[O-0123] 四つ這い姿勢を用いた胸腰部傍脊柱筋の筋力トレーニング
―姿勢の違いが筋活動に及ぼす影響―
キーワード:四つ這い姿勢, 筋活動, 筋力トレーニング
四つ這い姿勢を用いた上下肢挙上は,腰部安定化エクササイズとして有効であると報告されており,本邦においても腰部安定化エクササイズとして臨床の様々な場面で用いている。特に腰痛症患者に対する理学療法アプローチとして,よく選択される一つの治療方法である。しかし1990年代の報告で,四つ這い姿勢を用いた一側下肢挙上における表層筋の筋活動は,最大20%MVC程度であると言われている。骨格筋の筋力増強には40-60%MVCの筋活動が必要とされていることから,四つ這い姿勢を用いた運動課題を筋力トレーニングとして用いるためには,筋活動についての再検討が必要である。また,四つ這い姿勢の変化が筋活動に及ぼす影響は明らかにされておらず,姿勢や運動課題に工夫を加えることでより明確な治療目的を示すことができる。
本研究は,四つ這い姿勢を3種類に分け,各姿勢における運動課題時の体幹筋の筋活動を筋電図学的に検証し,各姿勢・運動課題の治療目的を明確にすることを目的とした。
対象は,腰背部に疼痛を有しない健常成人男性32名,左右64筋とした。平均年齢は32.4±5.8歳,身長は168.4±7.2cm,体重は68.3±6.4kgであった。方法は,四つ這い姿勢を(1)通常位,(2)頭部下制位,(3)体幹安定位の3種類に分けた。3種類の四つ這いにおいて,片側上肢挙上,片側下肢挙上,上下肢対側挙上の運動課題を実施し,表面筋電計(NORAXON社製;EM-801)を用いて,T10高位(胸部)・L4高位(腰部)の脊柱筋,多裂筋部を導出し,MMTを基準とした%iEMGを算出した。また,各課題の測定順序による系統誤差を均等にするために,循環法を用いた。統計的解析は,各姿勢における導出筋の%iEMGを一般線形モデルを用いて解析した。なお必要症例数は,効果量f=0.4(効果量大),検出力=0.8,危険率p=0.05として63例であった。
片側上肢挙上における挙上側のT10高位の脊柱筋は(1)31.97%,(2)47.66%,(3)50.99%で,頭部下制位と体幹安定位が有意に高かった(P<0.05)。片側下肢挙上における挙上側のL4高位の脊柱筋は(1)18.19%,(2)22.09%,(3)42.92%で体幹安定位が有意に高かった(P<0.05)同様に非挙上側の多裂筋部は(1)58.97%,(2)35.82%,(3)54.67%で,通常位と体幹安定位が有意に高かった(P<0.05)。上下肢対側挙上における上肢挙上側のT10高位の脊柱筋は(1)45.3%,(2)61.3%,(3)53.2%,下肢挙上側のL4高位の脊柱筋は(1)44.1%,(2)19.9%,(3)46.4%,多裂筋部は(1)68.9%,(2)52.3%,(3)60.1%であった。
四つ這い姿勢を用いた一側下肢挙上における表層筋の筋活動は,最大20%MVC程度であるという先行研究があるが本研究の結果,それぞれの姿勢における上肢挙上,下肢挙上,上下肢対側挙上においてT10高位・L4高位の脊柱筋および多裂筋において40~60%の筋活動が認められた。この値は,先行研究で示されている骨格筋の筋力増強のために必要な負荷量である40-60%MVCと一致しており,筋力トレーニングに必要な筋活動が発揮されていることが示された。また姿勢の違いが及ぼす影響として,頭部下制位の四つ這いにおいては,体幹前傾位から正中位に戻るときに脊柱筋の筋活動が漸増するという先行研究に類似した結果と考える。つまり,より体幹前傾位に近い頭部下制位で上肢挙上することが体幹前傾位から正中位に戻すときと同様に,T10高位の脊柱筋の筋活動が向上したと考える。体幹安定位の四つ這いにおいては,体幹が安定することにより深層筋が発揮しやすいという先行研究を支持しており,L4高位の脊柱筋および多裂筋部の筋活動が向上したと考える。以上のように,四つ這い姿勢の違いが運動課題時の特異的な筋活動を示した。治療目的が胸部の脊柱筋に対する筋力トレーニングの場合は,頭部下制位および体幹安定位での片側上肢挙上,腰部の脊柱筋および多裂筋に対する筋力トレーニングの場合は,体幹安定位の片側下肢挙上を推奨すべきと考える。さらに,段階的に筋活動を向上させる場合,通常位および体幹安定位の上下肢対側挙上に漸増することが,より筋力トレーニングを向上させる可能性がある。四つ這いの姿勢の違いによる筋活動の特性を利用して,治療を選択していくことが必要であると考える。
本研究は,臨床において腰痛症患者などの理学療法として用いられる四つ這い姿勢の筋活動特性を明確にして,より治療目的を明確にして実施するために必要となる。