[O-0148] 脳損傷後片麻痺患者に対する本田技研製歩行アシストの運動学的効果
クロスオーバー無作為対照試験
キーワード:歩行, ロボットリハビリテーション, 片麻痺
【はじめに】近年,脳損傷後片麻痺患者の歩行再建にロボットリハビリテーションが用いられ,その効果についての報告が散見されてきている。本田技研製歩行アシスト(Stride Management Assist Device:以下SMA)は,股関節の運動を小型アクチュエータにより制御し,理想歩行比に近づけるように屈曲-伸展トルクを加えることで,理想的な歩行を誘導することを目的に開発された機器である。我々はこれまでに健常者における歩行コストの改善や歩容の変化を報告し,脳損傷後片麻痺患者に対する歩容変化に及ぼす影響やAftereffectについて報告してきた。しかし,この装置による歩行改善に対する長期的な効果については未だわかっていない。本研究の目的はSMAを用いて歩行トレーニングを行った場合,片麻痺患者の歩行に与える運動学的変化を三次元歩行分析により明確にすることである。
【対象と方法】回復期病院入院中の歩行可能な片麻痺患者23名[年齢61.0±11.8歳,男性17名,女性6名,身長159.7.0±7.6cm,体重62.9±14.8kg,脳梗塞11名,脳出血11名,脳腫瘍術後1名,右麻痺13名,左麻痺9名,両側麻痺1名,発症後日数74.5±33.9日,下肢Brunnstrom Stage III 2名,IV 4名,V 15名,IV 2名,Functional Ambulation Category(FAC)II 2名III 7名IV 12名,V 2名]を対象とし,クロスオーバーデザインの無作為対照試験を行った。包含基準はFAC II以上の歩行能力を有するもので,脳卒中の発症後6ヶ月以内のものとした。対象者を無作為に2群に分割し,第一グループは通常の理学療法の後にSMAを用いた歩行トレーニングを4週間,週5回,20分間行った。その後の4週間は通常の理学療法のみを行った。第二グループは順番を逆にし,通常の理学療法を4週間行った後,SMAを用いた歩行トレーニングを含む理学療法をその後の4週間に行った。最初の4週間の前後と次の4週間の後の計三回,歩行機能評価と歩行における運動学的,運動力学的変化を3次元歩行解析システムにより測定した。歩行機能評価はFAC,10m歩行テスト(TWT),Timed Up and Go test(TUG)とし,歩行解析は5m歩行路で行い,快適歩行速度にて測定を行った。測定にはVICOM社製三次元動作解析装置MX-T10およびKistler社製床反力計を用い,VICON NEXUS Ver.1.7.1でPlug-in-gait full bodyにより解析を行った。Sampling周波数は100Hzとした。得られた角度波形およびモーメント波形から下肢の各関節の関節角度と内的モーメントのピークを算出した。SMAを用いた歩行トレーニングを含む期間(SMA期間)と含まない期間(Control期間)における変化を対応のあるt-testとWilcoxonの符号付順位和検定で有意水準5%として比較した。
【結果】17名の対象者が各トレーニング期間とすべての評価を完遂した。歩行機能評価であるFAC,TWT,TUGは両期間ともに有意な改善を示した。歩容の変化としては,両群とも各関節のPeak角度の変化は認めなかった。一方,内的モーメントはSMA期間においてのみ,荷重応答期の股関節伸展トルクおよび膝関節伸展トルクの有意な増加が認められ(それぞれp<0.05,p<0.01),股関節伸展トルクの変化量はControl期間より有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】回復期を対象とした本研究の結果では歩行アシストを用いたトレーニングによる歩行速度の差は認めなかった。しかし,荷重応答期の股関節と膝関節の内的モーメントが増加しており,特に股関節伸展モーメントの変化の大きさはControl期間との間に差を生じた。この結果は我々が行った歩行アシストにより生じるAftereffectと同じ変化であり,歩行アシストを使用することによる運動力学的な即時効果がトレーニングにより定着することを示唆していると考えられた。したがって,ロボットにより反復して引き起こされる変化が歩容の正常化に有用であることを示していると推察された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,Reinkensmeyerが予測するロボットリハによる変化についてのマルコフモデルを実証し,ロボットリハによる歩行再建の可能性を証明したものである。アシストを加えることによるAftereffectは長期的な使用により歩容変化として定着するという知見は,今後,様々なロボットリハに対する応用を広げることにつながると考える。
