第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述10

予防理学療法2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:小松泰喜(東京工科大学 医療保健学部)

[O-0080] 精神科入院病棟における理学療法開始時期からみた介入効果と課題に関する検討

石橋雄介1, 西田宗幹1, 林久恵2, 大川裕行3 (1.秋津鴻池病院リハビリテーション部, 2.星城大学リハビリテーション学部, 3.西九州大学リハビリテーション学部)

Keywords:精神科, 入院期間, 理学療法

【はじめに,目的】
全国的に精神科入院患者の高齢化は加速しており,身体的リハビリテーションの必要性は高まっているが,当該領域における理学療法(PT)研究は極めて少ない。我々は,身体疾患を合併した精神科入院患者と回復期リハビリテーション病棟入院患者172名を対象とした予備調査によって,精神科入院患者においてもPTを行うことで回復期リハビリテーション病棟入院患者と同程度のADL改善が期待できること,精神科入院患者は入院期間が長期化する症例が多く,入院からPT開始までの日数が長い傾向にあることを確認した。しかし,PT開始の遅延がPT介入効果に及ぼす影響やPT開始が遅れる症例の特徴については未だ不明な点が多い。そこで本研究では,精神科入院患者を対象に,入院後のPT開始時期から見たPT介入効果の違いとPT開始遅延例の特徴を検討することを目的とし,調査を行なった。
【方法】
対象は当院精神科病棟に入院し,平成23年1月~平成24年12月の間に,併存する身体疾患に対しPTを実施した54名(男性24名,女性30名,平均年齢66±15歳)とした。調査項目は,精神疾患名,身体疾患分類,身体疾患発症前の移動様式,入院及び身体疾患発症からPT開始までの日数,PT開始時及び終了時Barthel Index(BI),⊿BI(終了時BI得点から開始時BI得点を差し引いた値)とし,カルテより後方視的に調査した。入院からPT開始までの日数(中央値:11.5日)より,早期群27名(男性10名,女性17名,平均年齢65±15歳)と遅延群27名(男性14名,女性13名,平均年齢68±14歳)の2群に分類し,各項目の比較を行なった。群間比較の統計解析は,カテゴリーデータをカイ二乗検定,量的データについては分布を確認したうえで対応のないt検定またはマン・ホイットニーのU検定を用いて行い,有意水準は5%とした。
【結果】
入院からPT開始までの日数の中央値(四分位範囲)は,早期群が1日(1-4.5),遅延群が74日(22.5-392.5)で,早期群の半数以上は1日目よりPTが開始されていたのに対し,遅延群では約半数が2ヶ月以降に開始されていた(p<0.01)。年齢,性別,精神疾患及び身体疾患分類,身体疾患発症からPT開始までの日数については群間に有意差を認めなかった。身体疾患発症前の移動様式は,早期群が自立歩行22名(88%),車椅子5名(19%),遅延群が自立歩行13名(48%),介助歩行2名(7%),車椅子12名(45%)で,遅延群は自立歩行が少なく車椅子が多かった(p<0.05)。PT開始時BIは,早期群46.1±32.9点,遅延群14.3±24.5点,終了時BIは,早期群63.9±33.9点,遅延群36.9±36.7点であり,いずれも遅延群が低値を示した(p<0.01)。また,⊿BIに関しては有意差を認めなかった。
【考察】
遅延群は,早期群との比較において⊿BIには差が見られないもののPT開始時及び終了時BIは有意に低いことが明らかとなった。また,PT遅延例においては,身体疾患発症前より移動能力が低い者が多かった。これらの所見は,早期群において良好なPT介入効果が期待できること,PT遅延例においても一定の介入効果は得られるが,入院期間の長期化に伴う身体機能低下や身体合併症によってADLが低下する前にPTを開始する必要性を示唆するものであると考える。しかし,精神科入院患者のほとんどは精神疾患の治療を目的に入院するため,現状の制度では早期からのPT介入には限界がある。今後は,精神科作業療法士や病棟スタッフと協働し,身体機能低下や身体合併症予防を含めた入院早期からのPTが必要であると考える。また,本調査では,移動能力の変化を確認するに留まったが,先行研究で指摘されている精神科病棟の長期入院症例の体力低下や不活動に伴う内科疾患罹患リスクの増大等の問題を考慮して調査を行う必要性が考えられた。今後は活動量の変化や不活動に伴う併存疾患の管理状況を考慮した調査が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
精神科入院患者において,PT開始時期が介入効果に及ぼす影響を調査し,早期からのPT介入の必要性を示唆する所見が得られた。今後の理学療法士の職域拡大に寄与すると考える。