[O-0143] 運動呼吸同調の誘発が高強度運動負荷中の呼吸困難感に与える影響
キーワード:運動呼吸同調, 運動療法, 呼吸困難感
【はじめに】運動呼吸同調現象(LRC)は呼吸と運動が同調する現象で,意図的に誘発することで酸素摂取量や呼吸困難感が減少する。LRCは無酸素性作業閾値(AT)の運動強度でトレーニングする場合が最も導入意義が高いと考えられるが,呼吸器障害を有する患者では低強度であってもATを容易に超えるし,健常者の持久性能力の向上にはATよりも高い運動強度でのトレーニングも必要であるため,このような条件でもLRCが有効であるか検討が必要である。
【方法】対象者は健常若年者16名とした。運動負荷には自転車エルゴメーターを用い,これにLRC誘発装置を装着した。運動中の換気量パラメータの測定には呼気ガス分析器を,脈拍と動脈血酸素飽和度の測定にはパルスオキシメーターを用いた。ペダルの信号と呼気ガス分析器からのフロー信号はADコンバーターを介してPCに取り込んだ。自覚的運動強度の評価には10段階のボルグスケールを呼吸困難感と下肢疲労に分けて用い,それぞれ運動中1分毎に聴取した。まず,運動強度の決定のためにエルゴメーターにて最大運動負荷試験を実施し,最大運動強度(Wmax)を測定した。次に自由呼吸条件,エルゴメーターのペダル1回転につき1呼吸周期で誘発したLRC誘発条件の2条件をランダムに,80%Wmaxの運動強度でオールアウトまで定常負荷運動で実施した。ペダルの回転数は50回転とした。LRC誘発は80%Wmaxの負荷開始から1分後から行った。運動の中止基準は,被験者が中止を申し出た場合,ペダル回転数が維持できなくなり45回転を下回った場合,その他運動継続が危険と判断された場合とした。解析として,まず同調の強さを0~1の間で表す位相同期指数を求めた。運動継続時間が各々異なるため,LRC誘発開始から終了までを四分割してそれぞれその区間の平均を求めて時間でのNormalizationを行い,それぞれの区間を比較した。統計学的処理には2条件の比較に対応のあるt検定を,正規性が認められない場合はウィルコクソンの符号順位検定を用い,練習効果を考慮するために運動順序と運動の延長効果の有無の影響をχ2乗検定で検討した。危険率0.05未満を有意とした。
【結果】16名の被験者のうち,誘発しても間欠的な同調であったもの,誘発がなくても同調していたものは除外し,13名を解析対象とした。自由呼吸条件とLRC誘発条件の位相同期指数はそれぞれ0.27±0.10,0.86±0.08で,誘発により有効な同調が得られた(p<0.001)。運動継続時間が延長したのは13例中8例で,運動継続時間は自由呼吸条件で357.8±71.1秒,LRC誘発条件で379.5±86.3秒であったが,統計学的には有意な増加は認めなかった。また運動の順序とLRC誘発による運動時間延長の有無を比較したが,有意な差を認めなかった。換気パラメータの比較では,呼吸数,分時換気量はLRC誘発により有意に増加し,呼気終末二酸化炭素濃度は低値を示しLRCにより相対的な過換気を呈していたが,後半の区間はその差が小さくなるか有意な差を認めなかった。酸素摂取量と二酸化炭素排出量も同様の傾向であった。ボルグスケールの比較では,自由呼吸条件に比べLRC誘発条件は呼吸困難感が統計学的には低かったが(P<0.05),下肢については有意な変化は認めなかった。
【考察】今回,設定した運動強度では呼吸困難感の有意な低下以外のLRC誘発による効果は認められなかった。今回のLRC誘発条件では運動開始から中盤までは明らかな過換気を示しており,それによる酸素摂取量の増加も認められることから,LRC誘発による効果が得られなかった可能性がある。自然発生するLRCの下肢運動と呼吸数の観察では,ATレベルで2:1の比率が出現しやすいことが報告されている。ATレベルでは自然な呼吸数と下肢の運動周期が近接すると同期しやすいことを考慮すると,定常状態とならない高強度での運動負荷でLRC誘発を行うのなら,同様に誘発条件を設定するほうがよいと考えられる。一方で,過換気になったにもかかわらず呼吸困難感が減少するのは,単純に換気効率の改善や酸素摂取量の減少がLRC誘発による呼吸困難感の減少に寄与していないことを示しており,このことからLRC誘発による呼吸困難感減少の機序について更に検討が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】LRCによって呼吸困難感が減少するのは明らかである。呼吸困難感が減少するメカニズムの解析とLRC誘発による運動療法の臨床的な応用は,呼吸困難感が運動制限になる呼吸器障害を有する患者の運動能力の改善に寄与する。本研究は平成26年度埼玉県理学療法士会研究助成制度による助成により実施した。
