[O-0141] 片側上肢運動負荷試験による全身持久力評価は下肢運動負荷試験との基準関連妥当性がある
Keywords:最高酸素摂取量, 呼気ガス分析, エルゴメータ
【はじめに,目的】
脳卒中発症後には,身体活動の制限により全身持久力が低下する。そのため,脳卒中患者に対する理学療法では,適切な運動量を提供するために,運動負荷試験(Cardiopulmonary Exercise test:CPX)による全身持久力の客観的評価が重要である。脳卒中片麻痺患者に対する従来の全身持久力評価は,トレッドミルや自転車エルゴメータを用いた下肢CPX中の最高酸素摂取量(peak VO2)を測定してきた。しかし,下肢CPXは,全身持久力だけでなく歩行能力や運動麻痺が評価に影響し,精確な計測が困難になる可能性がある。歩行能力や運動麻痺に影響されずに全身持久力を評価する手法として,エルゴメータを用いた非麻痺側上肢による片側上肢CPXが提案されており,評価の再現性が高いことが報告されている(原,1996)。しかしながら,片側上肢CPXによる全身持久力評価の妥当性は,十分に検討されていない。本研究の目的は,全身持久力評価としての片側上肢CPXの基準関連妥当性を下肢CPXとの比較から検証することである。
【方法】
対象は,健常成人17名(男性2名,女性15名)で,年齢は50±8歳,体格指数は22.2±2.6 kg/m2であった(平均値±標準偏差)。採用基準は,40~80歳で研究参加の同意を得られる者とし,運動負荷試験の禁忌事項(Fletcher et al., 2013)に該当する者は除外した。運動課題は,エルゴメータ(Strength Ergo 240,三菱電機エンジニアリング)を用いた利き腕での片側上肢運動および下肢運動の2課題とした。運動負荷様式は,1分ごとに負荷強度を増加させるramp負荷法を採用した。負荷強度の増加量は,事前に測定した50 rpmでの等速性ピーク仕事率に基づき,対象者ごと個別に設定した。エルゴメータの回転速度は,50 rpmを維持するよう指示した。運動終了基準は,心拍数が予測最大心拍数の85%に到達,回転速度の維持困難,血圧異常,心電図異常,自覚症状の出現とした。VO2の測定は,呼気ガス分析計(エアロソニックAT-1100,アニマ)を用い,breath-by-breath法で計測した。測定されたVO2は,30秒の移動平均で平滑化し,CPX中の最大値をpeak VO2として解析に用いた。
統計解析では,全身持久力評価として片側上肢CPXの基準関連妥当性を検証するため,運動課題間におけるpeak VO2の関係を検討した。また,全身持久力が低い対象者における片側上肢CPXの有用性を検証するため,運動課題間におけるpeak VO2の差(下肢CPXの測定値-片側上肢CPXの測定値)と下肢CPXの測定値の関係を検討した。いずれの検討もPearson積率相関係数を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
Peak VO2(ml/kg/min)は,片側上肢CPXで12.9±3.0,下肢CPXで18.5±3.9であった。全ての対象者において,片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXに比べ低値であった。片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXの測定値と有意な正の相関を示した(r=0.74,p<0.01)。また,下肢CPXで測定されたpeak VO2が低い対象者ほど,運動課題間におけるpeak VO2の差は減少した(r=0.64,p<0.01)。なお,片側上肢CPXの終了理由は,心拍数が終了基準に到達が5名,回転速度の維持困難が6名,血圧異常(拡張期血圧が115 mmHg以上)が6名であった。下肢CPXの終了理由は,心拍数が終了基準に到達が15名,回転速度の維持困難が1名,血圧異常(拡張期血圧が115 mmHg以上)が1名であった。
【考察】
片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXの測定値と基準関連妥当性を認め,全身持久力評価として有用であることが示された。しかし,片側上肢CPXは,下肢CPXに比べ全身持久力を低く評価する傾向にあった。その原因として,運動に関与する筋量の相違(Orr et al., 2013)や運動終了理由の相違が影響している可能性がある。一方で,全身持久力が低い対象者ほど,運動課題間におけるpeak VO2の差は減少することが示された。したがって,片側上肢CPXは,全身持久力が低い脳卒中片麻痺患者において有用な評価手法である可能性がある。今後の研究では,脳卒中患者を対象に歩行能力や運動麻痺の重症度を統制したうえで,片側上肢CPXの有用性を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,全身持久力の評価手法として片側上肢CPXの有用性を示す基礎的知見として意義がある。片側上肢CPXは,従来の下肢CPXの実施が困難な重度片麻痺患者においても,全身持久力を客観的に評価できる可能性がある。重症例も含めた脳卒中患者の全身持久力を客観的に評価する手法の確立は,理学療法において科学的根拠に基づき適切な運動量を提供するために重要である。
