第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述8

人工膝関節1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:嶋田誠一郎(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0072] 人工膝関節全置換術後2週時の1本杖歩行獲得因子の予測

牛島武1, 安尾駿1, 桑原萌1, 恒松剛士1, 米村美樹1, 當利賢一2, 今屋将美1, 坂田大介1, 東利雄1, 三宮克彦1 (1.熊本機能病院総合リハビリテーション部理学療法課, 2.介護老人保健施設清雅苑)

Keywords:人工膝関節全置換術, 1本杖歩行, 予測

【はじめに,目的】
近年,在院日数は年々短縮される傾向にあり,限られた入院期間で歩行機能を効率的に改善させることが望まれる。石原らは,術後杖歩行獲得日数が術後在院日数に影響を及ぼすと報告しており,早期に杖歩行を獲得することは重要である。
当院では,変形性膝関節症(以下,膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に,クリニカルパスを導入している。入院期間を4~6週に設定し,術後3週で1本杖歩行(以下,杖歩行)獲得としている。術後の歩行について輪竹らは,術後2週の時点で術前とほぼ同じレベルまで回復していると報告している。そのため,早期杖歩行獲得が術後2週で行なえることが示唆される。
上条らは,術前の身体機能因子が術後の運動機能に影響するとし,酒井らは,術後1週では手術侵襲の影響からCRPが上昇し,術側下肢最大荷重量,歩行率が低下していたと報告している。そこで,今回杖歩行獲得に術前の身体機能因子と術後因子が関与すると考え,先行研究や臨床所見より因子を選定し術後2週時の杖歩行獲得因子を予測,検討することを目的とした。

【方法】
2013年1月~2014年6月までに当院にてTKAを施行した304例中,内側型変形性膝関節症と診断されTKAを施行された女性90例(片側65例・両側25例)。入院・退院時に「している移動能力」が杖歩行・独歩を対象とした。RAによる膝OA,人工関節のゆるみ,データ欠損のものは除外した。
内訳は,年齢73.0±6.8歳,身長148.5±5.6cm,体重57.9±11.8kg,BMI26.3±5.1kg/m2,Kellgren-Lawrenceの分類は,IIが8名,IIIが31名,IVが51名であった。
術後2週時の杖歩行獲得群15名と非獲得群75名に分類し,術後2週杖歩行獲得の有無を目的変数とした。説明変数は,術前の身体機能因子とし術前Timed Up to Go,術側・非術側におけるextention lag,他動膝関節屈曲・伸展Range Of Motion(以下,ROM),Numeric Rating Scale(歩行時),10m努力歩行時間,術側片脚立位時間,術後因子とし術後3日目炎症値(CRP),術後の総出血量(術中と術後の出血量),術後のfemoro tibial angle(FTA)の14項目とした。
統計解析は,2項ロジスティック回帰分析(変数増減法)を行った。さらに,選択された変数に対しROC曲線(左上隅からの距離を用いた方法)を用いてcut-off値を求めた。

【結果】
選択された変数は,非術側他動膝関節伸展ROM(オッズ比:1.2,95%cl 1.0-1.4)であった。モデルの判別的中率は83.3%であった。Cut-off値は0°,曲線下の面積は0.7であった。平均は杖獲得群-1.7°,非獲得群-4.7°であった。

【考察】
非術側他動膝関節伸展ROMの影響として,藤本らはTKA術後,非術側に膝関節伸展制限が存在すると術側の膝関節伸展制限を起こす可能性があると報告している。また,中山らは膝関節伸展制限が大きいほど内反角度及び内反モーメントが増加,歩行速度の低下,歩幅の狭小がみられたと報告している。したがって,非術側膝関節伸展ROMは術側の膝関節伸展機構および杖歩行獲得に際して影響を及ぼしていると考えられる。さらにBrownは,術前リハビリテーションは術後の機能改善に有効であると報告し,秋山らは術後の歩容改善には非術側膝関節伸展とCKCでのアプローチが重要と報告している。以上のことより,非術側他動膝伸展ROMは,TKA術前の理学療法介入の有効性やTKA術前後の理学療法アプローチの指標になると示唆される。また,cut-off値は0°を示し理学療法にて膝関節伸展角度0°を獲得していくことが術後2週の杖歩行獲得を助長することを示唆している。今回,術後因子については有意差がみられなかった。周術期管理が良好であったこと,その標準化ができていたことが示唆される。しかし,白井らは歩行能力の回復に手術アプローチが影響したと報告し身体機能因子を分析することも含め今後の検討課題としたい。今回の研究の限界として,杖歩行獲得因子の予測であり術後2週時の杖歩行獲得状態と異なる事も考えられ調査を継続していきたい。

【理学療法学研究としての意義】
術前の非術側他動膝関節伸展ROMは,TKA術後2週時の杖歩行獲得を予測する因子である可能性が示唆された。さらに,TKA術前の理学療法介入の有効性やTKA術前後の理学療法アプローチの指標になることが示唆される。