[O-0142] 運動強度の違いが定常負荷での自転車エルゴメータ駆動中の頭部酸素化ヘモグロビン変動に及ぼす影響
キーワード:定常負荷運動, 運動強度, 脳血流動態
【はじめに】ヒトが運動を企図し実行するには,運動に関連する大脳皮質の活動とその領域からの命令が必要である。また,脳組織が活動するためには酸素とエネルギーが供給される必要があり,それらは血流に依存して供給される。静的運動においては実施する運動強度が高くなるに従い,脳血流量も増加するとの報告が多くなされている。一方,有酸素運動として用いられる動的運動時の運動強度と脳血流の関係については,十分明らかになっていない。運動療法中の脳血流動態を明らかにすることは,理学療法の根拠を示す上でも重要である。よって本研究の目的は,定常負荷運動を実施している際の頭部酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)変化を計測し,運動強度の違いがO2Hb変動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである。
【方法】健常成人20名(男性13名,女性7名)を対象とし,自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による下肢ペダリング運動を課題とした。安静4分,ウォームアップ4分の後,20分間の定常負荷運動を実施した。運動後には8分間の安静を設けた。定常負荷運動時の負荷量は,低強度運動として最高酸素摂取量の30%(男性6名,女性3名),中強度運動として最高酸素摂取量の50%(男性7名,女性4名)の2種類とした。この間のO2Hbは,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用して計測した。国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,34チャネルで測定した。関心領域は,前補足運動野(preSMA),補足運動野(SMA),感覚運動皮質(SMC)とし,O2Hbは各領域で平均した。NIRSでの測定は頭皮血流(SBF)や血圧変動の影響を受けているとの報告もあることから,運動中のSBFをレーザードップラー血流計(オメガフローFLO-CI,オメガウェーブ)により,心拍1拍毎の平均血圧(MAP)を連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により,同時計測した。計測値はすべて,安静時平均値に対する変化量を算出した後,10秒ごとの平均値を求めた。定常負荷運動20分間のO2Hbの経時変化を検討するため,領域ごとに時間を要因とした一元配置分散分析を行った。またO2Hbの増加を強度間で比較するため,定常負荷運動中のピーク値を求め,領域ごとに対応のないt検定により比較した。
【結果】運動による各領域のO2Hbの上昇は,低強度で0.033~0.045 mM・cm,中強度で0.054~0.092 mM・cmであった。定常負荷運動20分間のO2Hbの経時変化において,低強度の各領域のO2Hbの変動には有意な差を認めなかった(preSMA,F=0.56,p=1.00;SMA,F=1.04,p=0.38;SMC,F=0.65,p=1.00;MAP,F=0.50,p=1.00)。中強度においては,preSMAにおいて有意な変動を認めた(F=1.50,p<0.01)ものの,SMAおよびSMCでは有意な変動を認めなかった(SMA,F=0.87,p=0.84;SMC,F=0.87,p=0.83)。定常負荷運動20分間のMAPの経時変化は,中強度でのみ有意な変動を認め(F=1.41,p<0.01),運動中のSBFの変動は,低強度(F=1.41,p<0.01)および中強度(F=2.12,p<0.01)で有意であった(F=5.34,p<0.01)。また,定常運動中のO2Hbのピーク値は,preSMAにおいて低強度0.033±0.026 mM・cm,中強度0.054±0.028 mM・cm,SMAでは低強度0.045±0.029 mM・cm,中強度0.092±0.036 mM・cmであり,強度間に有意な差を認めなかった(preSMA,p=0.11;SMA,p=0.07)。一方,SMCでは低強度0.036±0.029 mM・cm,中強度0.076±0.028 mM・cmであり,中強度が有意に高値であった(p<0.05)。SBFおよびMAPは,低強度よりも高強度で有意に高かった(p<0.01)。
