[O-0154] 観察距離を延長した「またぎ歩行」課題のMisstepは地域高齢者の転倒を予測する
―1年間のコホート研究から―
キーワード:転倒予測, Misstep, 観察時間
【目的】
我々は昨年の本学会において,地域高齢者を対象とした40mの「またぎ歩行」におけるMisstepが過去1年間の転倒歴と関連していることを報告した。そこで本研究の目的は,観察距離を延長した「またぎ歩行」課題におけるMisstep発生が地域高齢者の転倒予測スクリーニング能を有しているかを検討することとした。
【方法】
対象は,自立して生活を営むことができる65歳以上の地域高齢者とした。本研究の除外基準は,両眼矯正視力が0.7以下,杖を使用せずに500m以上の歩行不可,MMSE得点が25点未満,神経疾患を有する,下肢,脊椎に手術歴があることとした。ベースライン時の対象者は108名であった。
ベースライン測定は,自作考案した「またぎ歩行」課題をすべての対象者に実施した。「またぎ歩行」課題は,10cm幅の黄色いライン12本を不等間隔にプリントした10mの灰色歩行路(10m×0.9m)を自作し,黄色いラインを踏まないよう指示した「またぎ歩行」を10m×3往復を快適歩行速度で行わせた。その際,黄色いラインへの足部の接触をMisstepとして定義し,そのMisstepの有無を目視にて観察計測し,合わせてその際に要した歩行時間(所要時間)をストップウォッチにて計測した。また,「通常歩行」についても同様に3往復実施し歩行時間(所要時間)を計測した。これらの計測は,一往復毎(20m,40m,60m)に記録した。その他の調査項目として身長,体重,BMI,TUG,最大膝伸展筋力(アニマ社製μTAS),TMT-A,Geriatric Depression Scale簡易版(15項目),MMSE,転倒自己効力感について調査した。
解析は,ベースライン測定後,1年間の追跡調査が可能であった者を対象とし,追跡期間中に複数回の転倒及び怪我を伴う転倒を有したものを転倒群とし,非転倒群と比較した。統計処理は対応のないt検定,χ二乗検定,マンホイットニーのU検定を用いた。また,またぎ歩行課題でのMisstepの有無が転倒予測因子として有用であるかを検討するために,各観察距離におけるMisstepの発生有無により2群化し,カプラン・マイヤー法により比較した。同様に,加齢による影響を検討するために,全対象者の年齢の中央値で2群化し,転倒発生状況をカプラン・マイヤー法により比較した。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
1年間の追跡調査が可能であった者は92名(追跡率85.2%)であった。なお,追跡調査が困難であった理由については転倒以外の理由による入院が4名,残りの12名は追跡調査に対する継続拒否によるものであった。本研究における転倒群は,複数回転倒または怪我を伴う転倒を有した者とし,16名(17.4%),平均年齢78.1±5.6歳であった。非転倒群は76名(平均年齢74.9±5.3歳)であった。
2群間の単変量解析結果より,転倒群は非転倒群に比べ有意に高齢であったほか,転倒群では40m以上の「またぎ歩行」課題でのMisstep発生者が,非転倒群に比べ有意に多かった。その他の項目及び「またぎ歩行」における歩行時間(所要時間)には有意差を認めなかった。
カプラン・マイヤー法による分析から40m以上の「またぎ歩行」でMisstepを認めた者は,Misstepを認めない者に比べて有意に転倒群に属する者が多かった(Log-rank検定:20m p=0.609,40m p=0.042,60m p=0.038)。一方,年齢による転倒発生状況の比較分析では,両群間に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の対象者はいわゆる地域在住の健常高齢者であるが1年間での複数回転倒者や怪我を伴う転倒者が全体の約2割を占めた。転倒者の身体的特性についてはTUGや膝伸展筋力,さらにTMTやFESなどの項目においても有意差を認めなかった。このことから,地域高齢者の転倒はこれまでの体力測定場面に一般的に実施されていた運動機能や認知機能等では検出することが難しく,別の要因によって発生していることが推察される。
地域高齢者の転倒の多くは「歩行中の躓き」を背景に発生することが知られており,歩行中のMisstepの観察が地域高齢者の歩行中の躓きに起因する転倒発生において検出ツールとして有用かもしれない。そして,偶発的に発生する歩行中の躓きなどの歩容に関連する指標の検出に際しては,ある程度の観察距離の延長が必要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は地域在住高齢者の転倒発生予測に有用であることを示唆するほか,観察時間を延長することにより高齢者の新たな身体特性が観察できる可能性を示唆するものと考える。
