz条件では,0.87±0.07 mV(Pre1),0.86±0.07 mV(Pre2),0.79±0.08 mV(Post1),0.91±0.08 mV(Post2),0.99±0.08mV(Post3),1.04±0.10 mV(Post4)であった。各間隔の比較では,Post1と比べPost4でMEP振幅が有意に増大した(p<0.05)。200 Hz条件では,0.90±0.06 mV(Pre1),0.84±0.04 mV(Pre2),1.19±0.09 mV(Post1),1.02±0.12 mV(Post2),1.15±0.08 mV(Post3),1.11±0.11 mV(Post4)であった。各間隔の比較では,Pre1と比べ,Post1(p<0.05),Post2(p<0.05)においてMEP振幅が有意に増大した。またPre2と比べPost1(p<0.01),Post2(p<0.01),Post3(p<0.05),Post4(p<0.05)においてMEP振幅が有意に増大した。
【考察】
介入前後のMEP振幅を比較すると,50 Hz条件ではMEP振幅に変化認められず,200 Hz条件では介入後にMEP振幅の有意な増大が認められ,その増大は2分間持続していた。このことは5秒間の末梢神経電気刺激が皮質脊髄路の可塑的変化を誘導したことを示唆していると考えられる。動物実験において一次運動野の興奮性シナプス後電位(EPSP)を記録した先行研究では,体性感覚野にtetanic刺激を50 Hzの刺激頻度で5秒間刺激を与えるとシナプス長期増強(Long term potentiation;LTP)が誘発され,刺激頻度および刺激時間を増加させることによりLTPが増大すると報告されている(Keller, 1991)。本実験において50 Hz条件の介入前後でMEP振幅に有意な差は認められず,200 Hz条件において介入後にMEP振幅の増大が認められたのは,周波数に依存するLTPの特徴を反映しているのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,末梢神経電気刺激による皮質脊髄路の興奮性の変化を明らかにすることを目的としており,理学療法場面において,大脳皮質の興奮性増大を目的とした電気刺激療法の効果的な介入方法の発展に繋がるものと考えられる。