【対象と方法】回復期病院入院中の歩行可能な片麻痺患者23名[年齢61.0±11.8歳,男性17名,女性6名,身長159.7.0±7.6cm,体重62.9±14.8kg,脳梗塞11名,脳出血11名,脳腫瘍術後1名,右麻痺13名,左麻痺9名,両側麻痺1名,発症後日数74.5±33.9日,下肢Brunnstrom Stage III 2名,IV 4名,V 15名,IV 2名,Functional Ambulation Category(FAC)II 2名III 7名IV 12名,V 2名]を対象とし,クロスオーバーデザインの無作為対照試験を行った。包含基準はFAC II以上の歩行能力を有するもので,脳卒中の発症後6ヶ月以内のものとした。対象者を無作為に2群に分割し,第一グループは通常の理学療法の後にSMAを用いた歩行トレーニングを4週間,週5回,20分間行った。その後の4週間は通常の理学療法のみを行った。第二グループは順番を逆にし,通常の理学療法を4週間行った後,SMAを用いた歩行トレーニングを含む理学療法をその後の4週間に行った。最初の4週間の前後と次の4週間の後の計三回,歩行機能評価と歩行における運動学的,運動力学的変化を3次元歩行解析システムにより測定した。歩行機能評価はFAC,10m歩行テスト(TWT),Timed Up and Go test(TUG)とし,歩行解析は5m歩行路で行い,快適歩行速度にて測定を行った。測定にはVICOM社製三次元動作解析装置MX-T10およびKistler社製床反力計を用い,VICON NEXUS Ver.1.7.1でPlug-in-gait full bodyにより解析を行った。Sampling周波数は100Hzとした。得られた角度波形およびモーメント波形から下肢の各関節の関節角度と内的モーメントのピークを算出した。SMAを用いた歩行トレーニングを含む期間(SMA期間)と含まない期間(Control期間)における変化を対応のあるt-testとWilcoxonの符号付順位和検定で有意水準5%として比較した。
【結果】17名の対象者が各トレーニング期間とすべての評価を完遂した。歩行機能評価であるFAC,TWT,TUGは両期間ともに有意な改善を示した。歩容の変化としては,両群とも各関節のPeak角度の変化は認めなかった。一方,内的モーメントはSMA期間においてのみ,荷重応答期の股関節伸展トルクおよび膝関節伸展トルクの有意な増加が認められ(それぞれp<0.05,p<0.01),股関節伸展トルクの変化量はControl期間より有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】回復期を対象とした本研究の結果では歩行アシストを用いたトレーニングによる歩行速度の差は認めなかった。しかし,荷重応答期の股関節と膝関節の内的モーメントが増加しており,特に股関節伸展モーメントの変化の大きさはControl期間との間に差を生じた。この結果は我々が行った歩行アシストにより生じるAftereffectと同じ変化であり,歩行アシストを使用することによる運動力学的な即時効果がトレーニングにより定着することを示唆していると考えられた。したがって,ロボットにより反復して引き起こされる変化が歩容の正常化に有用であることを示していると推察された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,Reinkensmeyerが予測するロボットリハによる変化についてのマルコフモデルを実証し,ロボットリハによる歩行再建の可能性を証明したものである。アシストを加えることによるAftereffectは長期的な使用により歩容変化として定着するという知見は,今後,様々なロボットリハに対する応用を広げることにつながると考える。