第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述15

脊椎1

Fri. Jun 5, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:青木一治(名古屋学院大学 リハビリテーション学部 理学療法学科)

[O-0119] 腰椎術前患者のJOABPEQ得点と身体機能との関係

全身筋肉量は腰椎機能障害と心理的障害と関係している

竹中裕人1, 西浜かすり1, 矢口敦貴1, 鈴木惇也1, 花村俊太朗2, 花村浩克2, 神谷光広3 (1.あさひ病院リハビリテーション, 2.あさひ病院整形外科, 3.愛知医科大学医学部整形外科)

Keywords:腰椎術前患者のJOABPEQ得点, 全身筋肉量, 身体機能

【はじめに,目的】
腰椎手術を必要とする対象者の特異的QOL評価として,日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire(JOABPEQ))を用いられるようになっているが,JOABPEQ得点と身体機能,特に体幹筋力や全身筋肉量についてはほとんど報告されていない。本研究では,腰椎術前患者のJOABPEQ得点と身体機能との関係を明らかにすることを目的とした横断研究を行った。


【方法】
2013年11月から2014年10月までの間に,腰椎手術予定で当院に入院した患者を対象とした。腰椎の手術治療は病態によって選択される手術が異なる。腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)では,腰椎の不安定性を基軸として,除圧術と除圧固定術を選択する。また,腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)では原則,ヘルニア摘出術が選択される。対象の内訳は,除圧群17名(男性15名,64.7±9.0歳),除圧固定群13名(男性9名,67.2±10.7歳),ヘルニア摘出術群7名(男性7名,56.0±13.6歳)であった。
手術前日に術前評価を行った。評価項目は,身体機能評価として,全身筋肉量,体幹筋力,下肢柔軟性と,QOL評価として,JOABPEQとした。全身筋肉量は,身体組成計InBody230(Biospace社製)で測定し,筋肉量を身長の二乗で除した値を用いた。体幹筋力は,徒手筋力計mobie(酒井医療社製)を用い,座位にて体幹伸展と屈曲の等尺性筋力を測定した。筋力は体重で除した値を用いた。下肢柔軟性は,指床間距離,下肢伸展挙上角度,踵臀部距離,トーマス法を計測した。JOABPEQ得点は疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害の5項目から構成されており,構成する5項目それぞれの得点を用いる評価指標である。
統計解析ソフトは,Rコマンダー2.8.1を用いた。3群間の比較として一元配置分散分析法を用いた。JOABPEQの5項目と身体機能の項目とのそれぞれの相関の検定にはスピアマンの順位相関係数を用いた。有意水準は5%とした。


【結果】
除圧群,除圧固定群,ヘルニア摘出術群の3群の比較において,身体機能,JOABPEQ得点において有意な差を認めなかった。相関関係は3群をまとめて算出した。JOABPEQの心理的障害得点は筋肉量と有意な正の相関(r=0.39,p<0.01(年齢調節))を認め,腰椎機能障害得点は筋肉量と有意な正の相関(r=0.45,p<0.01(年齢調節))を認めた。加えて,腰椎機能障害得点は,他のJOABPEQ得点の疼痛関連障害(r=0.32,p<0.05),歩行機能障害(r=0.62,p<0.01),社会生活障害(r=0.46,p<0.01)と有意な正の相関を認めた。一方で,体幹筋力,下肢柔軟性はJOABPEQ得点のどの項目とも相関関係を認めなかった。


【考察】
JOABPEQ得点と身体機能の関係について,全身筋肉量は,年齢調節後のJOABPEQの腰椎機能障害得点と心理的障害得点に有意な正の相関を認めた。特に,心理的障害得点は,全身筋肉量のみ関係があり,他のJOABPEQ得点や身体機能と関係が認められなかった。一方,腰椎機能障害得点は,他のJOABPEQ得点の疼痛関連障害,歩行機能障害,社会生活障害と関係があった。全身筋肉量は,運動耐応能や上肢や下肢の筋力と関係があると報告されていることから,これら体力を構成する因子が関連して腰椎機能障害や心理的障害と関連していた可能性が考えられる。今後は,全身筋肉量,心理的障害,腰椎機能障害の3つの関係について交絡因子を含め検討していく必要がある。
また,本研究で調査した3群間において,全身筋肉量,体幹筋力,柔軟性とJOABPEQ得点に有意な差は認めなかった。しかし,サンプルサイズの問題,性別の比較ができていないこと,歩行距離などの機能を評価していないことが本研究の限界であり,今後検証していく必要がある。
本研究では,全身筋肉量が,腰椎機能障害のみならず心理的障害に関係していることが新たに示唆された。そのため,術後リハビリテーションには,身体機能に対し筋肉量を増すようなレジスタンストレーニングを行うことで心理機能に対してもアプローチできる可能性が示唆された。


【理学療法学研究としての意義】
術前にJOABPEQと身体機能との関係を把握することで,どのような身体機能に介入するべきかの一助となる。本研究は,術後経過を良好なものにするための運動療法や患者教育方法を検討する研究へと繋がる。