[O-0140] 腹部呼吸運動測定による横隔膜運動の推定
Keywords:呼吸運動, 横隔膜, 超音波画像解析
【はじめに,目的】横隔膜は主要な吸気筋であり体幹安定にも寄与する。これらの機能は侵襲的評価により明らかにされてきたが,現在はMRIや超音波画像による非侵襲的評価がしばしば利用されている。しかし,高価な機器が必要となるため,臨床では観察による評価が一般的である。観察においては横隔膜下降に伴う腹部膨隆の程度が指標となるが,それが横隔膜運動をどの程度反映するのかは明らかにされていない。そこで本研究では,超音波画像診断装置,呼吸運動測定器,三次元動作分析装置を用いて,健常者における腹部呼吸運動(腹部膨隆の程度)から横隔膜運動を推定できるかどうかを検証した。
【方法】健常男性15名(21±1歳)を対象とした。呼吸器疾患,循環器疾患,神経疾患,胸腹部外科術後の既往がある人は除外した。対象者は背臥位となり3段階(10mm,20mm,30mm)の腹部呼吸運動を行い,そのときの横隔膜運動を測定した。3段階の腹部呼吸運動は,ペンサイズの呼吸運動測定器により測定した腹部上定点(剣状突起下端と臍部の中点)における鉛直方向の移動距離(Dab)とした。呼吸運動測定器は鉛直位に保ち三脚で固定し,その先端を測定部位に当て,吸気開始から終了までのDabを呼吸運動測定器の目盛上の指標から読み取った。また,腹部呼吸運動における三次元方向の移動距離を測定するために,腹部呼吸運動の測定部位(呼吸運動測定器先端に隣接した部位)に反射マーカを貼付し,三次元動作分析装置を用いて反射マーカの三次元移動距離(Dma)も測定した。横隔膜運動の測定には,超音波画像診断装置(Famio 5)を用いた。3.5MHzのコンベックスタイプのプローブを使い,右鎖骨中線から前腋窩線上の肋骨下にプローブに置き,Bモードにて右横隔膜の後方1/3を描出させ,Mモードにて吸気時の横隔膜移動距離(Ddi)を測定した。腹部呼吸運動に伴うプローブの動きを最小限にするため,測定部位にシリコン製のスペーサーを置き,プローブを持つ手の手首と肘をそれぞれ反対側の手,同側の大腿上でしっかり固定させた。加えて,腹部呼吸運動に伴うプローブ位置のズレを確認するために,プローブ上端に反射マーカを貼付し,三次元動作分析装置を用いて反射マーカの移動距離(鉛直方向)を測定した。この値をDdiから引いた補正横隔膜移動距離(Ddi-c)を求めた。プローブ操作は1名の検者が行い,プローブ上端の反射マーカ移動距離が最小になるように測定前に練習を行った。すべての測定値はmm単位で記録した。対象者はDabが10mm,20mm,30mmとなるように呼吸を練習した後,各目標値の±2mm以内を示した呼吸を分析した。Ddi測定の検者内信頼性を検証するために,3条件の呼吸を行った後に,Dabが20mmの条件を再測定した。Ddi-cを従属変数,Dab,Dmaをそれぞれ独立変数とした回帰直線を線形混合効果モデルから求め,その決定係数と推定誤差を算出した。Ddiの検者内信頼性には級内相関係数ICC(1,1)を用いた。
【結果】Dabの10mm,20mm,30mmの呼吸条件における平均Dabはそれぞれ10.2mm,20.2mm,30.1mm,平均Dmaは12.4mm,23.2mm,34.1mm,平均Ddi-cは22.3mm,39.2mm,55.4mmであった。Dab,DmaはともにDdi-cと有意な正の相関を示し,回帰直線の決定係数はそれぞれ0.85,0.88,推定誤差はそれぞれ5.7mm,5.5mmであった。Ddi測定のICC(1,1)は0.90であった。
【考察】健常男性を対象に腹部呼吸運動と横隔膜運動の関連を分析した結果,腹部呼吸運動の指標としたDab,Dmaの平均値は3条件間でほぼ一定の割合で増大し,Ddi-cに比例したDab,Dmaの増大を示した。そして,得られた回帰直線の決定係数から,Dab,DmaはDdi-cを実用的な精度で推定できる可能性があることが示された。また,DabとDmaの推定精度が同等であったことは,腹部定点の呼吸運動を簡易的な器具で測定することで横隔膜運動の推定が可能であることを示す結果といえる。しかし,Ddi-cの推定誤差は5.7mmであり,3条件のDdi-c平均値の約15%に相当した。Ddi測定の信頼性は保たれていたことから,腹部呼吸運動測定が局所であることや個人差を考慮した結果の判断が必要になると考える。今回の結果は健常男性を対象としたことから,今後は横隔膜機能障害のある人に対しても検討を加える必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】横隔膜の定量的評価に特殊な機器が必要となる現状において,簡易的な器具を用いた腹部呼吸運動測定により横隔膜運動を定量的に推定できる可能性を示した本研究の内容は,臨床現場における横隔膜機能の客観的評価に繋がるものと考える。
