[O-0128] ポールへの荷重量を変化させたノルディックウォーキングが体幹の筋活動に与える影響
Keywords:ノルディックウォーキング, 体幹深層筋, 片脚立位
【はじめに,目的】
高齢社会を迎えた本邦において,中高年者を中心に2本の専用ポールを用いて行うノルディックウォーキング(以下,NW)が近年注目を集めている。NWに関する効果は多数報告されている。運動生理学的な効果として通常の歩行よりも酸素摂取量は大きいが自覚的な運動強度は高くないことや,運動療法の効果として関節痛を有する患者の歩行能力やQOLが改善したという報告がなされている。一方,NW専用ポールは通常の杖よりも長いために体幹を伸展位に保ちやすく,立位の姿勢やバランスの改善にも効果があるといわれているが,この効果に関する検証は十分なされていない。姿勢の改善には体幹を正中位に保持するための筋活動の変化が必要不可欠であるが,上肢でポールを地面に押す力の強さが変わればこれらの筋活動も変化することが予想される。しかしこのような検証を行っている研究はなく,NW指導教本にもポールを押す強さに関しては一切記載されていない。よって本研究ではNW専用ポールを押す強さを変化させた立位や片脚立位時の体幹筋活動を計測し,体幹の深層筋が効果的に働くNW実施方法を確立することを目的に研究を行った。
【方法】
対象はインフォームドコンセントが得られ,整形外科的疾患の既往が無い若年健常者10名(20-22歳)とした。使用機器は筋電図解析装置,ワイヤー電極,表面電極,荷重量測定器内蔵NWポールとした。被験筋は腹横筋,多裂筋,腹直筋,外腹斜筋,脊柱起立筋とし,いずれも右側のみ計測した。腹横筋,多裂筋は超音波画像診断機器によるガイドにてワイヤー電極を各筋に刺入した後,電気刺激装置にて筋収縮を確認した。課題動作は上肢でNW専用ポールを体重の5%,10%,15%で押して免荷させた片脚立位と,上肢で免荷しない通常の片脚立位(以下,0%)の4条件とし,左右とも各々10秒間計測した。なお,片脚立位時,ポールは荷重下肢と反対側の上肢のみで把持し,ポールの接地位置はすべての施行で同位置となるよう設定した。データ解析はバンドパスフィルターを20-500Hzとし,データの安定した中間の2秒間を解析の対象とした。また,各筋のMVCを求め,課題動作試行中の%IEMGを算出した。これらの値の平均値を条件ごとに統計学的に比較・解析した。なお有意水準は5%とした。
【結果】
腹横筋の活動は左下肢支持で0%片脚立位を行った際と15%片脚立位を行った際の値に有意な差が生じた(0%:25.3±11.7%,15%:36.7±18.3%)。多裂筋は右下肢支持で0%片脚立位を行った際と15%片脚立位を行った際の値に有意な差が生じた(0%:7.3±5.5%,15%:10.2±5.1%)。その他,腹直筋,外腹斜筋,脊柱起立筋は左右のいずれの片脚立位においても,0%と15%で有意差が認められた(左0%片脚立位:3.1±3.8%,4.0±1.5%,6.6±3.4%,左15%片脚立位:12.2±8.7%,15.2±9.1%,8.9±3.3%,右0%片脚立位:5.8±12.6%,5.2±2.9%,4.8±4.0%,右15%片脚立位:11.6±8.0%,10.9±7.4%,9.0±4.7%)。
【考察】
体幹の深層筋は上肢で体重を支持しない片脚立位よりも体重の15%の力で支持した片脚立位を行った方が,支持脚と同側の多裂筋と反対側の腹横筋が賦活されることが明らかになった。多裂筋や腹横筋は機能的にはローカルマッスルに分類され,脊椎の分節的な安定性に寄与している。一般的に片脚立位の際にポールなどを突くことで姿勢が安定する要因は支持基底面が広がることが考えられる。しかし,今回の結果より体重の15%程度の力でポールを突くことで姿勢を安定させるためのローカルマッスルが効果的に働くことが明らかとなった。この結果は,実際に体重の15%程度の力でポールを押しながらNWを行った場合,通常歩行よりも体幹の深層筋の活動が高まり,立位姿勢の改善に効果が現れる可能性を示唆している。また,今回の結果からNW専用ポールを用いた片脚立位は,立位で簡便に行える体幹深層筋のエクササイズとしても有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ノルディクウォーキングは通常歩行とは異なる効果が期待されており,その一つに姿勢の改善があげられる。今回の結果より,体幹の深層筋の筋活動はポールを押す力によって変化することが示され,効果的にこれらの筋を賦活させるには体重の10-15%程度の力でポールを押すNWを行ったほうが効果的であることが示唆された。NW実施方法を指導する際にもこのような医学的な根拠に基づいて指導することで,より安全で効果的なNWが行えると考える。
