[O-0125] 理学療法士による面談介入は勤労者の腰痛を改善する
産業理学療法的アプローチの試み
Keywords:腰痛, 産業理学療法, 身体活動量
【はじめに】
国民生活基礎調査によると腰痛は最も有訴者の多い症状である。日本における大規模調査では腰痛などの運動器疼痛の有訴率は30~50歳代が最も高く,有訴者のうち医療機関で治療中の者は19%であることが明らかになっている(Nakamura,2011)。つまり,腰痛をはじめとした運動器疼痛は高齢者よりもむしろ就労している壮年世代に多く,医療機関での診察,加療を十分に受けていない可能性がうかがえる。さらに,在日米国商工会議所による慢性疼痛の国民意識調査では,慢性疼痛を有する勤労者の約40%が痛みのせいで仕事に影響が出たと訴えており,疼痛による年間の経済的損失は約3,700億円と推計されている。勤労者の健康増進や疾病予防には産業保健的アプローチがなされるが,日本ではこの分野での理学療法の実績は少ない。慢性腰痛の改善には運動療法が有効であること,また運動療法の有効性を高めるには理学療法士などによる管理が必要であることが日本を含めた各国のガイドラインで推奨されており,勤労者の腰痛に対しても理学療法が寄与できる可能性は十分あると考える。我々は産業理学療法的アプローチとして,理学療法士らの個別の面談介入が勤労者の腰痛を改善するかについて検討した。
【方法】
対象は同一企業に勤務する男性の腰痛有訴者37名とし,無作為に介入群(20名),対照群(17名)に割り付けた。全対象者に日常生活や業務中における腰痛予防指導およびホームエクササイズ指導を理学療法士が実施し,それらのパンフレットを配布ならびに身体活動量計(スズケン社製,ライフコーダGS)を貸与した。さらに,介入群には週1回,理学療法士または保健師,健康運動指導士が面談を行い,身体活動量のレポートの配布と説明,目標設定ならびにホームエクササイズの確認,再指導,腰痛予防・改善に関わる個別の相談を行った。面談は1回約10分間とし,介入期間は12週間とした。対照群には週1回身体活動量のレポートの配布のみを行った。
評価項目は腰痛の程度(100mmVAS),腰痛関連QOL(RDQ),腰痛の慢性化・難治化リスク(STarT back),6分間最大歩行距離(6MD),長座位体前屈,BMI,1日あたりの歩数および運動量とした。評価は介入開始前および介入終了直後,介入終了3ヵ月後に実施した。統計解析は,群内比較にFriedman検定および多重比較検定(Dunn法),群間比較にMann-WhitneyのU検定を行い,危険率を5%とした。
【結果】
介入群の年齢は47.8±12.8歳,対照群は41.4±11.9歳で両群に有意差はなかった。また,介入前の評価では介入群の6MDが対照群よりも有意に高かった。その他の評価項目については両群間で有意差がなかった。介入終了3ヵ月後において,介入群では介入前と比較して腰痛の程度,RDQ,STarT back,BMIが有意に減少し,6MD,長座位体前屈,歩数,運動量が有意に増加した。対照群では6MDのみ介入前と比較して有意に増加した。また,介入終了3ヵ月後の群間比較では,介入群の歩数と運動量が対照群よりも有意に多かった。
【考察】
今回,理学療法士による面談介入により,腰痛,全身持久力,柔軟性,BMI,身体活動量の改善がみられた。また,両群間を比較すると身体活動量が介入群で高値であった。身体活動量向上を目的とした介入のシステマティックレビュー(Conn, 2011)では,対面式の介入が非対面式よりも効果が高いこと,その理由として身体活動時間の確保に関するアドヒアランスが対面式の介入で良好に保たれることが指摘されている。本研究の介入群においては,毎週の面談で身体活動量のフィードバックに加え,具体的な目標を理学療法士とともに設定したことやホームエクササイズの実施状況や方法についての確認,再指導を適宜行い,各対象者に応じた運動を提供したことで身体活動量の向上やホームエクササイズ実施のアドヒアランスを良好にし,身体機能や腰痛を改善させたと考える。また,本研究では腰痛改善を目的として介入を実施したが,歩数や運動量といった身体活動量の増加に非常に有効であった。身体活動量の増加によって,虚血性心疾患(Sattelmair, 2011),脳梗塞(Diep, 2010),がん(Inoue, 2008)のリスクを低減できる可能性が示されており,理学療法士による具体的な身体活動量や運動内容を指導する面談介入はこれらにも応用できる可能性があり,産業理学療法を展開するうえで非常に重要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は対象者が非常に多い勤労者の腰痛に対する産業理学療法に関する試みであり,今回の結果から理学療法士による面談介入が腰痛以外にも応用できる可能性が示され,非常に重要な知見と考える。
