第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述8

人工膝関節1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:嶋田誠一郎(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0070] 人工膝関節全置換術後のTimed up&Go Testの推移に影響を及ぼす機能因子の検討

平野和宏1, 鈴木壽彦2, 五十嵐祐介3, 石川明菜3, 八木沼由佳4, 川藤沙文2, 樋口謙次4, 中山恭秀3, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 3.東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科, 4.東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:人工膝関節全置換術, Timed up&Go Test, 機能評価

【目的】我々は,2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて,人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に,多施設間にて統一した評価表を用いている。TKA後の理学療法において,順調な回復過程を辿る症例は多いと感じる一方で,術後の機能・能力改善が遷延する症例も経験する。症例の歩行能力や動的バランスなどのfunctional mobility(機能的移動能力)を評価する方法としてTimed up&Go Test(以下TUG)があり,高齢者やパーキンソン病患者の転倒予測や運動器不安定症の指標,TKA患者における機能回復の指標としても用いられ,その評価の信頼性,妥当性は確認されている。今回,TKA患者における術前後のTUG時間の推移を確認し,その時間の推移に影響を及ぼす機能因子を調査することを目的とした。
【方法】対象は2010年4月から2014年8月までに4病院でTKAを施行し,TUGが評価可能であった術前416例,術後3週489例,術後8週374例,術後12週323例にてTUG時間の推移を確認した。その後,術前に加え術後8週または12週にTUG,年齢,性別,術側膝伸展・屈曲ROM,術側膝伸展・屈曲筋力(Nm/kg),術側Extension lag(以下lag)の有無,疼痛のVisual Analogue Scale(以下VAS),Quick Squat(以下QS)回数の10項目が評価可能であった329例を対象とし,術後8週または12週の時点で術前よりもTUG時間が早くなった群(以下早い群)230例と遅くなった群(以下遅い群)99例の2群に分けた。両側同時TKA,感染症や深部静脈血栓などで術後の経過に影響をきたした症例は除外した。統計解析としては,SPSS ver.19を用い2群間における術後8週および12週の上記10項目についてMann-Whitney U検定およびχ2検定にて有意水準5%で比較した。なお,QSとは,我々が独自に用いている評価法であり,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を評価するものである。
【結果】TUGが評価可能であった症例のTUG時間の平均値の推移は術前13.3±6.2s,術後3週15.9±8.7s,術後8週11.7±4.9s,術後12週10.9±5.4sであった。2群間の比較にて有意差を認めた項目の平均値と標準偏差を早い群・遅い群の順に示す。TUG時間は10.2±3.5s・13.9±9.1s,術側ROM伸展角度は-2.7±4.5°・-4.0±5.2°,術側膝伸展筋力は0.98±0.4Nm/kg・0.82±0.4Nm/kg,QS回数は10.1±3.6回・8.7±4.2回であった。また,lagの有無にも有意差が認められた。
【考察】TUG時間の推移は術後3週で術前より遅くなり,8週,12週で術前より早くなっていた。そこで,術後8週,12週の時点で術前のTUG時間よりも早い群と,遅い群の2群に分け,両群間のどこに機能的な差があるのかを検討した。結果,ROM伸展角度,膝伸展筋力,lagの有無,QS回数の4項目で2群間に有意差が認められた。TUGは起立・歩行・方向転換・着座からなる複合的なパフォーマンステストであり,膝の伸展制限がある症例では起立や歩行に影響を及ぼすと考える。また,伸展筋力の低下やlagの存在は,歩行時の膝折れの危険性が増すと考えられ,起立や着座にも影響を及ぼすと考える。QSは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動であり,SSC運動はスポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広い動作において認められている。このため,動作能力の維持・改善にはSSC運動の遂行能力向上と適切な評価が重要であるとの考えから,4病院ではTKA術後早期からQSをトレーニングとしても取り入れている。我々は第47回日本理学療法学術大会にてTKA患者のQS回数と歩行速度,TUGにおいて相関が認められたことを報告しており,QSがTUG時間を反映する理由としては,QSの運動特性が歩行のみでなく起立や着座の動作能力も反映する為だと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】TUGという指標を基に,TKA術後の回復過程が順調である群と順調とは言えない群の群間差を示すことは,理学療法介入の一助になると考える。また,我々の評価表は多施設間で運用しており,そのデータを示すことも意義があると考える。