[O-0073] TKA術後退院時に独歩と杖歩行を隔てる要因の検討
Keywords:人工膝関節全置換術, 歩行, 下肢機能
【はじめに,目的】
TKA術後理学療法の主要な目的の一つは,歩行能力を改善することであり,患者の活動範囲を拡大するためには,より高い歩行能力を得ることが重要である。近年,安全なADLや歩行の遂行には,予備能としての最大能力の確保が必要であることが先行研究で示されている。TKA術後退院時に独歩が可能であれば,高い予備能があると考えられる。しかし,臨床場面では,退院までに独歩ができず,短距離であっても杖などの歩行補助具が必要なケースもある。このように,TKA術後退院時に独歩が可能である患者と,歩行補助具が必要な患者の間には,運動機能にどのような違いがあるのかは明らかになっていない。そこで本研究では,退院時に独歩が可能であった患者と,杖が必要であった患者の運動機能にどのような差があるかについて検討することを目的とした。
【方法】
当センター整形外科にて,変形性膝関節症と診断され,TKAを施行された98名を対象とした。対象者の選択条件を,60歳以上,術前の歩行が自立,運動制限が必要な合併症がないこととした。
本研究では,歩行速度,歩幅,ケイデンス,疼痛,Timed up & Go Test(以下TUG),膝関節の屈曲角度,伸展角度,膝の屈曲筋力,伸展筋力を退院時(術後3週)に測定した。歩行速度は,8m歩行路の中央5mの通常歩行に要した時間から算出した。歩行時は独歩,またはT字杖歩行とし,杖の必要性については,セラピストが判断した。TUGは,Podsiadloらの原文に基づき測定した。歩行速度,TUGともにストップウォッチを用いて2施行測定し,最速値を解析に用いた。また,デジタルビデオカメラにて歩行を撮影し,ケイデンスを算出し,歩幅は画像処理ソフトImage Jを用いて算出した。歩行時の疼痛は,Visual Analog Scale(以下VAS)を用いた。関節角度は臥位にてゴニオメーターを使用し測定した。筋力は,端坐位にて膝関節屈曲90°とし,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて等尺性筋力を測定した。全ての項目について2施行測定し,最大値を解析に用いた。
対象者を独歩群と杖群に群分けし,2群の各測定項目と年齢を含めた属性を,対応のないt検定を用いて検討した。全ての統計解析には,SPSS Ver.21.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
98名の対象者のうち,独歩群は75名(男性14名,女性61名),平均年齢は75.5±6.2歳,杖群は23名(男性5名,女性18名),平均年齢は78.6±6.2歳であった。独歩群と杖群の各測定項目の平均値を以下に示す。歩行速度は,秒速0.99±0.20m,0.73±0.16m,TUGは11.2±2.4秒,15.1±3.4秒であった。歩行時の歩幅は50.3±8.6cm,41.2±8.7cm,ケイデンスは毎分112.0±13.4歩,101.8±15.4歩であった。疼痛(VAS)は,12.3±13.6,17.6±20.1であった。屈曲角度は119.5±7.5°,117.6±9.2°,伸展角度は-4.3±4.5°,-3.7±4.1°であった。術側屈曲筋力は6.6±2.5kg,6.4±2.2kg,術側伸展筋力は7.6±3.1kg,7.6±2.8kg,非術側屈曲筋力は10.7±3.7kg,8.9±2.8kg,非術側伸展筋力は18.1±5.8kg,16.4±5.7kgであった。また,t検定の結果,歩行速度,TUG,歩幅,ケイデンス(p<0.01),非術側屈曲筋力(p<0.05)において,独歩群の方が有意に大きい値を示し,年齢は,杖群の方が有意に高齢であった(p<0.05)。一方,VAS,術側屈曲筋力,術側伸展筋力,非術側伸展筋力,関節角度については有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,退院時にセラピストが監視のもとで行う歩行において,独歩が可能な患者と,T字杖が必要な患者にどのような機能の差があるのか明らかにするため,各測定項目について2群間の差を横断的に検討した。その結果,年齢と,歩行速度,TUG,歩幅,ケイデンスといった歩行機能については有意な差を認めた一方,疼痛や術側筋力,関節角度といった術側の膝関節機能については,有意な差を認めなかった。この結果は,TKA術後退院までに独歩が可能な症例と,独歩ができず杖を要した症例という2群を隔てる要因として,術側の膝関節機能は影響しないということを示している。また,この2群の歩行機能には明確な差が存在しており,本研究の結果から術側膝関節機能を除く,その他の機能の差が,TKA術後退院時の歩行機能に影響する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後の退院までに,独歩が可能な症例と杖が必要な症例があり,歩行機能には明確な差があることが示されたが,その2群を隔てる要因として,少なくとも術側の膝関節機能は含まれないことが示されたこと。
