第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述18

運動生理学1

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:高橋真(広島大学医歯薬保健学研究院)

[O-0144] 自発的な努力なしで運動耐容能を改善させる

骨格筋電気刺激法による新たなトレーニング手法の可能性

宮本俊朗1, 玉木彰1, 森谷敏夫2 (1.兵庫医療大学リハビリテーション学部理学療法学科, 2.京都大学大学院人間・環境学研究科)

Keywords:骨格筋電気刺激, レジスタンストレーニング, 運動耐容能

【はじめに,目的】我が国では超高齢社会を迎え,高齢者の健康増進における医療・介護対策が急務となっている。レジスタンストレーニングや有酸素運動などの運動療法は筋力や運動耐容能を改善させ,各種疾患の予防だけでなく,死亡率を改善させることから,高齢者の健康増進にとって必要不可欠とされている。しかしながら,加齢に伴うサルコペニアや変形性関節症などの整形外科疾患,脳卒中や生活習慣病の患者数は増加の一途をたどっており,推奨される運動が困難である場合が多い。このような患者では,運動がもたらす効果を享受できないため,代替的な運動手法の確立が求められている。その一つとして,自発的な努力を要せず筋収縮を誘発する骨格筋電気刺激法が注目されている。我々は,この新しい手法によって,糖尿病患者の食後血糖値の上昇が抑制できることや(Miyamoto T et al., 2012),その効果には性差が存在することを明らかとしてきた(Miyamoto T et al., 2014)。これらの研究は,骨格筋電気刺激法が糖尿病患者の運動療法の代替的手段となりうる可能性を示唆する内容であるが,中・長期的なトレーニングによって,骨格筋の適応変化を伴った代謝機能の改善が得られるかどうかは明らかとなっていない。そこで,本研究の目的は,臨床介入研究に対する基盤研究として,骨格筋電気刺激法によるトレーニングが筋力および運動耐容能を改善させるかどうかを明らかとし,骨格筋を含めた身体の適応変化を惹起する可能性があるかどうかを検証することとした。
【方法】研究デザインはランダム化比較試験とし,健常成人18名(男性18名,年齢:21.8±0.6歳,BMI:21.4±1.5)を介入群10名とコントロール群8名にランダムに割付けした。コントロール群は,日常の活動量を4週間維持してもらうように指示し,介入群には,骨格筋電気刺激装置を用いた4週間の下腿トレーニングを実施した。刺激強度は,初回時に呼気ガス分析器を用いて3.5~4METsになるように設定し,刺激周波数は4Hzとした。また,トレーニング頻度は1日30分を週5セッション行い,計20セッションを実施した。アウトカムは,膝伸展筋力と自転車エルゴメーターを用いた漸増運動負荷試験から算出した運動耐容能とし,体重,体脂肪率を副次項目とした。アウトカムの測定は全対象者に対して,介入前後に実施した。統計処理には,反復測定二元配置分散分析を用いた後,Tukey法による事後検定を行った。なお,データは平均±標準偏差とし,有意水準は5%未満とした。

【結果】介入前における両群間の基礎データには有意な差は認めなかった(p>0.05)。介入群における骨格筋電気刺激の刺激強度設定は48.6±10.4mAであり,この時の酸素摂取量は12.9±2.6ml/kg/minであった。骨格筋電気刺激法による介入群では,体重および体脂肪率は有意な変化を認めなかったが(p>0.05),膝伸展筋力は有意に増強し(p<0.001),漸増運動負荷試験時の最高負荷,最高換気量は有意に高い値を示した(p<0.05)。また,漸増負荷運動から算出した換気性作業閾値における酸素摂取量,換気量,負荷量,心拍数は介入によって有意に高値を示した(p<0.01)。

【考察】骨格筋電気刺激法の介入研究は少なく,刺激条件が様々であるため,その効果は一貫していない。特に,刺激強度は対象者の主観的指標で実施していることが多いため,介入効果に大きく影響するものと考えられる。本研究は,刺激強度を呼気ガスにより正確に設定した初めての介入研究であり,活動量を担保した健常者であっても,3.5METs程度の運動により,筋力,運動耐容能,換気性作業閾値が改善したことから,ベッドレストを強いられている虚弱患者に適応しても十分改善が見込めるものと推察される。筋細胞やミトコンドリア機能などの分子生理学的変化の言及については限界があるものの,本研究結果から,骨格筋電気刺激法のトレーニングにより骨格筋を含めた身体の適応変化を惹起する可能性が示唆され,今後,様々な疾患に対する臨床介入研究にとって,本研究は重要な位置づけとなるものと思われる。

【理学療法学研究としての意義】益々加速する超高齢社会において,寝たきり患者や有疾患患者が増加の一途をたどっているため,運動を実施できない症例への理学療法的対策を講じる必要がある。本研究結果は運動を実施できない数多くの人々に対して,運動の効果を享受する新たな可能性を見出すものであり,臨床現場だけでなく,本邦が抱える医療・介護経済に対しても大きな影響を与えるものと思われる。