[O-0081] 入院前の身体活動量は自宅退院を控える高齢患者の転倒恐怖感に強い影響を与える
整形外科疾患に着目して
Keywords:整形外科, 転倒恐怖感, 身体活動量
【はじめに,目的】
近年,高齢者の転倒に関連する問題の一つとして転倒恐怖感が注目されている。高齢者における転倒恐怖感の存在は身体活動量を低下させ,廃用症候群の原因になると言われている。また,転倒恐怖感と転倒は相互の予測因子であると言われており,入院期のリハビリテーションにおいて転倒恐怖感を軽減することは転倒予防の観点からも重要であると考える。さらに,転倒は骨折発生原因の90%以上を占め,骨折で入院中の高齢者を対象とした研究では,対象者の97.1%に転倒恐怖感を認めたと報告されている。これらのことから,整形外科疾患を有する高齢患者は特に転倒恐怖感を抱きやすいと考えられる。これまでに,転倒恐怖感と関連する要因として歩行能力やADLなど多数の因子が報告されている。しかし,これらの研究の多くは地域在住高齢者を対象としており自宅退院前の入院患者を対象としたものは極めて少ない。さらに,整形外科疾患に焦点を絞った研究は見当たらない。そこで本研究は整形外科疾患にて入院した高齢患者における退院前の転倒恐怖感に関連する因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象者は2013年9月15日~12月31日に整形外科疾患にて急性期病院に入院し,理学療法が処方された65歳以上の高齢者とした。なお,認知機能低下があるもの(Mini Mental State Examination;以下MMSEが23点以下),入院前に医学的に運動が困難であったもの,入院前に自助具の有無を問わず10m以上の歩行に介助を要したもの,研究に対する同意が得られなかったものは除外した。自宅退院日の1~3日前に対象者の転倒恐怖感(Modified Falls Efficacy Scale;以下MFES),入院前の身体活動量(Life Space Assessment;以下入院前LSA),認知機能(MMSE),抑うつ傾向(Geriatric Depression Scale短縮版;以下GDS15),自信(General Self-Efficacy Scale;以下GSES),意欲(Vitality Index;以下VI),ADL(Barthel Index;以下BI)を評価・測定した。BIは担当療法士が評価し,その他の項目に関しては先行研究に従い研究者が聞き取りにて評価・測定した。統計解析はMFES得点と年齢,MMSE,入院前LSA,GDS15,GSES,VI,BIの得点の相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。その後,MFES得点を従属変数とし,MFES得点と統計学的に有意な相関関係にあり,かつ多重共線性の問題のない項目を独立変数として重回帰分析(Stepwise法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は36名(内女性28名,平均年齢77.6±7.3歳)であった。疾患別の内訳は脊柱疾患10名,四肢骨折13名,人工関節置換術8名,下肢外傷5名であった。各々の得点はMFES;108.1±16.5,入院前LSA;67.5±23.7,MMSE;28.3±1.9,GDS15;4.4±2.7,GSES;52.3±9.5,VI;9.7±0.6,BI;95.3±7.3であった。また,MFES得点は36名中,2名が満点(140点)であり,残り34名(94.4%)に転倒恐怖感を認めた。MFES得点は入院前LSA(r=0.67,p<0.01),MMSE(r=0.43,p<0.01),GDS15(r=-0.35,P<0.05),BI(r=0.54,p<0.01)と有意に相関していた。MFES得点を従属変数,入院前LSA,MMSE,GDS15,BIの得点を独立変数として重回帰分析を行った結果,入院前LSA(標準化係数:0.67)のみが変数として抽出され,決定係数R2は0.45(p<0.01)であった。
【考察】
本研究の結果,自宅退院前の高齢患者のMFESは入院前のLSAと強い相関を認めた。先行研究においてMFESとMMSE,GDS15,BIの関連は報告されているが,入院前LSAとの関連は報告されていない。また,他の報告と比較しMFESとの関連性が強く適合度が高かった。このことから,整形外科疾患にて入院した高齢患者において,身体機能,ADL,認知機能や抑うつ傾向だけでなく,入院前LSAの評価は自宅退院前の転倒恐怖感に関連する有益な指標の一つになると考えられる。転倒恐怖感が強いものは退院後の活動性低下や再転倒リスクが高いと言われており,自宅退院前の転倒恐怖感を予測することは退院後の活動性低下や再転倒リスクの把握に繋がると考えられため有意義である。また,対象者の94.4%に転倒恐怖感を認めたことから,急性期病院での初回介入時から転倒恐怖感を軽減させる取り組みを実施すべきであると考える。本研究は横断調査による結果であるため転倒恐怖感と入院前LSAの詳細な因果関係を言及することはできない。今後は入院前LSA,退院前の転倒恐怖感を評価した上で,その後の転倒の有無,身体活動量やADLの変化を調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