脳卒中発症後には,身体活動の制限により全身持久力が低下する。そのため,脳卒中患者に対する理学療法では,適切な運動量を提供するために,運動負荷試験(Cardiopulmonary Exercise test:CPX)による全身持久力の客観的評価が重要である。脳卒中片麻痺患者に対する従来の全身持久力評価は,トレッドミルや自転車エルゴメータを用いた下肢CPX中の最高酸素摂取量(peak VO2)を測定してきた。しかし,下肢CPXは,全身持久力だけでなく歩行能力や運動麻痺が評価に影響し,精確な計測が困難になる可能性がある。歩行能力や運動麻痺に影響されずに全身持久力を評価する手法として,エルゴメータを用いた非麻痺側上肢による片側上肢CPXが提案されており,評価の再現性が高いことが報告されている(原,1996)。しかしながら,片側上肢CPXによる全身持久力評価の妥当性は,十分に検討されていない。本研究の目的は,全身持久力評価としての片側上肢CPXの基準関連妥当性を下肢CPXとの比較から検証することである。
【方法】
対象は,健常成人17名(男性2名,女性15名)で,年齢は50±8歳,体格指数は22.2±2.6 kg/m2であった(平均値±標準偏差)。採用基準は,40~80歳で研究参加の同意を得られる者とし,運動負荷試験の禁忌事項(Fletcher et al., 2013)に該当する者は除外した。運動課題は,エルゴメータ(Strength Ergo 240,三菱電機エンジニアリング)を用いた利き腕での片側上肢運動および下肢運動の2課題とした。運動負荷様式は,1分ごとに負荷強度を増加させるramp負荷法を採用した。負荷強度の増加量は,事前に測定した50 rpmでの等速性ピーク仕事率に基づき,対象者ごと個別に設定した。エルゴメータの回転速度は,50 rpmを維持するよう指示した。運動終了基準は,心拍数が予測最大心拍数の85%に到達,回転速度の維持困難,血圧異常,心電図異常,自覚症状の出現とした。VO2の測定は,呼気ガス分析計(エアロソニックAT-1100,アニマ)を用い,breath-by-breath法で計測した。測定されたVO2は,30秒の移動平均で平滑化し,CPX中の最大値をpeak VO2として解析に用いた。
統計解析では,全身持久力評価として片側上肢CPXの基準関連妥当性を検証するため,運動課題間におけるpeak VO2の関係を検討した。また,全身持久力が低い対象者における片側上肢CPXの有用性を検証するため,運動課題間におけるpeak VO2の差(下肢CPXの測定値-片側上肢CPXの測定値)と下肢CPXの測定値の関係を検討した。いずれの検討もPearson積率相関係数を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
Peak VO2(ml/kg/min)は,片側上肢CPXで12.9±3.0,下肢CPXで18.5±3.9であった。全ての対象者において,片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXに比べ低値であった。片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXの測定値と有意な正の相関を示した(r=0.74,p<0.01)。また,下肢CPXで測定されたpeak VO2が低い対象者ほど,運動課題間におけるpeak VO2の差は減少した(r=0.64,p<0.01)。なお,片側上肢CPXの終了理由は,心拍数が終了基準に到達が5名,回転速度の維持困難が6名,血圧異常(拡張期血圧が115 mmHg以上)が6名であった。下肢CPXの終了理由は,心拍数が終了基準に到達が15名,回転速度の維持困難が1名,血圧異常(拡張期血圧が115 mmHg以上)が1名であった。
【考察】
片側上肢CPXで測定されたpeak VO2は,下肢CPXの測定値と基準関連妥当性を認め,全身持久力評価として有用であることが示された。しかし,片側上肢CPXは,下肢CPXに比べ全身持久力を低く評価する傾向にあった。その原因として,運動に関与する筋量の相違(Orr et al., 2013)や運動終了理由の相違が影響している可能性がある。一方で,全身持久力が低い対象者ほど,運動課題間におけるpeak VO2の差は減少することが示された。したがって,片側上肢CPXは,全身持久力が低い脳卒中片麻痺患者において有用な評価手法である可能性がある。今後の研究では,脳卒中患者を対象に歩行能力や運動麻痺の重症度を統制したうえで,片側上肢CPXの有用性を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,全身持久力の評価手法として片側上肢CPXの有用性を示す基礎的知見として意義がある。片側上肢CPXは,従来の下肢CPXの実施が困難な重度片麻痺患者においても,全身持久力を客観的に評価できる可能性がある。重症例も含めた脳卒中患者の全身持久力を客観的に評価する手法の確立は,理学療法において科学的根拠に基づき適切な運動量を提供するために重要である。