[O-0120] 生活満足度評価尺度 日本語版LiSat-11の信頼性および妥当性の検討に関する予備的研究
Keywords:慢性疼痛, LiSat-11, 生活満足度
【はじめに,目的】
慢性疼痛は身体的,心理的,情動的,社会的といった様々な要因が関与しており,感覚としての痛みという問題だけでなく,日常生活活動(ADL)や生活の質(QOL)の低下をもたらす。ADL,QOLの評価尺度として生活満足度を評価する質問票であるLiSat-11(The life satisfaction checklist)があり,主に脊髄損傷患者を対象としたQOL評価として臨床・研究において使用されている。近年,慢性疼痛患者を対象とし,このLiSat-11を使用した生活満足度についての報告もなされてきており,慢性疼痛患者では生活満足度が低く,慢性的な痛みとの関連が指摘されている。しかし,LiSat-11の日本語版は現在のところ存在せず,本邦における慢性疼痛患者の評価として生活満足度は十分に考慮されていないと考えられる。そこで我々は日本語版作製に向けて原作版を翻訳し,言語的妥当性の担保されたLiSat-11を作成した。今回,日本語版LiSat-11の信頼性と妥当性に関する予備的研究を行い,関連する因子について検討したので報告する。
【方法】
対象は18歳以上80歳以下で腰背部痛が6ヵ月以上持続する男性3名女性18名の21名(平均年齢65.3±12.2歳)とした。除外基準は神経根性疼痛を有する者,腰部の著明な変形がある者とした。調査項目は腰背部痛の強度,腰痛による日常生活障害度,心理的要因および生活満足度とした。腰背部痛の強度はVisual Analogue Scale(VAS)にて,安静時,長時間座位時,動作時について評価した。腰痛による日常生活障害度はRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)を,心理的要因として慢性疼痛に影響を与える因子とされているHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),Pain Catastrophizing Scale(PCS),Tampa scale for kinesiophobia(TSK)を,生活満足度はLisat-11を用いて評価した。Lisat-11は生活全体,仕事,経済的状況,余暇活動,友人との交流,性生活,ADL,家族との関係,パートナーとの関係,身体的健康,精神的健康の11項目に関する満足度を1=「とても不満である」から6=「とても満足である」の6段階にて評価するものである。統計解析は,信頼性の検討としてCronbachのα係数を算出し,内的整合性について検討した。妥当性の検討としてLiSat-11の合計点および各質問項目とその他の調査項目の相関関係をPearsonの積率相関係数を算出し検討した。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】
Cronbachのα係数は0.95であった。LiSat-11の合計点はHADS(抑うつ),PCSの合計点,PCS下位項目の反芻と無力感,TSK,および動作時痛と有意な負の相関を認めた(r=-0.574,-0.580,-0.567,-0.488,-0.556,-0.573,p<0.05)。
【考察】
Cronbachのα係数は0.7以上で内的整合性があると判断され,本研究において日本語版LiSat-11は高い内的整合性が確認された。また,RDQとの相関関係はみられなかったものの,動作時痛および慢性疼痛に影響を与える心理的因子であるHADS,PCS,TSKとの有意な負の相関関係を認めたことから,LiSat-11は慢性疼痛患者における生活満足度評価としての妥当性を有するものである可能性が示唆された。しかし,現段階では信頼性および妥当性の検討として対象者数が不十分であり,また対象疾患も慢性腰痛患者のみに限られている。今後,対象疾患や対象者数を増やし,またコントロール群との比較を行うことで,さらなる信頼性および妥当性の検討が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
QOL評価の一つであり,慢性疼痛との関連が指摘されている生活満足度を評価する日本語版質問票は存在しなかった。信頼性と妥当性を有する質問票を開発することで,慢性疼痛患者における生活満足度に関するさらなる調査,検討が可能となる。また,慢性疼痛のみでなく,すでに多くの報告がなされている脊髄損傷をはじめとした様々な疾患を有する患者のQOL評価としても使用することができ,日本語版LiSat-11の開発および運用は重要であると考える。
