第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述13

運動制御・運動学習2

Fri. Jun 5, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:淺井仁(金沢大学 医薬保健研究域保健学系リハビリテーション科学領域)

[O-0107] 若年健常者を対象とした閉眼片脚立位検査より優れた動的バランス評価の方法について

天井効果に着目して

田邉裕基1, 鈴木康裕1,2, 加藤秀典1, 石川公久1 (1.筑波大学附属病院リハビリテーション部, 2.筑波大学大学院疾患制御医学専攻代謝内分泌内科学)

Keywords:若年健常者, 動的バランス, 重心動揺計

【はじめに,目的】
動的バランス能力は,重心動揺計を用いても評価することが可能であり,望月らにより姿勢安定度評価指標(index of postural stability:以下IPS)が考案されている。また鈴木らにより,IPSを閉眼および軟面上立位でおこなうことで,よりバランス難度を高めた評価指標である,筑波大式修正IPS(modified IPS:以下MIPS)が考案された。我々は,第49回本学会でMIPSが,若年健常者における閉眼片脚立位検査(closed eye one foot standing:以下COFS)を指標としたバランス不良群の鋭敏な抽出が可能であったことを報告しており,動的バランス能力を評価するMIPSの一定の妥当性を示すことができた。しかし,MIPSの有用性について,COFSとの比較検証,また再現性についても検証されておらず,臨床応用には基礎資料が不十分である。
そこで本研究の目的は,バランス能力の安定している若年健常者を対象として,MIPSとCOFSとの比較をおこなうことでMIPSの有用性,また再現性の検討をおこなうことで,MIPSの臨床応用の可能性を検証することである。
【方法】
対象は当院職員である健常者100名(男性50名,女性50名),年齢27.1±7.1歳,BMI 22.3±3.6。測定には重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-10typeCIV:測定周波数20Hz)およびバランスパッド・エリート(エアレックス社製:横47cm×縦38cm,厚さ6cm:以下軟面)を用いた。本研究の検査手順として,まず左右両側でそれぞれCOFSを2回実施し,上限を60秒として最長値を代表値した。次に十分休憩を与えた後に,重心動揺計の検査台上に軟面をセットし,軟面上にて閉眼・直立位をとらせMIPSをおこなった。一連の計測は同日内でおこない,2回目の計測は日時を変え上記と同様に実施した。そしてCOFSで,左右両側60秒到達者を天井群として抽出した。MIPSの評価は,被検者の立ち位置において,足底内側を平行に10cm離した軽度開脚立位の足位で開始肢位とした。被検者には測定内容を説明し,検査台上で前後・左右への重心移動をおこなわせ,足底の要領を得た後に測定を開始した。MIPSはIPSに則り,Log〔(安定性限界面積+平均重心動揺面積)/平均重心動揺面積〕にて算出した。
統計解析は,MIPSの有用性について,天井群におけるMIPS(1回目)と,その成績順序をspearman順位相関係数を用いて検討した。MIPSの再現性については,対象者全員に対して検証をおこない,偶然誤差の観点から級内相関係数ICC(1.1),系統誤差の観点からMIPSの平均値と差(1-2回目間)を用いて加算誤差・比例誤差の有無をBland-Altman法を用いて検討した。また,最少可検変化量(minimal detectable change:以下MDC)についても併せて求めた。統計解析ソフトは,SPSS(ver21)を使用し全ての統計的有意判定基準は5%未満とした。
【結果】
COFSにおいて,天井群は38名(全体比38%)であり,天井群のMIPSとその成績順序には強い相関性が認められた(r=0.99,p<0.001)。MIPSの測定値は1回目0.77±0.20,2回目0.81±0.20であり,ICC(1.1)は0.72であった。また,系統誤差として加算および比例誤差は認められず,MDCは0.33であった。
【考察】
本研究の結果から,MIPSは,COFSにおいて高い動的バランス能力を保持した天井群を対象とした場合においても,詳細に対象個人の動的バランス能力を判定できることが示唆された。MIPSは,COFSとは相違し,軟面上立位をとり,さらに前後左右方向へ重心移動をおこなうタスクが課されるため,これらを閉眼でおこなうことで足底面からの感覚情報と身体の空間位置覚情報などを統合する能力を特に求められる測定指標である。MIPSによるこの要素が動的バランス能力を鋭敏に反映させた可能性が考えられる。
一方,MIPSは,偶然誤差の観点からICC(1.1)は0.72と中等度の信頼性を示し,系統誤差の観点からも加算および比例誤差を認めず,再現性の良い評価指標であることが示唆された。MIPSは,IPSを修正した評価指標であるが,IPSにおいては対数値を用いている,また重心動揺面積を平均値として求めていることなどから,より再現性に優れた算出方法であることがすでに示されている。そのため,MIPSにおいてもIPS同様に良好な再現性が得られたと考えられる。そして,MIPSのMDC=0.33が判明したことで,MIPSは臨床上で使用しやすい評価尺度になるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
MIPSは,バランス能力に優れた対象においても天井効果を示さない有用な評価指標であることが示された。そのため,MIPSはアスリートや健常者などを対象とした臨床や疫学調査などに役立つことが期待され,理学療法分野に寄与できるものと考えられる。