国民生活基礎調査によると腰痛は最も有訴者の多い症状である。日本における大規模調査では腰痛などの運動器疼痛の有訴率は30~50歳代が最も高く,有訴者のうち医療機関で治療中の者は19%であることが明らかになっている(Nakamura,2011)。つまり,腰痛をはじめとした運動器疼痛は高齢者よりもむしろ就労している壮年世代に多く,医療機関での診察,加療を十分に受けていない可能性がうかがえる。さらに,在日米国商工会議所による慢性疼痛の国民意識調査では,慢性疼痛を有する勤労者の約40%が痛みのせいで仕事に影響が出たと訴えており,疼痛による年間の経済的損失は約3,700億円と推計されている。勤労者の健康増進や疾病予防には産業保健的アプローチがなされるが,日本ではこの分野での理学療法の実績は少ない。慢性腰痛の改善には運動療法が有効であること,また運動療法の有効性を高めるには理学療法士などによる管理が必要であることが日本を含めた各国のガイドラインで推奨されており,勤労者の腰痛に対しても理学療法が寄与できる可能性は十分あると考える。我々は産業理学療法的アプローチとして,理学療法士らの個別の面談介入が勤労者の腰痛を改善するかについて検討した。
【方法】
対象は同一企業に勤務する男性の腰痛有訴者37名とし,無作為に介入群(20名),対照群(17名)に割り付けた。全対象者に日常生活や業務中における腰痛予防指導およびホームエクササイズ指導を理学療法士が実施し,それらのパンフレットを配布ならびに身体活動量計(スズケン社製,ライフコーダGS)を貸与した。さらに,介入群には週1回,理学療法士または保健師,健康運動指導士が面談を行い,身体活動量のレポートの配布と説明,目標設定ならびにホームエクササイズの確認,再指導,腰痛予防・改善に関わる個別の相談を行った。面談は1回約10分間とし,介入期間は12週間とした。対照群には週1回身体活動量のレポートの配布のみを行った。
評価項目は腰痛の程度(100mmVAS),腰痛関連QOL(RDQ),腰痛の慢性化・難治化リスク(STarT back),6分間最大歩行距離(6MD),長座位体前屈,BMI,1日あたりの歩数および運動量とした。評価は介入開始前および介入終了直後,介入終了3ヵ月後に実施した。統計解析は,群内比較にFriedman検定および多重比較検定(Dunn法),群間比較にMann-WhitneyのU検定を行い,危険率を5%とした。
【結果】
介入群の年齢は47.8±12.8歳,対照群は41.4±11.9歳で両群に有意差はなかった。また,介入前の評価では介入群の6MDが対照群よりも有意に高かった。その他の評価項目については両群間で有意差がなかった。介入終了3ヵ月後において,介入群では介入前と比較して腰痛の程度,RDQ,STarT back,BMIが有意に減少し,6MD,長座位体前屈,歩数,運動量が有意に増加した。対照群では6MDのみ介入前と比較して有意に増加した。また,介入終了3ヵ月後の群間比較では,介入群の歩数と運動量が対照群よりも有意に多かった。
【考察】
今回,理学療法士による面談介入により,腰痛,全身持久力,柔軟性,BMI,身体活動量の改善がみられた。また,両群間を比較すると身体活動量が介入群で高値であった。身体活動量向上を目的とした介入のシステマティックレビュー(Conn, 2011)では,対面式の介入が非対面式よりも効果が高いこと,その理由として身体活動時間の確保に関するアドヒアランスが対面式の介入で良好に保たれることが指摘されている。本研究の介入群においては,毎週の面談で身体活動量のフィードバックに加え,具体的な目標を理学療法士とともに設定したことやホームエクササイズの実施状況や方法についての確認,再指導を適宜行い,各対象者に応じた運動を提供したことで身体活動量の向上やホームエクササイズ実施のアドヒアランスを良好にし,身体機能や腰痛を改善させたと考える。また,本研究では腰痛改善を目的として介入を実施したが,歩数や運動量といった身体活動量の増加に非常に有効であった。身体活動量の増加によって,虚血性心疾患(Sattelmair, 2011),脳梗塞(Diep, 2010),がん(Inoue, 2008)のリスクを低減できる可能性が示されており,理学療法士による具体的な身体活動量や運動内容を指導する面談介入はこれらにも応用できる可能性があり,産業理学療法を展開するうえで非常に重要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は対象者が非常に多い勤労者の腰痛に対する産業理学療法に関する試みであり,今回の結果から理学療法士による面談介入が腰痛以外にも応用できる可能性が示され,非常に重要な知見と考える。