整形外科疾患にて入院した高齢患者において,入院前LSAを評価することは退院前の転倒恐怖感に関連する有益や指標となる。
近年,高齢者の転倒に関連する問題の一つとして転倒恐怖感が注目されている。高齢者における転倒恐怖感の存在は身体活動量を低下させ,廃用症候群の原因になると言われている。また,転倒恐怖感と転倒は相互の予測因子であると言われており,入院期のリハビリテーションにおいて転倒恐怖感を軽減することは転倒予防の観点からも重要であると考える。さらに,転倒は骨折発生原因の90%以上を占め,骨折で入院中の高齢者を対象とした研究では,対象者の97.1%に転倒恐怖感を認めたと報告されている。これらのことから,整形外科疾患を有する高齢患者は特に転倒恐怖感を抱きやすいと考えられる。これまでに,転倒恐怖感と関連する要因として歩行能力やADLなど多数の因子が報告されている。しかし,これらの研究の多くは地域在住高齢者を対象としており自宅退院前の入院患者を対象としたものは極めて少ない。さらに,整形外科疾患に焦点を絞った研究は見当たらない。そこで本研究は整形外科疾患にて入院した高齢患者における退院前の転倒恐怖感に関連する因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象者は2013年9月15日~12月31日に整形外科疾患にて急性期病院に入院し,理学療法が処方された65歳以上の高齢者とした。なお,認知機能低下があるもの(Mini Mental State Examination;以下MMSEが23点以下),入院前に医学的に運動が困難であったもの,入院前に自助具の有無を問わず10m以上の歩行に介助を要したもの,研究に対する同意が得られなかったものは除外した。自宅退院日の1~3日前に対象者の転倒恐怖感(Modified Falls Efficacy Scale;以下MFES),入院前の身体活動量(Life Space Assessment;以下入院前LSA),認知機能(MMSE),抑うつ傾向(Geriatric Depression Scale短縮版;以下GDS15),自信(General Self-Efficacy Scale;以下GSES),意欲(Vitality Index;以下VI),ADL(Barthel Index;以下BI)を評価・測定した。BIは担当療法士が評価し,その他の項目に関しては先行研究に従い研究者が聞き取りにて評価・測定した。統計解析はMFES得点と年齢,MMSE,入院前LSA,GDS15,GSES,VI,BIの得点の相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。その後,MFES得点を従属変数とし,MFES得点と統計学的に有意な相関関係にあり,かつ多重共線性の問題のない項目を独立変数として重回帰分析(Stepwise法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は36名(内女性28名,平均年齢77.6±7.3歳)であった。疾患別の内訳は脊柱疾患10名,四肢骨折13名,人工関節置換術8名,下肢外傷5名であった。各々の得点はMFES;108.1±16.5,入院前LSA;67.5±23.7,MMSE;28.3±1.9,GDS15;4.4±2.7,GSES;52.3±9.5,VI;9.7±0.6,BI;95.3±7.3であった。また,MFES得点は36名中,2名が満点(140点)であり,残り34名(94.4%)に転倒恐怖感を認めた。MFES得点は入院前LSA(r=0.67,p<0.01),MMSE(r=0.43,p<0.01),GDS15(r=-0.35,P<0.05),BI(r=0.54,p<0.01)と有意に相関していた。MFES得点を従属変数,入院前LSA,MMSE,GDS15,BIの得点を独立変数として重回帰分析を行った結果,入院前LSA(標準化係数:0.67)のみが変数として抽出され,決定係数R2は0.45(p<0.01)であった。
【考察】
本研究の結果,自宅退院前の高齢患者のMFESは入院前のLSAと強い相関を認めた。先行研究においてMFESとMMSE,GDS15,BIの関連は報告されているが,入院前LSAとの関連は報告されていない。また,他の報告と比較しMFESとの関連性が強く適合度が高かった。このことから,整形外科疾患にて入院した高齢患者において,身体機能,ADL,認知機能や抑うつ傾向だけでなく,入院前LSAの評価は自宅退院前の転倒恐怖感に関連する有益な指標の一つになると考えられる。転倒恐怖感が強いものは退院後の活動性低下や再転倒リスクが高いと言われており,自宅退院前の転倒恐怖感を予測することは退院後の活動性低下や再転倒リスクの把握に繋がると考えられため有意義である。また,対象者の94.4%に転倒恐怖感を認めたことから,急性期病院での初回介入時から転倒恐怖感を軽減させる取り組みを実施すべきであると考える。本研究は横断調査による結果であるため転倒恐怖感と入院前LSAの詳細な因果関係を言及することはできない。今後は入院前LSA,退院前の転倒恐怖感を評価した上で,その後の転倒の有無,身体活動量やADLの変化を調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
整形外科疾患にて入院した高齢患者において,入院前LSAを評価することは退院前の転倒恐怖感に関連する有益や指標となる。