第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述10

予防理学療法2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:小松泰喜(東京工科大学 医療保健学部)

[O-0082] 転倒リスク,転倒自己効力感評価の転倒予測における有用性と生活・精神・身体機能との関連

安延由紀子, 杉本研, 中間千香子, 前川佳敬, 竹屋泰, 山本浩一, 樂木宏実 (大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学)

Keywords:高齢者, 転倒リスク, 評価

【はじめに,目的】
高齢者は,加齢性の身体変化や疾患等の影響により転倒し,要介護や寝たきり,閉じこもりといった深刻な事態を引き起こしやすい。平成22年の厚生労働省の調査では,高齢者における要介護の要因のうち,転倒・骨折は約10%を占めている。超高齢社会である本邦において,転倒に対する有用なリスク評価法の確立や対策の実施は,高齢者の健康寿命延伸を目指す上で急務である。現在汎用されている転倒リスク評価には,入院患者を対象とした転倒転落リスクアセスメントスコアや筋力,バランス機能評価等がある。しかし,対象者の精神・身体機能を十分に反映しきれないこと,検査機器等の不足等により外来診療レベルで詳細な評価を行うことが困難などの問題点がある。そこで我々は,簡便かつ効果的に転倒リスクを評価することを目的とし,既存の記名式評価スケールであるFall Risk Index(以下FRI)と転倒自己効力感(Modified Fall Efficacy Scale,以下MFES)を共に用い,高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment,以下CGA)や身体機能との関連性に加え,転倒予測における有用性を検討した。
【方法】
対象は,2012年4月以降に当院老年・高血圧内科に入院した65歳以上の症例で,自立歩行可能かつ1年間経過を追えた連続45例(平均年齢77.6歳)である。測定項目のうち身体計測(腹囲,BMI等)を,身体機能として筋力測定(握力,下肢筋力(等尺性膝伸展筋力)),開眼片脚立ち時間,10m最大歩行速度,重心動揺検査(外周囲面積,総軌跡長)を施行し,筋量はバイオインピーダンス(BIA)法を用いて計測した。問診ではCGAとして認知機能検査(MMSE),ADL評価(Barthal Index,IADL),うつ評価(GDS-15),意欲評価(Vitality Index,やる気スコア)を行い,運動習慣の有無とその内容を聴取し,転倒リスク評価としてFRI,MFESを評価した。同様の検査を1年後にも再評価した。初回検査後1年間の転倒有無を後ろ向きに聴取し,それを主要評価項目としてFRI,MFESとの関連性を中心に検討した。
【結果】
初回検査後1年間の転倒有無で2群に分けたところ,転倒群(n=13)においては非転倒群(n=32)と比較し,高年齢で筋力も低値である傾向を認めた。開眼片脚立ち時間,外周囲面積,総軌跡長は転倒群で有意に高値,10m歩行速度は有意に低値であった。CGAにおいては,MMSEは両群間で差はなく,GDS-15は転倒群で有意に高値であった。
転倒リスクについてはFRI,MFESとも片脚立ち時間,歩行速度と有意な負の関連を示し,外周囲面積,総軌跡長,GDS-15と有意な正の相関を認めた(p<0.01)。また,FRI,MFESのスコアが高いほど1年間の転倒が多く(p<0.01),FRI7点以上またはMFES40点以下を1点,両方満たす場合を2点とし,1年間の転倒有無との関連を検討したところ,FRI7点以上,MFES40点以下をともに満たす場合に約9割が1年間に転倒していた。1年間の転倒を従属変数とした多重ロジスティックス回帰分析において,前述のFRIとMFESのスコア化が独立した関連因子として抽出された。
【考察】
これまでの報告では,筋力低下が転倒と最も強く関連する因子として挙げられているが,本検討では,筋力より歩行速度やバランス機能の方が転倒と強く関連していた。本検討の対象である生活習慣病を中心とした疾患を有する自立歩行が可能な高齢者では,日常生活において動的な場面が多いためか,筋力に加え歩行速度やバランス機能といった指標も重要であることが示唆された。
転倒リスクについては,FRIは筋力,身体機能と,MFESは精神機能と関連することがその成り立ちから推察されるが,FRIはGDS-15と,MFESは身体機能とも関連したことから,転倒には身体・精神機能の双方が影響することが示唆された。またFRIとMFESを併用したスコア化が1年間の転倒の独立した関連因子として抽出されたことから,これらの併用でより転倒リスクを予測し得ること,身体機能,精神機能の評価なしに,問診のみで簡便に転倒リスクを評価できることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
転倒リスクを早期に把握することで,前もって他職種と情報共有または対策を講じることができる。また,スクリーニング評価の結果に基づき,対象者の特性に応じた身体機能,精神機能評価の実施,または的確な介入を実施することが可能となる。以上から,簡便なスクリーニング法の確立は予防医学,健康寿命延伸の観点からも非常に有意義である。