第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述14

足部

Fri. Jun 5, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:境隆弘(大阪保健医療大学)

[O-0113] 踵骨隆起の形態と骨支持点について

壇順司, 高濱照 (九州中央リハビリテーション学院)

Keywords:超音波診断装置, 踵骨隆起内側突起, 骨支持点

【はじめに】静的立位において踵骨隆起部は軟部組織を介して体重を支持しているが,踵骨隆起部での支持部位(以下骨支持点)については様々な見解がある。そこで今回立位時の床から踵骨隆起内側突起(以下内突起)と外側突起(以下外突起)までの距離を超音波診断装置(以下エコー)にて計測し,各々の床からの距離と骨支持点が明らかとなった。さらに乾燥踵骨標本にて形態を観察・計測することで,踵骨隆起の形態の個体差を認めたので報告する。

【対象】1)エコー(東芝メディカルシステムズ社)での計測は,健常人54名(男26名,女28名)左右108踵部,年齢20.9±0.6歳,体重59.8±10.9kgであった。2)当学院所蔵の乾燥骨標本の計測は,踵骨19個(右7個左12個),男性,年齢(享年)57.2±14歳であった。

【方法】1)静的立位の床から内突起・外突起下端までの距離は,エコーを用い,高さ17cm台の天板にプローブヘッドと同サイズの穴を短軸方向に空け,下方よりプローブを差し込み,ヘッド先端を天板上面と一致させ動かないように固定する装置を作成した。そしてこの装置と同じ高さに体重計を置き,1/2荷重位で短軸撮影し計測した。床-内突起間と床-外突起間の距離を比較した。また体重との相関関係を調べた。2)乾燥踵骨標本の計測は,人骨計測法の踵骨の計測法を参考に,デジタルノギス(シンワ社)を用い①踵骨全長 ②踵骨中央幅 ③骨体最小幅 ④踵骨高 ⑤踵骨最大高 ⑥踵骨体長 ⑦荷重腕長 ⑧載距突起幅 ⑨内突起高 ⑩外突起高 ⑪踵骨隆起幅 ⑫後距骨関節面長 ⑬後距骨関節面幅 ⑭後距骨関節面高 ⑮立方骨関節面幅 ⑯立方骨関節面高を計測し,①~⑯の幾何平均を求め内突起高と外突起高の値をそれぞれ幾何平均で除した値を算出し,内突起高率と外突起高率を比較した。3)立位時の踵骨隆起上端から内突起・外突起下端までの距離を計測するために,踵骨と距骨を組み合わせて立位にできるだけ近い状態に固定した。矢状面では傾斜21°のジグの上に両面テープを用い固定した。水平面では後方よりみて距骨体の上面が水平になるように傾きを調整した。前額面では頭方よりみて,踵骨隆起のアキレス腱付着部の内側端と外側端を前額面と一致させた。そして踵骨後端部にスケールを配置し,後方より踵骨隆起全体をデジタルカメラEOS40D(Canon)にて撮影した。得られた画像をphoto shop(adobe)に読み込み,踵骨隆起上端と内突起・外突起下端の距離を計測した。得られた値をそれぞれ幾何平均で除して,立位内突起高率と立位外突起高率を比較した。統計学的解析は,Mann-Whitney’s U testを用い有意水準を5%未満とした。

【結果】1)右床-内突起間10.2±2.1mm,右床-外突起間15.9±2.7mm,左床-内突起間9.8±1.9mm,左床-外突起間15.2±2.6mmであり,左右とも内外突起間には有意差が認められ(p<0.01),内突起が骨支持点となっていた。また体重と内突起(r0.63,p<0.01)・外突起(r 0.52,p<0.01)までの距離には有意な相関を示し,体重が重くなると床から内外突起までの距離は長くなり,軽いと短くなった。2)内突起高率は2.11±0.1(42.4±4.7mm)であり,外突起高率は1.99±0.2(40.1±4.7mm)であり,内突起が有意に長かった(p<0.05)。3)立位内突起高率は1.29±0.1(37.8±5.2mm)であり,立位外突起高率は1.11±0.1(32.3±5mm)であり,内突起が有意に長かった(p<0.05)。

【考察】踵骨隆起の形態は個体によって異なり,外突起は内突起より頭方に位置し,骨支持点になることはなかった。つまり,静的立位時は,軟部組織を介して内突起が骨支持点になっていることがわかった。このことは,踵骨接地時に後足部は不安定な状態になるが,自由度は高くなるため踵骨を内外側方向に容易に傾斜させることができ,距骨下関節の回内外の動きを誘導するには必要な形態であることが推察される。内突起には母趾外転筋,小趾外転筋,短趾屈筋,足底方形筋,足底腱膜が付着しており,足趾運動の支点にもなっているため,内突起が床に近づくことで安定した筋活動が可能になると考えられる。また,体重が重いと踵骨への衝撃は強くなるため,踵骨と足底の皮膚との間の蜂巣組織が厚く発達すると推察される。

【理学療法研究としての意義】踵骨を支点にテーピングやパッドを用いて固定や誘導する際,内突起が骨支持点になっていることや体重により蜂巣組織の厚さが変化することの理解は,確実な操作を行う上で重要な知識であり,理学療法の一助になると考える。