第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述12

呼吸2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:間瀬教史(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科)

[O-0094] 座位での骨盤前傾角度の増加が胸郭可動性と呼吸機能に及ぼす影響

武田広道, 岡山裕美, 大工谷新一 (岸和田盈進会病院リハビリテーション部)

キーワード:骨盤傾斜角, 胸郭可動性, 呼吸機能

【はじめに,目的】
我々は本学会において円背姿勢では胸椎彎曲角度,腰椎彎曲角度,骨盤後傾角度の中で骨盤後傾角度の増加が最も胸郭可動性と呼吸機能に影響を及ぼすことを報告した。そこで今回は骨盤前傾位のアラインメントが胸郭可動性と呼吸機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
呼吸器系および整形外科学的に問題がなく,喫煙歴のない健常成人男性11名を対象とした。平均年齢は27.6±4.2歳(平均±標準偏差),平均身長は171.2±5.4cm,平均体重は62.6±5.0kgであった。
測定姿勢は,端座位で骨盤前後傾中間位,10°前傾位,20°前傾位の3肢位とした。各々の肢位で呼吸機能,胸郭拡張差,胸腰椎彎曲角度の測定を行った。呼吸機能はスパイロメータ(SPIROSIFT SP-400フクダ電子社製)を使用し,肺活量(VC),%肺活量(%VC),予備吸気量(IRV),努力肺活量(FVC),%努力肺活量(%FVC)を測定した。胸郭拡張差は腋窩部レベル(上部)と剣状突起レベル(下部)をメジャーで測定した。胸腰椎彎曲角度はスパイナルマウス(インデックス社製)で計測した。そして,骨盤前後傾中間位と10°前傾位,20°前傾位での胸椎彎曲角度,腰椎彎曲角度を一元配置分散分析および多重比較検定(Dunnet法)にて検討した。また独立変数を胸椎彎曲角度,腰椎彎曲角度,骨盤傾斜角度,従属変数を呼吸機能と胸郭拡張差として重回帰分析(強制投入法)を行った。なお,有意水準はp<0.05とした。
【結果】
胸椎後彎角度は骨盤中間位で36.1±7.4°,10°前傾位で36.3±6.9°,20°前傾位で33.5±7.2°であった。腰椎前彎角度は骨盤中間位で-1.5±5.4°,10°前傾位で6±6.9°,20°前傾位で11.3±8.5°であった。骨盤中間位と比較し10°前傾位,20°前傾位ではともに腰椎前彎角度は有意に高値を示したが(p<0.05),胸椎彎曲角度には有意差がみられなかった。重回帰分析では前段階の一元配置分散分析の結果,VC,%VC,IRV,FVC,%FVC,胸郭拡張差(上部),胸郭拡張差(下部)と胸椎彎曲角度,腰椎彎曲角度,骨盤前傾角度において有意差はみられず,重回帰式,従属変数に対する独立変数の影響度合いを示す標準偏回帰係数は算出されなかった。
【考察】
本研究では,胸郭可動性と呼吸機能に影響を及ぼす要因について,胸椎彎曲角度,腰椎彎曲角度,骨盤前傾角度から検討した。重回帰分析の結果,一元配置分散分析の時点で有意差がみられなかった。これは統計学的に骨盤前傾位の姿勢では骨盤傾斜角度,胸腰椎彎曲角度は胸郭可動性と呼吸機能に影響を及ぼすことはないことを示している。この原因として,胸椎彎曲角度については骨盤中間位と比較し10°前傾位,20°前傾位でも有意に増加することがなかったことが考えられる。そのため肋椎関節に与える影響も少なく,胸郭可動性,呼吸機能に変化がみられなかったと考える。また腰椎前彎角度は骨盤中間位と比較し,10°前傾位,20°前傾位で有意に高値を示したが,強制呼気筋である腹筋群がわずかに伸張される程度であり胸郭可動性,呼吸機能に与える影響は少なかったと考える。円背姿勢での我々の先行研究では胸椎後彎角度増加により代償的に頸椎前彎角度も増加し,呼吸補助筋である胸鎖乳突筋,斜角筋,僧帽筋などの過活動がみられ胸郭上部の可動性が低下していた。また腰椎後彎角度の増加により腹筋群の静止張力減少や姿勢保持のための腹筋群の過活動が起き,呼気筋としての機能が低下し,胸郭下部の可動性や呼吸機能の低下にも関係していたことが明らかとなった。しかし骨盤前傾位では胸椎後彎角度,頸椎前彎角度に大きな変化がみらないことから姿勢が呼吸補助筋に及ぼす影響が少なく胸郭可動性,呼吸機能の変化はみられなかったと考える。
本研究では骨盤中間位と比較し骨盤前傾位の座位において胸郭可動性と呼吸機能に変化はなく,骨盤中間位から前傾方向への骨盤,脊柱アラインメントの偏位は胸郭可動性と呼吸機能に与える影響は少ない可能性が高いということが明らかとなった。そのため骨盤前傾位で胸郭可動性,呼吸機能が低下している症例は骨盤,脊柱アラインメントが原因である可能性は低いことが示唆された。
我々の先行研究では骨盤後傾位の座位では骨盤,脊柱アラインメントが胸郭可動性と呼吸機能に影響を及ぼす結果となった。しかし,本研究の骨盤前傾位では影響を受けないことが明らかとなった。これは胸郭可動性と呼吸機能が低下している症例に対する評価基準の一助となる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は胸郭可動性と呼吸機能の低下が骨盤,脊柱アラインメントの影響を受けているかを,骨盤傾斜角度から推測する上で有用であると考える。