第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述7

運動制御・運動学習1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:鈴木俊明(関西医療大学保健医療学部)

[O-0066] ワーキングメモリトレーニングにより生じる二重課題干渉の抑制効果

課題内容の違いによる抑制効果量の検討

木村剛英1,2, 金子文成3, 長畑啓太4, 柴田恵理子3, 青木信裕3 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.医療法人社団篠路整形外科, 3.札幌医科大学理学療法学第二講座, 4.独立行政法人地域医療機能推進機構登別病院)

Keywords:二重課題, ワーキングメモリ, ワーキングメモリトレーニング

【はじめに,目的】
二重課題とは,被験者に異なる教示をした2つの課題を同時に遂行させる実験課題を指す。二重課題中には二重課題を構成する個々の課題の成績が,それぞれの課題を単独で行った場合の成績と比較して低下する。この課題成績の低下は二重課題干渉と呼ばれる。二重課題干渉が引き起こす代表的な問題として転倒が挙げられ,二重課題干渉の抑制は転倒予防などに寄与する可能性がある。
二重課題干渉に影響を及ぼす要因の一つに,ワーキングメモリ容量が挙げられる。ワーキングメモリは課題遂行に必要な情報を能動的かつ一時的に保持する記憶であり,ワーキングメモリ容量はワーキングメモリで保持できる情報量の限界を表している。これまで我々は,ワーキングメモリトレーニングにより増加したワーキングメモリ容量によって,二重課題干渉が抑制されることを明らかにした。そこで本研究では,ワーキングメモリトレーニングの二重課題干渉の抑制効果が,二重課題を構成する課題の内容により異なるかを明らかにする。
【方法】
対象は健康な男子大学生30名とした。初期評価として,二種類の運動課題から構成される二重課題成績とワーキングメモリ容量の測定を行った。その後,被験者を「ワーキングメモリトレーニング群」「二重課題トレーニング群」「コントロール群」に割付け,2週間の介入を実施した。介入後,初期評価と同様の最終評価を行った。評価で用いた二重課題は,第一課題として右膝関節伸展トルクを一定に保持する課題,第二課題として左肘関節を視覚的合図に反応して屈曲する反応課題を第一課題に挿入した。第一課題で保持する伸展トルクは,右膝関節伸展ピークトルクの20%(20%条件)及び40%(40%条件)とし,等尺性収縮にて目標トルクを維持させた。介入は1回約20分を週に4回,2週間継続して行った。ワーキングメモリトレーニング群は,パソコンに表示される円の位置と順番を記憶する認知課題を行った。二重課題トレーニング群は,初期および最終評価で用いた二重課題と同じ課題をトレーニングとして行った。第一課題の評価には,実際に測定された膝関節伸展トルクと目標トルクとの差の積分値を用いた。第二課題の評価には,上腕二頭筋の表面筋電図より算出したpre motor timeを用いた。ワーキングメモリ容量の測定は,パソコン画面に表示される複数個の正方形の色判別課題を行い,結果を点数化した。統計学的解析として,ワーキングメモリ容量,第一課題および第二課題の結果については,各群および介入前後の2つを要因とした二元配置分散分析を実施した。2つの要因間で交互作用があった場合,多重比較として単純主効果の検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
ワーキングメモリ容量および40%条件の第一課題の成績に交互作用が見られた。多重比較検定の結果,ワーキングメモリ容量はワーキングメモリトレーニング群のみ,介入後に有意なワーキングメモリ容量の増加が見られた。また,40%条件の第一課題では,ワーキングメモリトレーニング群および二重課題トレーニング群で有意にトルクの積分値が低下し,二重課題干渉の抑制が認められた。
【考察】
本研究では,40%条件の第一課題でのみ二重課題干渉の抑制が生じた。この原因として,40%条件の第一課題は,課題の遂行に多くの注意を要する課題であったことが影響したと考えられる。第二課題は視覚刺激に対して肘関節を屈曲する単純反応課題であるのに対し,第一課題は視覚的にフィードバックされるトルク値をもとに,常に発揮する筋力の調整が求められる課題である。また,第一課題の難易度は40%条件の方が20%条件より高いため,40%条件遂行時には,課題の遂行により多くの注意が必要であったと考えられる。以上から,ワーキングメモリトレーニングによる二重課題干渉の抑制効果は,課題遂行に必要とする注意量が多い課題に対して現れることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ワーキングメモリトレーニングは,運動課題と運動課題で構成された二重課題で生じる二重課題干渉への抑制効果があるとともに,課題遂行に必要な注意量が多い運動課題に対して,特に効果が高いことが明らかとなった。この結果は,加齢や廃用により歩行などの課題遂行に多くの注意を必要とする人に対して,ワーキングメモリトレーニングが効果的に作用する可能性を示唆するものである。