[O-0145] 呼気終末陽圧換気下での持久力トレーニングによる運動効果の増大
~効果的なトレーニング方法の確立を目指して~
Keywords:呼気終末陽圧, 持久力トレーニング, 最大酸素摂取量
【はじめに,目的】
有数の長寿国で高齢化が進んだ我が国にとって,健康増進や生活習慣病の予防による健康寿命の延伸は,重要な課題である。健康増進における運動の効果はよく知られているが,より効果的なトレーニング方法の確立が期待される。
人工呼吸器で使用される呼気終末陽圧(PEEP)によって,静脈還流量を低下させることはすでに報告されている。静脈還流量が低下すると,血圧を維持するため心拍数の上昇や心収縮力の増強が引き起こされ,心臓の仕事量が増加する。そのため,同一の運動負荷であっても,PEEPをかけることで心機能へのさらなる負荷を惹起し,運動効果の増大が期待され,有効なトレーニング方法となる可能性がある。しかし,これまでPEEPをトレーニングに応用した報告はなく,その効果は不明である。そこで,本研究では,通常状態とPEEP下での持久力トレーニングを行い,その効果を最大酸素摂取量(VO2max)で比較し,PEEPがもたらすトレーニングへの効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,内科的疾患や整形外科的疾患のない若年健常男性10名(平均年齢28.3±3.1)とした。クロスオーバーデザインとし,同一被験者が通常状態(control群)と非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)によるPEEP下(PEEP群)での持久力トレーニングを3週間のwash out期間を設け,それぞれ行った。
まず,運動に使用するPEEPを決定するため,仰臥位でNPPVによるPEEP(0cmH2O,4cmH2O,8cmH2O,12cmH2O)をかけ,一回拍出量(SV),心拍出量(CO),心拍数(HR),血圧(BP)を測定し,それぞれ7分間行った。各PEEPにおける最終1分間のデータを平均し,通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,SVが有意に低下するPEEPを運動に使用することとした。トレーニングは,自転車エルゴメータを用いVO2maxの60%の運動負荷で30分間,連続5日間とした。測定項目は,VO2max,最大心拍数(HRmax),最大分時換気量(VEmax),最大呼吸数(RRmax),循環血漿量の変化割合(⊿PV),BP,HR,Borg scaleとした。トレーニング前後に,VO2max,HRmax,VEmax,RRmax,トレーニング後に⊿PV,各群の1日目の運動開始時と運動終了直前にHR,BP,Borg scaleをそれぞれ測定した。
各PEEPによるデータの比較はANOVAを行い,post hoc testはTukeyとした。また,トレーニング前後のデータ比較はpaired t-testを行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,PEEP 12cmH2OにおいてSV・COで有意に低値を示したため,運動にはPEEP 12cmH2Oを使用した。トレーニング前後でのVO2maxは,両群で有意に上昇し,さらに,control群と比べPEEP群において,有意に高い上昇を認めた(54.0±6.3ml/kg/min,56.2±6.5ml/kg/min,P<0.05)。また,運動開始時のHR(75.1±6.1bpm,80.4±7.5bpm,P<0.05),運動終了直前のHR(165.1±11.1bpm,171.5±10.6bpm,P<0.05),運動終了直前のBorg scale(15.2±1.5,17.8±1.4,P<0.001),トレーニング後のVEmax(152.3±27.6l/min,176.2±30.1l/min,P<0.001)においてもcontrol群と比べPEEP群で有意に高値を示した。運動時のBP,トレーニング後のHRmax,RRmax,⊿PVにおいては両群差を認めなかった。
【考察】
通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,PEEP 12cmH2OでSV・COが有意に低値を示したことについては,過去の報告と一致し胸腔内圧の上昇に伴うものと考えられた。また,トレーニング後のVO2maxは,control群と比べPEEP群で有意に高い上昇を認めた。これは,PEEP 12cmH2OによるSV・COの低下,運動開始時や運動終了直前のHRにおいてPEEP群で有意に高値であったことから,PEEPにより静脈還流量が低下し,さらなる心負荷となったことで心機能の改善に寄与したことが考えられた。さらに,トレーニング後のVEmaxがcontrol群と比べPEEP群で有意に高値を示した。呼吸筋訓練でVEmaxが上昇するとの報告もあることから,PEEPは呼吸筋に対する負荷となり,肺胞換気量を増加させる可能性が示唆された。よって,PEEP下での持久力トレーニングは,心機能や肺胞換気量を改善させ運動効果を増大させる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