我々は昨年の本学会において,地域高齢者を対象とした40mの「またぎ歩行」におけるMisstepが過去1年間の転倒歴と関連していることを報告した。そこで本研究の目的は,観察距離を延長した「またぎ歩行」課題におけるMisstep発生が地域高齢者の転倒予測スクリーニング能を有しているかを検討することとした。
【方法】
対象は,自立して生活を営むことができる65歳以上の地域高齢者とした。本研究の除外基準は,両眼矯正視力が0.7以下,杖を使用せずに500m以上の歩行不可,MMSE得点が25点未満,神経疾患を有する,下肢,脊椎に手術歴があることとした。ベースライン時の対象者は108名であった。
ベースライン測定は,自作考案した「またぎ歩行」課題をすべての対象者に実施した。「またぎ歩行」課題は,10cm幅の黄色いライン12本を不等間隔にプリントした10mの灰色歩行路(10m×0.9m)を自作し,黄色いラインを踏まないよう指示した「またぎ歩行」を10m×3往復を快適歩行速度で行わせた。その際,黄色いラインへの足部の接触をMisstepとして定義し,そのMisstepの有無を目視にて観察計測し,合わせてその際に要した歩行時間(所要時間)をストップウォッチにて計測した。また,「通常歩行」についても同様に3往復実施し歩行時間(所要時間)を計測した。これらの計測は,一往復毎(20m,40m,60m)に記録した。その他の調査項目として身長,体重,BMI,TUG,最大膝伸展筋力(アニマ社製μTAS),TMT-A,Geriatric Depression Scale簡易版(15項目),MMSE,転倒自己効力感について調査した。
解析は,ベースライン測定後,1年間の追跡調査が可能であった者を対象とし,追跡期間中に複数回の転倒及び怪我を伴う転倒を有したものを転倒群とし,非転倒群と比較した。統計処理は対応のないt検定,χ二乗検定,マンホイットニーのU検定を用いた。また,またぎ歩行課題でのMisstepの有無が転倒予測因子として有用であるかを検討するために,各観察距離におけるMisstepの発生有無により2群化し,カプラン・マイヤー法により比較した。同様に,加齢による影響を検討するために,全対象者の年齢の中央値で2群化し,転倒発生状況をカプラン・マイヤー法により比較した。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
1年間の追跡調査が可能であった者は92名(追跡率85.2%)であった。なお,追跡調査が困難であった理由については転倒以外の理由による入院が4名,残りの12名は追跡調査に対する継続拒否によるものであった。本研究における転倒群は,複数回転倒または怪我を伴う転倒を有した者とし,16名(17.4%),平均年齢78.1±5.6歳であった。非転倒群は76名(平均年齢74.9±5.3歳)であった。
2群間の単変量解析結果より,転倒群は非転倒群に比べ有意に高齢であったほか,転倒群では40m以上の「またぎ歩行」課題でのMisstep発生者が,非転倒群に比べ有意に多かった。その他の項目及び「またぎ歩行」における歩行時間(所要時間)には有意差を認めなかった。
カプラン・マイヤー法による分析から40m以上の「またぎ歩行」でMisstepを認めた者は,Misstepを認めない者に比べて有意に転倒群に属する者が多かった(Log-rank検定:20m p=0.609,40m p=0.042,60m p=0.038)。一方,年齢による転倒発生状況の比較分析では,両群間に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の対象者はいわゆる地域在住の健常高齢者であるが1年間での複数回転倒者や怪我を伴う転倒者が全体の約2割を占めた。転倒者の身体的特性についてはTUGや膝伸展筋力,さらにTMTやFESなどの項目においても有意差を認めなかった。このことから,地域高齢者の転倒はこれまでの体力測定場面に一般的に実施されていた運動機能や認知機能等では検出することが難しく,別の要因によって発生していることが推察される。
地域高齢者の転倒の多くは「歩行中の躓き」を背景に発生することが知られており,歩行中のMisstepの観察が地域高齢者の歩行中の躓きに起因する転倒発生において検出ツールとして有用かもしれない。そして,偶発的に発生する歩行中の躓きなどの歩容に関連する指標の検出に際しては,ある程度の観察距離の延長が必要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は地域在住高齢者の転倒発生予測に有用であることを示唆するほか,観察時間を延長することにより高齢者の新たな身体特性が観察できる可能性を示唆するものと考える。