第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述19

脳損傷理学療法1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院)

[O-0150] 慢性期脳卒中患者に対するHALを用いた歩行練習プログラムの開発

吉本隆彦 (医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター)

キーワード:ロボット, 脳卒中, 歩行練習

【はじめに,目的】
リハビリテーション分野へのロボット技術の導入により,歩行障害を有する方を対象とした様々なロボットを用いた臨床研究が行われている。そのような中,近年注目されているロボットスーツHAL®(以下,HAL)もその普及に伴い,様々な病期・施設において使用され,研究報告も増えてきている。しかし,その治療効果は様々であり,その一因として具体的な練習方法の未確立が挙げられており,検討課題の1つとされている。当院では2012年にHALを導入して使用するなかで,HALのアシスト機能を用いることで歩行の練習速度を無理なく増加させることができることを経験してきた。そこで,本研究では,慢性期脳卒中患者に対して,練習歩行速度を上げた8回の歩行練習プログラムの実行可能性および有効性を検証した。
【方法】
当クリニックの外来リハビリテーションに通院中の初発脳卒中患者で,発症後6ヵ月以上経過している方を対象とし,HALトレーニング群(以下,HAL群)9名,コントロール群9名とした。HAL群には,週1回の頻度で計8回(8週間)のトレーニングを実施した。トレーニング内容は,HAL単脚型および免荷機能付き歩行器All in one(CYBERDYNE株式会社製)を使用し,装着等を除く実際の練習歩行時間は20分,歩行速度はHAL非装着下での最大歩行速度の1.5~1.7倍の速度とした。コントロール群は外来にて通常の理学療法を週1回から2週に1回の頻度で実施した。評価項目は10m歩行テスト(10MWT),Timed up & goテスト(TUGT),ファンクショナルリーチテスト(FRT),2ステップテスト(2ST),Berg Balance Scale(BBS)とし,練習前,4回練習後,8回練習後,練習終了1ヶ月後に評価した。
【結果】
HAL群では有害事象無く全症例が歩行練習プログラムを完遂できた。コントロール群では全ての評価項目において有意な経時的変化は認めなかったが,HAL群では歩行速度,ケーデンス,FRT,BBSにおいて4回練習後から有意な改善を認めた(各々p<0.01,p<0.01,p<0.05,p<0.01)。8回練習後には全ての評価項目において有意な改善を認め,練習前からの変化率では歩行速度は55.9%増加,歩数は17.6%減少,ケーデンスは32.8%増加,TUGTの時間は30.2%減少,FRTの距離は41.4%増加,2STの距離は22.6%増加,BBSは13.8%増加となった(2STはp<0.05,他全てp<0.01)。また,練習終了1ヶ月後においても全ての項目でその統計学的有意性は維持されていた。
【考察】
今回,機能回復が緩徐となるといわれる慢性期脳卒中患者において,週1回で計8回の歩行練習プログラムにて歩行速度およびバランス機能の改善を示した。歩行練習では,HALの特性である身体を動かす際に生じる生体電位信号をトリガーにパワーアシストを行う随意的制御モードを利用し,また免荷機能付き歩行器を併用することで,装着者の過剰な努力を要せず,また転倒への恐怖心が軽減され,速度を上げた歩行練習が可能であったと推察される。セラピスト介助では困難な速度をHALを用いて経験させることは,患者の持つ能力を引き出す一助となる可能性が考えられる。また,1ヵ月の持続効果を認めたことから,8回の練習は一定の運動学習に繋がったことが想定される。練習速度を増加させたこのプログラムは安全かつ有効な方法であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中慢性期であってもHALの特性を活かした歩行練習により,歩行およびバランス機能の改善が可能であることは,リハビリテーションのさらなる可能性を示唆する。また,セラピスト介助では困難な領域に焦点を当てた今回の練習プログラムは,ロボットを用いたリハビリテーションの新たな展開を模索する上で重要であると考える。