PEEPがもたらす持久力トレーニングへの効果が明らかとなった。PEEPのトレーニング応用は,効果的なトレーニング方法となる可能性が示唆された。また,アスリートに対する高強度トレーニングへの応用にも期待できる。
有数の長寿国で高齢化が進んだ我が国にとって,健康増進や生活習慣病の予防による健康寿命の延伸は,重要な課題である。健康増進における運動の効果はよく知られているが,より効果的なトレーニング方法の確立が期待される。
人工呼吸器で使用される呼気終末陽圧(PEEP)によって,静脈還流量を低下させることはすでに報告されている。静脈還流量が低下すると,血圧を維持するため心拍数の上昇や心収縮力の増強が引き起こされ,心臓の仕事量が増加する。そのため,同一の運動負荷であっても,PEEPをかけることで心機能へのさらなる負荷を惹起し,運動効果の増大が期待され,有効なトレーニング方法となる可能性がある。しかし,これまでPEEPをトレーニングに応用した報告はなく,その効果は不明である。そこで,本研究では,通常状態とPEEP下での持久力トレーニングを行い,その効果を最大酸素摂取量(VO2max)で比較し,PEEPがもたらすトレーニングへの効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,内科的疾患や整形外科的疾患のない若年健常男性10名(平均年齢28.3±3.1)とした。クロスオーバーデザインとし,同一被験者が通常状態(control群)と非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)によるPEEP下(PEEP群)での持久力トレーニングを3週間のwash out期間を設け,それぞれ行った。
まず,運動に使用するPEEPを決定するため,仰臥位でNPPVによるPEEP(0cmH2O,4cmH2O,8cmH2O,12cmH2O)をかけ,一回拍出量(SV),心拍出量(CO),心拍数(HR),血圧(BP)を測定し,それぞれ7分間行った。各PEEPにおける最終1分間のデータを平均し,通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,SVが有意に低下するPEEPを運動に使用することとした。トレーニングは,自転車エルゴメータを用いVO2maxの60%の運動負荷で30分間,連続5日間とした。測定項目は,VO2max,最大心拍数(HRmax),最大分時換気量(VEmax),最大呼吸数(RRmax),循環血漿量の変化割合(⊿PV),BP,HR,Borg scaleとした。トレーニング前後に,VO2max,HRmax,VEmax,RRmax,トレーニング後に⊿PV,各群の1日目の運動開始時と運動終了直前にHR,BP,Borg scaleをそれぞれ測定した。
各PEEPによるデータの比較はANOVAを行い,post hoc testはTukeyとした。また,トレーニング前後のデータ比較はpaired t-testを行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,PEEP 12cmH2OにおいてSV・COで有意に低値を示したため,運動にはPEEP 12cmH2Oを使用した。トレーニング前後でのVO2maxは,両群で有意に上昇し,さらに,control群と比べPEEP群において,有意に高い上昇を認めた(54.0±6.3ml/kg/min,56.2±6.5ml/kg/min,P<0.05)。また,運動開始時のHR(75.1±6.1bpm,80.4±7.5bpm,P<0.05),運動終了直前のHR(165.1±11.1bpm,171.5±10.6bpm,P<0.05),運動終了直前のBorg scale(15.2±1.5,17.8±1.4,P<0.001),トレーニング後のVEmax(152.3±27.6l/min,176.2±30.1l/min,P<0.001)においてもcontrol群と比べPEEP群で有意に高値を示した。運動時のBP,トレーニング後のHRmax,RRmax,⊿PVにおいては両群差を認めなかった。
【考察】
通常安静臥位(0cmH2O)と比較し,PEEP 12cmH2OでSV・COが有意に低値を示したことについては,過去の報告と一致し胸腔内圧の上昇に伴うものと考えられた。また,トレーニング後のVO2maxは,control群と比べPEEP群で有意に高い上昇を認めた。これは,PEEP 12cmH2OによるSV・COの低下,運動開始時や運動終了直前のHRにおいてPEEP群で有意に高値であったことから,PEEPにより静脈還流量が低下し,さらなる心負荷となったことで心機能の改善に寄与したことが考えられた。さらに,トレーニング後のVEmaxがcontrol群と比べPEEP群で有意に高値を示した。呼吸筋訓練でVEmaxが上昇するとの報告もあることから,PEEPは呼吸筋に対する負荷となり,肺胞換気量を増加させる可能性が示唆された。よって,PEEP下での持久力トレーニングは,心機能や肺胞換気量を改善させ運動効果を増大させる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
PEEPがもたらす持久力トレーニングへの効果が明らかとなった。PEEPのトレーニング応用は,効果的なトレーニング方法となる可能性が示唆された。また,アスリートに対する高強度トレーニングへの応用にも期待できる。