高齢社会を迎えた本邦において,中高年者を中心に2本の専用ポールを用いて行うノルディックウォーキング(以下,NW)が近年注目を集めている。NWに関する効果は多数報告されている。運動生理学的な効果として通常の歩行よりも酸素摂取量は大きいが自覚的な運動強度は高くないことや,運動療法の効果として関節痛を有する患者の歩行能力やQOLが改善したという報告がなされている。一方,NW専用ポールは通常の杖よりも長いために体幹を伸展位に保ちやすく,立位の姿勢やバランスの改善にも効果があるといわれているが,この効果に関する検証は十分なされていない。姿勢の改善には体幹を正中位に保持するための筋活動の変化が必要不可欠であるが,上肢でポールを地面に押す力の強さが変わればこれらの筋活動も変化することが予想される。しかしこのような検証を行っている研究はなく,NW指導教本にもポールを押す強さに関しては一切記載されていない。よって本研究ではNW専用ポールを押す強さを変化させた立位や片脚立位時の体幹筋活動を計測し,体幹の深層筋が効果的に働くNW実施方法を確立することを目的に研究を行った。
【方法】
対象はインフォームドコンセントが得られ,整形外科的疾患の既往が無い若年健常者10名(20-22歳)とした。使用機器は筋電図解析装置,ワイヤー電極,表面電極,荷重量測定器内蔵NWポールとした。被験筋は腹横筋,多裂筋,腹直筋,外腹斜筋,脊柱起立筋とし,いずれも右側のみ計測した。腹横筋,多裂筋は超音波画像診断機器によるガイドにてワイヤー電極を各筋に刺入した後,電気刺激装置にて筋収縮を確認した。課題動作は上肢でNW専用ポールを体重の5%,10%,15%で押して免荷させた片脚立位と,上肢で免荷しない通常の片脚立位(以下,0%)の4条件とし,左右とも各々10秒間計測した。なお,片脚立位時,ポールは荷重下肢と反対側の上肢のみで把持し,ポールの接地位置はすべての施行で同位置となるよう設定した。データ解析はバンドパスフィルターを20-500Hzとし,データの安定した中間の2秒間を解析の対象とした。また,各筋のMVCを求め,課題動作試行中の%IEMGを算出した。これらの値の平均値を条件ごとに統計学的に比較・解析した。なお有意水準は5%とした。
【結果】
腹横筋の活動は左下肢支持で0%片脚立位を行った際と15%片脚立位を行った際の値に有意な差が生じた(0%:25.3±11.7%,15%:36.7±18.3%)。多裂筋は右下肢支持で0%片脚立位を行った際と15%片脚立位を行った際の値に有意な差が生じた(0%:7.3±5.5%,15%:10.2±5.1%)。その他,腹直筋,外腹斜筋,脊柱起立筋は左右のいずれの片脚立位においても,0%と15%で有意差が認められた(左0%片脚立位:3.1±3.8%,4.0±1.5%,6.6±3.4%,左15%片脚立位:12.2±8.7%,15.2±9.1%,8.9±3.3%,右0%片脚立位:5.8±12.6%,5.2±2.9%,4.8±4.0%,右15%片脚立位:11.6±8.0%,10.9±7.4%,9.0±4.7%)。
【考察】
体幹の深層筋は上肢で体重を支持しない片脚立位よりも体重の15%の力で支持した片脚立位を行った方が,支持脚と同側の多裂筋と反対側の腹横筋が賦活されることが明らかになった。多裂筋や腹横筋は機能的にはローカルマッスルに分類され,脊椎の分節的な安定性に寄与している。一般的に片脚立位の際にポールなどを突くことで姿勢が安定する要因は支持基底面が広がることが考えられる。しかし,今回の結果より体重の15%程度の力でポールを突くことで姿勢を安定させるためのローカルマッスルが効果的に働くことが明らかとなった。この結果は,実際に体重の15%程度の力でポールを押しながらNWを行った場合,通常歩行よりも体幹の深層筋の活動が高まり,立位姿勢の改善に効果が現れる可能性を示唆している。また,今回の結果からNW専用ポールを用いた片脚立位は,立位で簡便に行える体幹深層筋のエクササイズとしても有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ノルディクウォーキングは通常歩行とは異なる効果が期待されており,その一つに姿勢の改善があげられる。今回の結果より,体幹の深層筋の筋活動はポールを押す力によって変化することが示され,効果的にこれらの筋を賦活させるには体重の10-15%程度の力でポールを押すNWを行ったほうが効果的であることが示唆された。NW実施方法を指導する際にもこのような医学的な根拠に基づいて指導することで,より安全で効果的なNWが行えると考える。