第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述16

予防理学療法3

2015年6月5日(金) 12:30 〜 13:30 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高野賢一郎(関西労災病院 勤労者予防医療センター)

[O-0129] 児童期における身体活動に対する「行動意図と行動の不一致」と自己効力感の関連性について

伊佐常紀1, 上田雄也2, 中村凌2, 三栖翔吾2, 浅井美佐3, 小野玲2 (1.神戸大学医学部保健学科, 2.神戸大学大学院保健学研究科地域保健学領域, 3.大阪府教育委員会)

キーワード:就学児童, 身体活動量, 自己効力感

【はじめに,目的】
児童期における定期的な身体活動は肥満や体力の低下を防ぐために重要である。児童期の身体活動に影響を与える要因の一つに身体活動に対する行動意図がある。行動意図とは,「人が何か行動しようとするとき,その目的とする行動を遂行する意図」のことを意味しており,行動意図の高さは身体活動と関連することが報告されている。しかし,行動意図の高さと身体活動が一致しない「行動意図と行動の不一致」という現象が生じることも報告されている。行動意図は高いが身体活動が少ない者は,身体活動に対する意図を形成していたとしても,不活動の習慣が強ければ,自然と身体活動が低下することが予想される。また,身体活動は多いが行動意図が低い者は,身体活動の実行が衝動的であり,身体活動の継続が困難となることが予想される。そのため,「行動意図と行動の不一致」を解消することは,身体活動の改善および継続に繋がる可能性があると考えられる。一方で,身体活動の改善および継続に影響を与える他の要因に身体活動に対する自己効力感が報告されている。自己効力感は行動意図にも影響を与えることが報告されており,「行動意図と行動の不一致」を解消する上で,自己効力感に着目することが重要となる可能性が考えられる。しかし,「行動意図と行動の不一致」と自己効力感の関連を調査した研究はない。そこで本研究では,児童期において身体活動に対する「行動意図と行動の不一致」と自己効力感の関係性を調査することを目的とした。
【方法】
対象者は,自己記入式質問紙調査に回答した小学4年生から6年生の1052名のうち,解析に必要な項目をすべて回答した958名(平均年齢10.49±0.99歳,女子502名)とした。行動意図は運動に対する行動意図尺度を,身体活動はWHO Health Behavior in School-aged Children Survey日本語版(以下,HBSC日本語版)を,自己効力感は子ども用身体活動のセルフエフィカシー尺度を用いてそれぞれ調査した。各指標の結果より,まず運動に対する行動意図尺度の得点の中央値を用いて行動意図が高い群と低い群の2群に,HBSC日本語版の規定を用いて身体活動が多い群と少ない群の2群に対象者を分類した。さらに,行動意図と行動が一致している群として,行動意図が高く身体活動が多い群(高意図-高活動群)と行動意図が低く身体活動が少ない群(低意図-低活動群)を,「行動意図と行動の不一致」が生じている群として,行動意図が高く身体活動が少ない群(高意図-低活動群)と行動意図が低く身体活動が多い群(低意図-高活動群)の計4群に分類した。統計解析は,説明変数を行動意図と身体活動による4群とし,一元配置分散分析およびTukey-kramer法を用いて年齢,BMI,自己効力感の得点について4群で群間比較を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
一元配置分散分析より,自己効力感の得点は4群間で有意な差があった(p<.0001)。Tukey-kramer法より,自己効力感の得点は高意図-高活動群(平均得点30.96±6.17)に比べて,「行動意図と行動の不一致」が生じている高意図-低活動群(平均得点26.40±6.18,p<.0001)および低意図-高活動群(平均得点28.44±7.65,p<.0001)が有意に低い値を示した。
【考察】
高意図-高活動群に比べて,低意図-高活動群は行動意図が低く,高意図-低活動群は身体活動が少ない。行動意図と身体活動は自己効力感に影響を受けるため,本研究においても「行動意図と行動の不一致」群の自己効力感のスコアは,高意図-高活動群より低くなったと考える。自己効力感の概念は長期にわたって形成された行動の変容を促す場合において不可欠である。また,行動の継続には自己効力感が関係していると報告されていることからも,「行動意図と行動の不一致」が生じている児童の自己効力感に着目することは,「行動意図と行動の不一致」の改善のみならず,身体活動の実行および継続にも関与することが示唆される。しかし,本研究は横断研究であるため,今後は自己効力感が「行動意図と行動の不一致」や身体活動の継続に与える影響について縦断的に検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
身体活動に対する自己効力感への介入が児童期の身体活動の改善および継続の一助になり,児童の肥満や体力低下の予防に繋がることが示唆される。