第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述7

運動制御・運動学習1

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 第7会場 (ホールD5)

座長:鈴木俊明(関西医療大学保健医療学部)

[O-0063] 運動意図とMirror Visual Feedbackの組み合わせが運動制御に影響を与える

大住倫弘1, 中村彩乃2, 森岡周1,2 (1.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 2.畿央大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:ミラーセラピー, 両手運動干渉課題, 運動制御

【はじめに,目的】運動機能障害に対してミラーセラピーが有効であることが明らかにされている(Michielsen et al. 2011)。通常のミラーセラピーは,自ら動かす健側の手を身体の正中線上に設置された鏡に映して,「あたかも患側の手を自らの意思で動かすことができている錯覚」を惹起させるというものである。一方で,このような通常のミラーセラピーによって痛みや痺れが増悪する症例が存在することも問題視されている(Moseley et al. 2008)。これは,患側の手の運動意図に痛みの記憶やイメージが随伴してしまっていることが原因であると考えられている(Moseley et al. 2008)。近年では,このような問題を克服するようなミラーセラピーも報告されており,Guerrazらは他動的に動かされる健側の手を鏡に映すことによって,患側の手の運動意図を伴わずに運動感覚を惹起させることができると報告している(Guerraz et al. 2012)。しかしながら,このような他動運動によるミラーセラピーが,本来のミラーセラピーの目的である「患側の手の運動制御の変化」をもたらすかは明らかになっていない。そこで,本研究では他動運動によるミラーセラピーが患側の手の運動制御に影響を与えるのかについて検証した。
【方法】対象は健常大学生24名とした(男9名,女14名)。本研究では,ミラーセラピーによる運動制御の変化を捉えるために「両手運動干渉課題」を利用した。この課題は,片側の手で円を描きながら,もう片側の手で直線を描かせた際に直線が楕円形に近づくという現象を利用したものである。つまり,隠された手で描く直線が楕円形に歪む程度をミラーセラピーによる運動制御の変化として定量化した。被験者はテーブルの前に座り,身体の正中線上に設置された70cm四方の正方形の鏡に左手が映るようにし,右手は鏡の後面に置いて被験者には見えないようにした(Mirror条件)。Active条件では,被験者は隠されている右手を前後に反復的に動かして直線を描くのと同時に,左手で円を描くように指示された。それに対して,Passive条件では左手を他動的に円形に動かされた。またControl条件では,鏡のかわりに白板を身体の正中線上に立てて,Mirror条件と同様の手続きをActive条件とPassive条件で実施した。すなわち本研究は,Mirror-Active条件,Mirror-Passive条件,Control-Active条件,Control-Passive条件の4条件から構成されており,各条件を20秒間×3セットずつランダムに実施した。右手で描く直線の変化は,横軸の標準偏差を縦軸の標準偏差で除した値に100を乗じることによって算出するOvalization Index(%)という値を用いて数値化した。Ovalization Indexが0%に近づくと直線が円形に歪んでいないことを意味し,100%に近づくと楕円形に歪み正円に近づくことを意味する。本研究ではOvalization Indexを隠されている手の運動制御の変化の定量的数値として扱った。またPassive条件において,左手で円を描く運動が他動運動として成り立っているのかを確認するために,左三角筋中部線維にワイヤレス表面筋電センサを装着して筋活動をモニターした。各条件のOvalization Indexの比較は多重比較法(Bonferroni method)を用いて行い,有意水準は5%とした。
【結果】Passive条件における左三角筋中部繊維の筋活動は,Active条件よりも有意に低い筋活動であり,かつ安静時の筋活動の平均値±2SD範囲内であっため,本研究でのPassive条件として成立していることがいえる。Ovalization Indexにおいて,Mirror-Active条件がMirror-Passive条件よりも有意に高かった。また,Mirror-Active条件はControl-Active条件よりも有意に高かったのに対して,Mirror-Passive条件とControl-Passive条件との間には有意な差は認められなかった。
【考察】隠されている手の運動制御に影響を与えるのは,Mirror-Active条件のみであったことから,運動機能の改善を狙いとしたミラーセラピーにおいては,健側の手を自動運動させ,運動意図を発生させて行うことが望ましいと示唆された。Mirror-Passive条件では,隠されている手の運動制御には変化が認められなかったことから,運動機能改善を狙いとした際には不適であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】近年,理学療法の場面においても,ミラーセラピーあるいはそれに類似したセラピーが積極的に導入されている。しかしながら,健側の運動を発現させるか否かについては議論が絶えない。今回の結果は,運動機能改善のためのミラーセラピーに必要な要素,すなわち健側の運動を求めることを行動学的に明らかにしたといえる。