TKA術後理学療法の主要な目的の一つは,歩行能力を改善することであり,患者の活動範囲を拡大するためには,より高い歩行能力を得ることが重要である。近年,安全なADLや歩行の遂行には,予備能としての最大能力の確保が必要であることが先行研究で示されている。TKA術後退院時に独歩が可能であれば,高い予備能があると考えられる。しかし,臨床場面では,退院までに独歩ができず,短距離であっても杖などの歩行補助具が必要なケースもある。このように,TKA術後退院時に独歩が可能である患者と,歩行補助具が必要な患者の間には,運動機能にどのような違いがあるのかは明らかになっていない。そこで本研究では,退院時に独歩が可能であった患者と,杖が必要であった患者の運動機能にどのような差があるかについて検討することを目的とした。
【方法】
当センター整形外科にて,変形性膝関節症と診断され,TKAを施行された98名を対象とした。対象者の選択条件を,60歳以上,術前の歩行が自立,運動制限が必要な合併症がないこととした。
本研究では,歩行速度,歩幅,ケイデンス,疼痛,Timed up & Go Test(以下TUG),膝関節の屈曲角度,伸展角度,膝の屈曲筋力,伸展筋力を退院時(術後3週)に測定した。歩行速度は,8m歩行路の中央5mの通常歩行に要した時間から算出した。歩行時は独歩,またはT字杖歩行とし,杖の必要性については,セラピストが判断した。TUGは,Podsiadloらの原文に基づき測定した。歩行速度,TUGともにストップウォッチを用いて2施行測定し,最速値を解析に用いた。また,デジタルビデオカメラにて歩行を撮影し,ケイデンスを算出し,歩幅は画像処理ソフトImage Jを用いて算出した。歩行時の疼痛は,Visual Analog Scale(以下VAS)を用いた。関節角度は臥位にてゴニオメーターを使用し測定した。筋力は,端坐位にて膝関節屈曲90°とし,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて等尺性筋力を測定した。全ての項目について2施行測定し,最大値を解析に用いた。
対象者を独歩群と杖群に群分けし,2群の各測定項目と年齢を含めた属性を,対応のないt検定を用いて検討した。全ての統計解析には,SPSS Ver.21.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
98名の対象者のうち,独歩群は75名(男性14名,女性61名),平均年齢は75.5±6.2歳,杖群は23名(男性5名,女性18名),平均年齢は78.6±6.2歳であった。独歩群と杖群の各測定項目の平均値を以下に示す。歩行速度は,秒速0.99±0.20m,0.73±0.16m,TUGは11.2±2.4秒,15.1±3.4秒であった。歩行時の歩幅は50.3±8.6cm,41.2±8.7cm,ケイデンスは毎分112.0±13.4歩,101.8±15.4歩であった。疼痛(VAS)は,12.3±13.6,17.6±20.1であった。屈曲角度は119.5±7.5°,117.6±9.2°,伸展角度は-4.3±4.5°,-3.7±4.1°であった。術側屈曲筋力は6.6±2.5kg,6.4±2.2kg,術側伸展筋力は7.6±3.1kg,7.6±2.8kg,非術側屈曲筋力は10.7±3.7kg,8.9±2.8kg,非術側伸展筋力は18.1±5.8kg,16.4±5.7kgであった。また,t検定の結果,歩行速度,TUG,歩幅,ケイデンス(p<0.01),非術側屈曲筋力(p<0.05)において,独歩群の方が有意に大きい値を示し,年齢は,杖群の方が有意に高齢であった(p<0.05)。一方,VAS,術側屈曲筋力,術側伸展筋力,非術側伸展筋力,関節角度については有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,退院時にセラピストが監視のもとで行う歩行において,独歩が可能な患者と,T字杖が必要な患者にどのような機能の差があるのか明らかにするため,各測定項目について2群間の差を横断的に検討した。その結果,年齢と,歩行速度,TUG,歩幅,ケイデンスといった歩行機能については有意な差を認めた一方,疼痛や術側筋力,関節角度といった術側の膝関節機能については,有意な差を認めなかった。この結果は,TKA術後退院までに独歩が可能な症例と,独歩ができず杖を要した症例という2群を隔てる要因として,術側の膝関節機能は影響しないということを示している。また,この2群の歩行機能には明確な差が存在しており,本研究の結果から術側膝関節機能を除く,その他の機能の差が,TKA術後退院時の歩行機能に影響する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後の退院までに,独歩が可能な症例と杖が必要な症例があり,歩行機能には明確な差があることが示されたが,その2群を隔てる要因として,少なくとも術側の膝関節機能は含まれないことが示されたこと。