【方法】対象者は健常若年者16名とした。運動負荷には自転車エルゴメーターを用い,これにLRC誘発装置を装着した。運動中の換気量パラメータの測定には呼気ガス分析器を,脈拍と動脈血酸素飽和度の測定にはパルスオキシメーターを用いた。ペダルの信号と呼気ガス分析器からのフロー信号はADコンバーターを介してPCに取り込んだ。自覚的運動強度の評価には10段階のボルグスケールを呼吸困難感と下肢疲労に分けて用い,それぞれ運動中1分毎に聴取した。まず,運動強度の決定のためにエルゴメーターにて最大運動負荷試験を実施し,最大運動強度(Wmax)を測定した。次に自由呼吸条件,エルゴメーターのペダル1回転につき1呼吸周期で誘発したLRC誘発条件の2条件をランダムに,80%Wmaxの運動強度でオールアウトまで定常負荷運動で実施した。ペダルの回転数は50回転とした。LRC誘発は80%Wmaxの負荷開始から1分後から行った。運動の中止基準は,被験者が中止を申し出た場合,ペダル回転数が維持できなくなり45回転を下回った場合,その他運動継続が危険と判断された場合とした。解析として,まず同調の強さを0~1の間で表す位相同期指数を求めた。運動継続時間が各々異なるため,LRC誘発開始から終了までを四分割してそれぞれその区間の平均を求めて時間でのNormalizationを行い,それぞれの区間を比較した。統計学的処理には2条件の比較に対応のあるt検定を,正規性が認められない場合はウィルコクソンの符号順位検定を用い,練習効果を考慮するために運動順序と運動の延長効果の有無の影響をχ2乗検定で検討した。危険率0.05未満を有意とした。
【結果】16名の被験者のうち,誘発しても間欠的な同調であったもの,誘発がなくても同調していたものは除外し,13名を解析対象とした。自由呼吸条件とLRC誘発条件の位相同期指数はそれぞれ0.27±0.10,0.86±0.08で,誘発により有効な同調が得られた(p<0.001)。運動継続時間が延長したのは13例中8例で,運動継続時間は自由呼吸条件で357.8±71.1秒,LRC誘発条件で379.5±86.3秒であったが,統計学的には有意な増加は認めなかった。また運動の順序とLRC誘発による運動時間延長の有無を比較したが,有意な差を認めなかった。換気パラメータの比較では,呼吸数,分時換気量はLRC誘発により有意に増加し,呼気終末二酸化炭素濃度は低値を示しLRCにより相対的な過換気を呈していたが,後半の区間はその差が小さくなるか有意な差を認めなかった。酸素摂取量と二酸化炭素排出量も同様の傾向であった。ボルグスケールの比較では,自由呼吸条件に比べLRC誘発条件は呼吸困難感が統計学的には低かったが(P<0.05),下肢については有意な変化は認めなかった。
【考察】今回,設定した運動強度では呼吸困難感の有意な低下以外のLRC誘発による効果は認められなかった。今回のLRC誘発条件では運動開始から中盤までは明らかな過換気を示しており,それによる酸素摂取量の増加も認められることから,LRC誘発による効果が得られなかった可能性がある。自然発生するLRCの下肢運動と呼吸数の観察では,ATレベルで2:1の比率が出現しやすいことが報告されている。ATレベルでは自然な呼吸数と下肢の運動周期が近接すると同期しやすいことを考慮すると,定常状態とならない高強度での運動負荷でLRC誘発を行うのなら,同様に誘発条件を設定するほうがよいと考えられる。一方で,過換気になったにもかかわらず呼吸困難感が減少するのは,単純に換気効率の改善や酸素摂取量の減少がLRC誘発による呼吸困難感の減少に寄与していないことを示しており,このことからLRC誘発による呼吸困難感減少の機序について更に検討が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】LRCによって呼吸困難感が減少するのは明らかである。呼吸困難感が減少するメカニズムの解析とLRC誘発による運動療法の臨床的な応用は,呼吸困難感が運動制限になる呼吸器障害を有する患者の運動能力の改善に寄与する。本研究は平成26年度埼玉県理学療法士会研究助成制度による助成により実施した。