【方法】健常男性15名(21±1歳)を対象とした。呼吸器疾患,循環器疾患,神経疾患,胸腹部外科術後の既往がある人は除外した。対象者は背臥位となり3段階(10mm,20mm,30mm)の腹部呼吸運動を行い,そのときの横隔膜運動を測定した。3段階の腹部呼吸運動は,ペンサイズの呼吸運動測定器により測定した腹部上定点(剣状突起下端と臍部の中点)における鉛直方向の移動距離(Dab)とした。呼吸運動測定器は鉛直位に保ち三脚で固定し,その先端を測定部位に当て,吸気開始から終了までのDabを呼吸運動測定器の目盛上の指標から読み取った。また,腹部呼吸運動における三次元方向の移動距離を測定するために,腹部呼吸運動の測定部位(呼吸運動測定器先端に隣接した部位)に反射マーカを貼付し,三次元動作分析装置を用いて反射マーカの三次元移動距離(Dma)も測定した。横隔膜運動の測定には,超音波画像診断装置(Famio 5)を用いた。3.5MHzのコンベックスタイプのプローブを使い,右鎖骨中線から前腋窩線上の肋骨下にプローブに置き,Bモードにて右横隔膜の後方1/3を描出させ,Mモードにて吸気時の横隔膜移動距離(Ddi)を測定した。腹部呼吸運動に伴うプローブの動きを最小限にするため,測定部位にシリコン製のスペーサーを置き,プローブを持つ手の手首と肘をそれぞれ反対側の手,同側の大腿上でしっかり固定させた。加えて,腹部呼吸運動に伴うプローブ位置のズレを確認するために,プローブ上端に反射マーカを貼付し,三次元動作分析装置を用いて反射マーカの移動距離(鉛直方向)を測定した。この値をDdiから引いた補正横隔膜移動距離(Ddi-c)を求めた。プローブ操作は1名の検者が行い,プローブ上端の反射マーカ移動距離が最小になるように測定前に練習を行った。すべての測定値はmm単位で記録した。対象者はDabが10mm,20mm,30mmとなるように呼吸を練習した後,各目標値の±2mm以内を示した呼吸を分析した。Ddi測定の検者内信頼性を検証するために,3条件の呼吸を行った後に,Dabが20mmの条件を再測定した。Ddi-cを従属変数,Dab,Dmaをそれぞれ独立変数とした回帰直線を線形混合効果モデルから求め,その決定係数と推定誤差を算出した。Ddiの検者内信頼性には級内相関係数ICC(1,1)を用いた。
【結果】Dabの10mm,20mm,30mmの呼吸条件における平均Dabはそれぞれ10.2mm,20.2mm,30.1mm,平均Dmaは12.4mm,23.2mm,34.1mm,平均Ddi-cは22.3mm,39.2mm,55.4mmであった。Dab,DmaはともにDdi-cと有意な正の相関を示し,回帰直線の決定係数はそれぞれ0.85,0.88,推定誤差はそれぞれ5.7mm,5.5mmであった。Ddi測定のICC(1,1)は0.90であった。
【考察】健常男性を対象に腹部呼吸運動と横隔膜運動の関連を分析した結果,腹部呼吸運動の指標としたDab,Dmaの平均値は3条件間でほぼ一定の割合で増大し,Ddi-cに比例したDab,Dmaの増大を示した。そして,得られた回帰直線の決定係数から,Dab,DmaはDdi-cを実用的な精度で推定できる可能性があることが示された。また,DabとDmaの推定精度が同等であったことは,腹部定点の呼吸運動を簡易的な器具で測定することで横隔膜運動の推定が可能であることを示す結果といえる。しかし,Ddi-cの推定誤差は5.7mmであり,3条件のDdi-c平均値の約15%に相当した。Ddi測定の信頼性は保たれていたことから,腹部呼吸運動測定が局所であることや個人差を考慮した結果の判断が必要になると考える。今回の結果は健常男性を対象としたことから,今後は横隔膜機能障害のある人に対しても検討を加える必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】横隔膜の定量的評価に特殊な機器が必要となる現状において,簡易的な器具を用いた腹部呼吸運動測定により横隔膜運動を定量的に推定できる可能性を示した本研究の内容は,臨床現場における横隔膜機能の客観的評価に繋がるものと考える。