第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述12

呼吸2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:間瀬教史(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科)

[O-0092] 健康成人に対するストレッチポールを用いたエクササイズによる胸郭可動性及びリラクゼーション効果の検討

一場友実1, 解良武士2, 石川朗3, 八並光信1 (1.杏林大学保健学部理学療法学科, 2.日本医療科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻, 3.神戸大学大学院保健学研究科地域保健学領域)

Keywords:リラクゼーション, 胸郭, 呼吸中枢出力

【はじめに】呼吸機能障害を有する患者は,肺機能低下のみならず胸郭にもその影響が及ぶ。慢性的な呼吸機能障害を有する患者にはしばしば肩関節や胸郭の機能障害が起こる。呼吸器疾患に対するリハビリテーションには呼吸訓練や下肢の持久性運動などが高いエビデンスレベルで推奨されているが(GOLD,2011),日本国内では肩甲帯や胸郭の柔軟性の維持を目的とした呼吸筋ストレッチや胸郭可動性拡大のための徒手的な介入がよく用いられる。ところで近年,関節可動域の維持拡大,筋力向上,バランス反応の強化などを目的にストレッチポール®がスポーツ選手から高齢者までの運動療法に幅広く用いられている。ストレッチポールはアメリカで使用されているフォームローラーを前進としたエクササイズ用具で,柔らかい円筒状の製品である。主な治療方法は床に置いた製品に脊柱を合わせ背臥位で横たわり,いくつかの共通した運動を行うといったものである。これを用いると肋骨背側面が床から離されることでキャリパー運動が増加したり,肋骨が後方へ伸展することにより胸郭のconfigurationが変化して換気が改善したり,筋のストレッチ効果によりリラクゼーションが得られると考えられる。しかしながらストレッチポールによる呼吸機能への生理学的・換気力学的な効果については十分に検証されていない。本研究の目的は,健常者においてストレッチポールによるリラクゼーション運動が胸郭に与える影響を検討し,呼吸器疾患患者への運動療法へ応用することを検討することである。
【方法】対象者は健常若年者21名(20.3±1.4歳)とした。対象者をランダムにストレッチポールによる介入群(ストレッチポール群)と傾斜版による下腿三頭筋の持続ストレッチ群(Sham-ex群)の2群に振り分けた。ストレッチポール群はコア・コンディショニング協会が推奨する運動療法である“ベーシックセブン”のうち,肩甲帯および胸郭周囲のリラクゼーションのための3種類の手技を,ストレッチポールEXを用いて10分間実施した。Sham-ex群は背屈25度または被験者が強い伸張痛を訴える場合は15度に設定した傾斜板上に起立し,10分間の下腿三頭筋の持続ストレッチをおこなった。それぞれ介入前後に換気諸量と呼吸中枢出力の指標であるP0.1を,呼吸困難感,身体の安楽度を10cmのVAS(Visual analog scale)を用いて測定した。また心拍変動解析による自律神経活動を観察するためにモニター心電計を用いて心電図を記録した。換気諸量の測定には呼気ガス分析器を用い,P0.1測定のための気道内圧と心電計の波形はADコンバーターを用いてPCに記録した。まず座位で肺気量分画測定と呼吸筋力測定を実施した。次に介入前測定として背臥位でVASの聴取と胸郭測定を行い,その後側臥位でマスクを装着して換気諸量とP0.1および心電計を5分間記録した。介入前測定の直後,ストレッチポールによる介入とSham-exをそれぞれの群に10分間実施した。その後,介入前測定と同じ測定をおこなった。統計学的処理には,介入前後の変化量の等分散性の確認のためにLeveneの検定を行った後,2群間の比較に対応のないt検定を用いた。危険率は0.05未満を有意とした。
【結果】換気諸量の比較では,分時換気量と二酸化炭素排出量の変化量に有意な差を認め,ストレッチポール群は減少しsham-ex群はむしろ増加した。心拍数は両群で減少したが,sham-ex群の変化量が有意に大きかった。またVASで表現される身体の安楽度については,ストレッチポール群のほうが改善する傾向ではあったが,統計学的には有意ではなかった。また呼吸中枢出力の指標であるP0.1,VT/P0.1,胸郭拡張差についてはいずれも有意な差は認められなかった。
【考察】背臥位では胸郭背部は床面に固定されるために,肋骨の後方へのカリパス運動が制限される。ストレッチポールのような円筒形の器具に背臥位で横たわると,体幹は脊柱のみで自重を支えることになるため,胸郭は床面からの固定から解放されることにより胸郭の運動性が改善することが予想された。しかし実際は胸郭の可動性に有意差はみられず,また換気諸量にも大きな影響は及ぼさなかったことから,対象や適応については検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】四肢と異なり胸郭へのアプローチはセルフエクササイズの種目が少ない。安価な器具を用いることで呼吸の安楽が図れるのであれば患者にとって有益であるため,これらの達成する運動療法の探索は有意義である。本研究は平成25年度コア・コンディショニング協会の研究助成制度による助成により実施した。