[O-0069] 変形性膝関節症の膝関節伸展制限がTKA術後の臨床成績に及ぼす影響
Keywords:伸展制限, 変形性膝関節症, 人工膝関節全置換術
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(膝OA)の膝関節屈曲角度は膝伸展角度と比較して身体機能低下に強い相関がある(Steultjens 2000)。人工膝関節全置換術(TKA)後の臨床成績に影響する因子として,膝伸展筋力は術前の屈曲角度や疼痛と比較して術後臨床成績の予測因子である(Mizner 2005)。またTKA術後6ヵ月の伸展筋力を向上させるには伸展角度改善が重要であり,術後の伸展角度変化は伸展筋力とともに身体機能低下に関連する(Pua 2013)と報告し,術後伸展角度の重要性を示唆したが,後ろ向き研究であり対照群との比較はない。術前の膝OA伸展制限が術後の臨床成績に影響することが解明できれば,伸展可動域改善を目的とした術前理学療法の必要性が示唆される。本研究の目的はTKA術前の膝OA伸展制限が術後の伸展筋力および短期臨床成績に影響するか否か調査する。仮説は術前の膝OA伸展制限は術後の伸展筋力,臨床成績が低下するとした。仮説を立証するため術前に伸展制限がある群,術前に伸展制限がない群に割付け前向き研究にて立証する。
【方法】
包含基準は2012年5月から2013年10月間に60歳以上90歳未満で膝OAと診断されCR型TKAにパテラ置換術を施行した者。除外基準は1年以内に対側膝に外科的手術歴,PS型TKA,術後急性症状が強い者とした。術前日に膝伸展制限がある伸展群,伸展制限がない対照群に割付けた。観察因子は術前日,術後1ヵ月において膝屈曲角度,伸展角度,独歩にて最大努力10m歩行速度,COMBIT2(ミナト社製)を用いて膝屈曲60°で術側の伸展筋力,屈曲筋力を最大等尺性筋収縮にて10秒間測定,Self reportにはWOMACの疼痛,こわばりスコアを測定した。観察因子は盲検化された1名の理学療法士によって測定された。後療法は1日目より関節可動域運動,筋力強化運動,3日目より歩行運動開始であった。統計学的検定にはPaired t-test,Wilcoxon signed-rank test(有意水準p<0.05)を用いた。
【結果】
TKA施行した56例中,除外基準により13例を除外した。内訳は伸展群23例(男性4例,女性19例,年齢76±4歳,BMI25±3kg/m2,KL分類:II4例,III12例,IV7例),対照群20例(男性3例,女性17例,年齢74±7歳,BMI25±3kg/m2,KL分類:II4例,III11例,IV5例)。観察因子の測定日は術後29±4日であった。屈曲角度は伸展群が術前125±11°,術後112±12°(p=0.00),対照群が術前127±16°,術後110±9°(p=0.00)。伸展角度は伸展群が術前12±6°,術後9±7°(p=0.07),対照群が術前0°,術後2±5°(p=0.08)。歩行速度は伸展群が術前61±18m/s,術後51±13m/s(p=0.04),対照群が術前65±21m/s,術後55±23m/s(p=0.10)。伸展筋力は伸展群が術前50±18Nm,術後28±10Nm(p=0.00)。対照群が術前46±18Nm,術後31±23Nm(p=0.02)。屈曲筋力は伸展群が術前18±9Nm,術後11±7Nm(p=0.00),対照群が術前20±11Nm,術後13±11Nm(p=0.09)。疼痛は伸展群が術前217±92点,術後132±95点(p=0.00),対照群が術前191±69点,術後169±115点(p=0.47)。こわばりは両群ともに有意差はなかった。
【考察】
本研究の主要な知見として伸展群は術後1ヵ月において疼痛は85点(p=0.00)有意に改善したが,伸展筋力22Nm(p=0.00),屈曲筋力7Nm(p=0.00),歩行速度11m/s(p=0.04)有意に低下した。対照群は伸展筋力のみ術後15Nm(p=0.02)有意に低下した。先行研究においてTKA術後の伸展角度変化は伸展筋力,身体機能と相関(Pua 2013)があり,本研究においても伸展制限により伸展筋力が低下したと考える。術後1ヵ月の伸展筋収縮時において屈曲筋の高い同時活動が観察された(Stevens 2010),また膝屈曲拘縮は膝伸展筋の筋出力が低下(Anderson 2007)することから,伸展群は伸展制限により歩行時の筋出力に影響し歩行速度が低下したと考える。内的妥当性は盲検化により測定バイアスを排除,観察因子の測定期間がほぼ一定であり,両群ともに術後同等に治療された。以上により本研究の結果に関して信頼性は高いと考えられる。外的妥当性はリウマチ,PS型TKAに適応になるか不明である。限界は長期予後が不明,パフォーマンス評価の未実施が挙げられる。よってTKA術前の膝OA伸展制限は対照群と比較して術後の伸展筋力,短期臨床成績が低下すると結論付ける。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は膝OA伸展制限がTKA術後の短期臨床成績に影響するか否か前向き研究にて対照群と比較した初めての報告であり,術前の膝伸展制限が術後の伸展筋力,歩行速度に影響することが立証されたことで,TKA術前の理学療法の重要性が示唆された。