慢性疼痛は身体的,心理的,情動的,社会的といった様々な要因が関与しており,感覚としての痛みという問題だけでなく,日常生活活動(ADL)や生活の質(QOL)の低下をもたらす。ADL,QOLの評価尺度として生活満足度を評価する質問票であるLiSat-11(The life satisfaction checklist)があり,主に脊髄損傷患者を対象としたQOL評価として臨床・研究において使用されている。近年,慢性疼痛患者を対象とし,このLiSat-11を使用した生活満足度についての報告もなされてきており,慢性疼痛患者では生活満足度が低く,慢性的な痛みとの関連が指摘されている。しかし,LiSat-11の日本語版は現在のところ存在せず,本邦における慢性疼痛患者の評価として生活満足度は十分に考慮されていないと考えられる。そこで我々は日本語版作製に向けて原作版を翻訳し,言語的妥当性の担保されたLiSat-11を作成した。今回,日本語版LiSat-11の信頼性と妥当性に関する予備的研究を行い,関連する因子について検討したので報告する。
【方法】
対象は18歳以上80歳以下で腰背部痛が6ヵ月以上持続する男性3名女性18名の21名(平均年齢65.3±12.2歳)とした。除外基準は神経根性疼痛を有する者,腰部の著明な変形がある者とした。調査項目は腰背部痛の強度,腰痛による日常生活障害度,心理的要因および生活満足度とした。腰背部痛の強度はVisual Analogue Scale(VAS)にて,安静時,長時間座位時,動作時について評価した。腰痛による日常生活障害度はRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)を,心理的要因として慢性疼痛に影響を与える因子とされているHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),Pain Catastrophizing Scale(PCS),Tampa scale for kinesiophobia(TSK)を,生活満足度はLisat-11を用いて評価した。Lisat-11は生活全体,仕事,経済的状況,余暇活動,友人との交流,性生活,ADL,家族との関係,パートナーとの関係,身体的健康,精神的健康の11項目に関する満足度を1=「とても不満である」から6=「とても満足である」の6段階にて評価するものである。統計解析は,信頼性の検討としてCronbachのα係数を算出し,内的整合性について検討した。妥当性の検討としてLiSat-11の合計点および各質問項目とその他の調査項目の相関関係をPearsonの積率相関係数を算出し検討した。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】
Cronbachのα係数は0.95であった。LiSat-11の合計点はHADS(抑うつ),PCSの合計点,PCS下位項目の反芻と無力感,TSK,および動作時痛と有意な負の相関を認めた(r=-0.574,-0.580,-0.567,-0.488,-0.556,-0.573,p<0.05)。
【考察】
Cronbachのα係数は0.7以上で内的整合性があると判断され,本研究において日本語版LiSat-11は高い内的整合性が確認された。また,RDQとの相関関係はみられなかったものの,動作時痛および慢性疼痛に影響を与える心理的因子であるHADS,PCS,TSKとの有意な負の相関関係を認めたことから,LiSat-11は慢性疼痛患者における生活満足度評価としての妥当性を有するものである可能性が示唆された。しかし,現段階では信頼性および妥当性の検討として対象者数が不十分であり,また対象疾患も慢性腰痛患者のみに限られている。今後,対象疾患や対象者数を増やし,またコントロール群との比較を行うことで,さらなる信頼性および妥当性の検討が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
QOL評価の一つであり,慢性疼痛との関連が指摘されている生活満足度を評価する日本語版質問票は存在しなかった。信頼性と妥当性を有する質問票を開発することで,慢性疼痛患者における生活満足度に関するさらなる調査,検討が可能となる。また,慢性疼痛のみでなく,すでに多くの報告がなされている脊髄損傷をはじめとした様々な疾患を有する患者のQOL評価としても使用することができ,日本語版LiSat-11の開発および運用は重要であると考える。