【考察】運動関連領野において,定常負荷運動中のO2Hb変動は一様ではなく,領域によって異なることを示唆する結果であった。また,運動強度による影響はSMCにおいてのみ観察され,運動に必要な一次運動野の活動の違いを反映していることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】定常負荷運動中のO2Hbは,SMCにおいて低強度よりも中強度運動の方が増加し,運動中の変動は少ないことが明らかとなった。動的運動において,O2Hbの変動は領域により運動強度の影響を受ける可能性が示され,運動中の脳循環変動を解明する糸口となる知見を得ることができた。
【方法】健常成人20名(男性13名,女性7名)を対象とし,自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による下肢ペダリング運動を課題とした。安静4分,ウォームアップ4分の後,20分間の定常負荷運動を実施した。運動後には8分間の安静を設けた。定常負荷運動時の負荷量は,低強度運動として最高酸素摂取量の30%(男性6名,女性3名),中強度運動として最高酸素摂取量の50%(男性7名,女性4名)の2種類とした。この間のO2Hbは,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用して計測した。国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,34チャネルで測定した。関心領域は,前補足運動野(preSMA),補足運動野(SMA),感覚運動皮質(SMC)とし,O2Hbは各領域で平均した。NIRSでの測定は頭皮血流(SBF)や血圧変動の影響を受けているとの報告もあることから,運動中のSBFをレーザードップラー血流計(オメガフローFLO-CI,オメガウェーブ)により,心拍1拍毎の平均血圧(MAP)を連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により,同時計測した。計測値はすべて,安静時平均値に対する変化量を算出した後,10秒ごとの平均値を求めた。定常負荷運動20分間のO2Hbの経時変化を検討するため,領域ごとに時間を要因とした一元配置分散分析を行った。またO2Hbの増加を強度間で比較するため,定常負荷運動中のピーク値を求め,領域ごとに対応のないt検定により比較した。
【結果】運動による各領域のO2Hbの上昇は,低強度で0.033~0.045 mM・cm,中強度で0.054~0.092 mM・cmであった。定常負荷運動20分間のO2Hbの経時変化において,低強度の各領域のO2Hbの変動には有意な差を認めなかった(preSMA,F=0.56,p=1.00;SMA,F=1.04,p=0.38;SMC,F=0.65,p=1.00;MAP,F=0.50,p=1.00)。中強度においては,preSMAにおいて有意な変動を認めた(F=1.50,p<0.01)ものの,SMAおよびSMCでは有意な変動を認めなかった(SMA,F=0.87,p=0.84;SMC,F=0.87,p=0.83)。定常負荷運動20分間のMAPの経時変化は,中強度でのみ有意な変動を認め(F=1.41,p<0.01),運動中のSBFの変動は,低強度(F=1.41,p<0.01)および中強度(F=2.12,p<0.01)で有意であった(F=5.34,p<0.01)。また,定常運動中のO2Hbのピーク値は,preSMAにおいて低強度0.033±0.026 mM・cm,中強度0.054±0.028 mM・cm,SMAでは低強度0.045±0.029 mM・cm,中強度0.092±0.036 mM・cmであり,強度間に有意な差を認めなかった(preSMA,p=0.11;SMA,p=0.07)。一方,SMCでは低強度0.036±0.029 mM・cm,中強度0.076±0.028 mM・cmであり,中強度が有意に高値であった(p<0.05)。SBFおよびMAPは,低強度よりも高強度で有意に高かった(p<0.01)。
【考察】運動関連領野において,定常負荷運動中のO2Hb変動は一様ではなく,領域によって異なることを示唆する結果であった。また,運動強度による影響はSMCにおいてのみ観察され,運動に必要な一次運動野の活動の違いを反映していることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】定常負荷運動中のO2Hbは,SMCにおいて低強度よりも中強度運動の方が増加し,運動中の変動は少ないことが明らかとなった。動的運動において,O2Hbの変動は領域により運動強度の影響を受ける可能性が示され,運動中の脳循環変動を解明する糸口となる知見を得ることができた。