変形性膝関節症(膝OA)の膝関節屈曲角度は膝伸展角度と比較して身体機能低下に強い相関がある(Steultjens 2000)。人工膝関節全置換術(TKA)後の臨床成績に影響する因子として,膝伸展筋力は術前の屈曲角度や疼痛と比較して術後臨床成績の予測因子である(Mizner 2005)。またTKA術後6ヵ月の伸展筋力を向上させるには伸展角度改善が重要であり,術後の伸展角度変化は伸展筋力とともに身体機能低下に関連する(Pua 2013)と報告し,術後伸展角度の重要性を示唆したが,後ろ向き研究であり対照群との比較はない。術前の膝OA伸展制限が術後の臨床成績に影響することが解明できれば,伸展可動域改善を目的とした術前理学療法の必要性が示唆される。本研究の目的はTKA術前の膝OA伸展制限が術後の伸展筋力および短期臨床成績に影響するか否か調査する。仮説は術前の膝OA伸展制限は術後の伸展筋力,臨床成績が低下するとした。仮説を立証するため術前に伸展制限がある群,術前に伸展制限がない群に割付け前向き研究にて立証する。
【方法】
包含基準は2012年5月から2013年10月間に60歳以上90歳未満で膝OAと診断されCR型TKAにパテラ置換術を施行した者。除外基準は1年以内に対側膝に外科的手術歴,PS型TKA,術後急性症状が強い者とした。術前日に膝伸展制限がある伸展群,伸展制限がない対照群に割付けた。観察因子は術前日,術後1ヵ月において膝屈曲角度,伸展角度,独歩にて最大努力10m歩行速度,COMBIT2(ミナト社製)を用いて膝屈曲60°で術側の伸展筋力,屈曲筋力を最大等尺性筋収縮にて10秒間測定,Self reportにはWOMACの疼痛,こわばりスコアを測定した。観察因子は盲検化された1名の理学療法士によって測定された。後療法は1日目より関節可動域運動,筋力強化運動,3日目より歩行運動開始であった。統計学的検定にはPaired t-test,Wilcoxon signed-rank test(有意水準p<0.05)を用いた。
【結果】
TKA施行した56例中,除外基準により13例を除外した。内訳は伸展群23例(男性4例,女性19例,年齢76±4歳,BMI25±3kg/m2,KL分類:II4例,III12例,IV7例),対照群20例(男性3例,女性17例,年齢74±7歳,BMI25±3kg/m2,KL分類:II4例,III11例,IV5例)。観察因子の測定日は術後29±4日であった。屈曲角度は伸展群が術前125±11°,術後112±12°(p=0.00),対照群が術前127±16°,術後110±9°(p=0.00)。伸展角度は伸展群が術前12±6°,術後9±7°(p=0.07),対照群が術前0°,術後2±5°(p=0.08)。歩行速度は伸展群が術前61±18m/s,術後51±13m/s(p=0.04),対照群が術前65±21m/s,術後55±23m/s(p=0.10)。伸展筋力は伸展群が術前50±18Nm,術後28±10Nm(p=0.00)。対照群が術前46±18Nm,術後31±23Nm(p=0.02)。屈曲筋力は伸展群が術前18±9Nm,術後11±7Nm(p=0.00),対照群が術前20±11Nm,術後13±11Nm(p=0.09)。疼痛は伸展群が術前217±92点,術後132±95点(p=0.00),対照群が術前191±69点,術後169±115点(p=0.47)。こわばりは両群ともに有意差はなかった。
【考察】
本研究の主要な知見として伸展群は術後1ヵ月において疼痛は85点(p=0.00)有意に改善したが,伸展筋力22Nm(p=0.00),屈曲筋力7Nm(p=0.00),歩行速度11m/s(p=0.04)有意に低下した。対照群は伸展筋力のみ術後15Nm(p=0.02)有意に低下した。先行研究においてTKA術後の伸展角度変化は伸展筋力,身体機能と相関(Pua 2013)があり,本研究においても伸展制限により伸展筋力が低下したと考える。術後1ヵ月の伸展筋収縮時において屈曲筋の高い同時活動が観察された(Stevens 2010),また膝屈曲拘縮は膝伸展筋の筋出力が低下(Anderson 2007)することから,伸展群は伸展制限により歩行時の筋出力に影響し歩行速度が低下したと考える。内的妥当性は盲検化により測定バイアスを排除,観察因子の測定期間がほぼ一定であり,両群ともに術後同等に治療された。以上により本研究の結果に関して信頼性は高いと考えられる。外的妥当性はリウマチ,PS型TKAに適応になるか不明である。限界は長期予後が不明,パフォーマンス評価の未実施が挙げられる。よってTKA術前の膝OA伸展制限は対照群と比較して術後の伸展筋力,短期臨床成績が低下すると結論付ける。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は膝OA伸展制限がTKA術後の短期臨床成績に影響するか否か前向き研究にて対照群と比較した初めての報告であり,術前の膝伸展制限が術後の伸展筋力,歩行速度に影響することが立証されたことで,TKA術前の理学療法の重要性が示唆された。