[O-0077] 当院における肘内側側副靭帯損傷患者に対する靭帯再建術の治療成績と,投球プログラム開始後の疼痛について
キーワード:肘内側側副靭帯損傷, 投球障害, 治療成績
【はじめに,目的】
肘内側側副靭帯損傷(以下,MCL損傷)は,肘外反ストレスが繰り返し加わる投球動作において発生頻度の高いスポーツ障害である。投球制限や,身体機能の改善,投球フォームの修正などの保存療法が第一選択であるが,保存療法に抵抗する場合,手術療法が選択される。靭帯再建術は,Jobeらの報告以来,術式や固定方法の改良により,大部分の選手が元の競技レベルへ復帰可能となっている。しかし,術後のリハビリテーション・プログラムについて言及した報告は少なく,競技復帰に長期間を要することや,復帰後疼痛が残存する症例も少なからず存在する。そこで今回,投球障害としての肘MCL損傷に対して靭帯再建術を施行した症例の治療成績と,投球プログラム開始後の疼痛について調査したので報告する。
【方法】
対象は,2011年4月から2013年12月までの2年9ヶ月間で,靭帯再建術を施行した58例のうち,術後1年以上経過観察可能であった42例とした。全例男性で,スポーツ種目は野球,手術時平均年齢は19.7±5.4歳であった。競技レベルはプロ3例,社会人7例,大学生13例,高校生17例,中学生1例,レクリエーション1例であった。全例,当院の術後リハビリテーション・プログラムに準じて理学療法を行なった。調査項目として,競技復帰までの期間,復帰状況を日本整形外科学会肘スポーツ機能評価基準(JOAESスコア)の疼痛,スポーツ能力で評価した。また,術後4ヶ月以降の投球プログラム開始後,疼痛が出現した症例の疼痛部位や発生時期を調査した。
【結果】
JOAESスコアの疼痛では,なし33例,時々8例,軽度1例であった。また,スポーツ能力において,低下なし29例(69.0%),軽度低下11例(26.2%),かなり低下1例,著しく低下0例,復帰不能1例であった。復帰不能であった1例は,投球プログラム開始にあたり肩痛が出現し,Bennett骨棘切除術を追加で施行したが,その後,競技復帰可能となった。競技復帰までの期間は,平均で10.5±2.2ヶ月であった。投球プログラム開始後に疼痛が出現した症例は11例で,肩痛4例,肘痛7例であった。疼痛発生時期としては,術後4ヵ月が2例,術後5ヶ月が3例,術後6ヶ月が1例,術後8ヵ月以降が5例であった。
【考察】
肘MCL損傷に対する靭帯再建術の治療成績は,2014年のWatsonらによるシステマティック・レビューにおいて78.9%が競技復帰可能であったと報告している。当院においても,スポーツ能力低下なし,軽度低下を合わせると95.2%が競技復帰可能であり,良好な治療成績と考える。しかし,投球プログラム開始後に疼痛が出現する症例も存在し,疼痛の有無は術後の復帰状況にも影響がみられた。当院では,術後8ヶ月以降を全力投球開始の目安としているが,疼痛発生時期として,術後8ヵ月以前では6例,術後8ヵ月以降では5例認められた。これは,肘関節周囲筋の筋力低下が残存したままの投球開始や,投球開始以降にコンディショニングの問題が再発することが一因と考えられた。今後の治療成績改善に向けては,身体機能・投球動作を随時チェックし,過負荷とならないよう投球強度を調節していく必要があり,各症例の詳細な分析が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
投球による肘MCL損傷において,靭帯再建術は良好な治療成績が報告されている。一方で,術後のリハビリテーション・プログラムについて検討されている報告は少ない。そのため,今後の治療成績改善に向けては,臨床データを蓄積し分析していく必要があり,本研究が一助になると考える。
肘内側側副靭帯損傷(以下,MCL損傷)は,肘外反ストレスが繰り返し加わる投球動作において発生頻度の高いスポーツ障害である。投球制限や,身体機能の改善,投球フォームの修正などの保存療法が第一選択であるが,保存療法に抵抗する場合,手術療法が選択される。靭帯再建術は,Jobeらの報告以来,術式や固定方法の改良により,大部分の選手が元の競技レベルへ復帰可能となっている。しかし,術後のリハビリテーション・プログラムについて言及した報告は少なく,競技復帰に長期間を要することや,復帰後疼痛が残存する症例も少なからず存在する。そこで今回,投球障害としての肘MCL損傷に対して靭帯再建術を施行した症例の治療成績と,投球プログラム開始後の疼痛について調査したので報告する。
【方法】
対象は,2011年4月から2013年12月までの2年9ヶ月間で,靭帯再建術を施行した58例のうち,術後1年以上経過観察可能であった42例とした。全例男性で,スポーツ種目は野球,手術時平均年齢は19.7±5.4歳であった。競技レベルはプロ3例,社会人7例,大学生13例,高校生17例,中学生1例,レクリエーション1例であった。全例,当院の術後リハビリテーション・プログラムに準じて理学療法を行なった。調査項目として,競技復帰までの期間,復帰状況を日本整形外科学会肘スポーツ機能評価基準(JOAESスコア)の疼痛,スポーツ能力で評価した。また,術後4ヶ月以降の投球プログラム開始後,疼痛が出現した症例の疼痛部位や発生時期を調査した。
【結果】
JOAESスコアの疼痛では,なし33例,時々8例,軽度1例であった。また,スポーツ能力において,低下なし29例(69.0%),軽度低下11例(26.2%),かなり低下1例,著しく低下0例,復帰不能1例であった。復帰不能であった1例は,投球プログラム開始にあたり肩痛が出現し,Bennett骨棘切除術を追加で施行したが,その後,競技復帰可能となった。競技復帰までの期間は,平均で10.5±2.2ヶ月であった。投球プログラム開始後に疼痛が出現した症例は11例で,肩痛4例,肘痛7例であった。疼痛発生時期としては,術後4ヵ月が2例,術後5ヶ月が3例,術後6ヶ月が1例,術後8ヵ月以降が5例であった。
【考察】
肘MCL損傷に対する靭帯再建術の治療成績は,2014年のWatsonらによるシステマティック・レビューにおいて78.9%が競技復帰可能であったと報告している。当院においても,スポーツ能力低下なし,軽度低下を合わせると95.2%が競技復帰可能であり,良好な治療成績と考える。しかし,投球プログラム開始後に疼痛が出現する症例も存在し,疼痛の有無は術後の復帰状況にも影響がみられた。当院では,術後8ヶ月以降を全力投球開始の目安としているが,疼痛発生時期として,術後8ヵ月以前では6例,術後8ヵ月以降では5例認められた。これは,肘関節周囲筋の筋力低下が残存したままの投球開始や,投球開始以降にコンディショニングの問題が再発することが一因と考えられた。今後の治療成績改善に向けては,身体機能・投球動作を随時チェックし,過負荷とならないよう投球強度を調節していく必要があり,各症例の詳細な分析が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
投球による肘MCL損傷において,靭帯再建術は良好な治療成績が報告されている。一方で,術後のリハビリテーション・プログラムについて検討されている報告は少ない。そのため,今後の治療成績改善に向けては,臨床データを蓄積し分析していく必要があり,本研究が一助になると考える。