[O-0155] 介護老人保健施設入所者の運動回数調整とビタミンD摂取は転倒抑制効果がある
:準ランダム比較化試験
Keywords:転倒, 栄養, 運動
【目的】
2012年,施設入所者転倒予防効果についてエビデンスがまとめられ,大別された3種類の介入方法,運動介入,多因子介入(環境の調整や転倒予防教育,ヒッププロテクターなど),栄養介入のうち,ビタミンDの摂取による栄養介入のみが転倒予防効果を認めた。これらの検証はそれぞれ独立したプロトコルで進められており,転倒予防効果を認めたビタミンDの介入と併せて行う運動回数の組み合わせの十分な検証がなされていない。また,虚弱な者を対象とした運動介入試験では,転倒発生率が上昇した報告もあり運動回数の最適な設定は検証が不十分である。
そこで,本研究の目的は介護老人保健施設(以下:老健施設)の入所者を対象に,運動介入とビタミンD栄養介入また両方による組み合わせの転倒抑制効果を検証することとした。
【対象および方法】
対象者は老健施設入所者91名(女性68名),平均年齢84.8±8.8歳であった。介入期間は2013年9月から3カ月間,転倒の観察期間は6カ月間とした。
4群に無作為割り付けを行いコントロール群23名,運動回数減少群(以下:減少群)群22名,栄養群23名,複合介入群(減少群+栄養群)23名とした。コントロール群は短期集中リハビリテーションの運動回数週3回以上に併せ運動介入は週3回とした。減少群は通常の個別リハビリテーション週2回とし,コントロール群や複合介入群と比べ週20分程度の個別介入時間が少ない設定とした。栄養群は転倒予防効果がある摂取量800IU/day以上のビタミンDを経口摂取させた。複合介入群では減少群と栄養群に行う介入を実施した。なお,運動状況は理学療法士が,ビタミンD摂取状況は看護師と介護士が記録を行った。
なお,介入効果の指標として骨格筋量指標Skeletal Muscle Mass Index(以下:SMI)値,25ヒドロキシビタミンD(以下:25(OH)D),握力,FIMの4項目はベースラインおよび介入期間終了時点の2回実施した。年齢,身長,体重,BMI,要介護度,過去1年間の転倒歴,長谷川式簡易知能評価スケールは介入前に調査・測定を行なった。また,転倒は事故報告書を提出させ発生毎に記録した。
統計解析は転倒発生比較にコックス回帰分析を用い,介入効果の比較には二元配置分散分析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
91名のうち,6カ月間の追跡を完了出来なかった16名を除いた75名(コントロール群17名,減少群22名,栄養群17名,複合介入群19名)について分析を行った。なお,追跡率は82.4%であった。
介入前後の25(OH)D値の比較はコントロール群で介入前14.0±6.1ng/ml,介入後11.3±4.4ng/ml,栄養群で介入前12.5±4.0ng/ml,介入後36.3±4.8ng/ml,複合介入群で介入前12.3±3.8ng/ml,介入後36.3±11.2ng/mlとなり有意な交互作用を認めた。その他の測定項目で有意な変化は認めなかった。
転倒発生はコントロール群8名(47.0%),減少群5名(22.3%),栄養群6名(35.3%)複合介入群2名(10.5%)であった。次に,Cox比例ハザード分析にて,性,年齢で調整を行い,解析したところ減少群ハザード比0.48(信頼区間:0.17-1.30),栄養群ハザード比0.58(信頼区間:0.20-1.68),複合介入群0.28(信頼区間:0.08-0.92)であり,複合介入群はコントロール群と比較して有意に転倒抑制効果が認められた。
【考察】
老健施設の転倒抑制への取り組みとして,運動回数が多いことよりもビタミンDの栄養を摂取させることが効果的であると示唆された。既に虚弱な集団では,転倒予防を目的として運動回数を多く行う必要性は低いと考えられ,運動介入により転倒リスクが増したとする先行研究もある。そのため,運動の影響を受けにくい複合介入群は転倒抑制が実現したと考える。
介入効果では,運動回数や栄養介入の有無に関わらず,筋量・筋力の向上は見られなかった。これは介入期間が短いことや,既に運動療法を施設で実施している者を対象としたことが影響していると考えられる。介入効果を唯一認めた25(OH)Dは栄養群と複合介入群で,介入後に約3倍濃度が上昇しており,推奨される血中25(OH)Dの値,20mg/ml以上となっていた。このことが今回の転倒抑制効果を得る結果に繋がったと考えられる。
【理学療法研究の意義】
虚弱な入所者は積極的な運動介入よりもビタミンDの適正な摂取をすることで,転倒抑制効果があると示唆された。このことは,施設入所者の転倒に起因する活動性低下や骨折などの発生機会を減らす有益な知見である。
2012年,施設入所者転倒予防効果についてエビデンスがまとめられ,大別された3種類の介入方法,運動介入,多因子介入(環境の調整や転倒予防教育,ヒッププロテクターなど),栄養介入のうち,ビタミンDの摂取による栄養介入のみが転倒予防効果を認めた。これらの検証はそれぞれ独立したプロトコルで進められており,転倒予防効果を認めたビタミンDの介入と併せて行う運動回数の組み合わせの十分な検証がなされていない。また,虚弱な者を対象とした運動介入試験では,転倒発生率が上昇した報告もあり運動回数の最適な設定は検証が不十分である。
そこで,本研究の目的は介護老人保健施設(以下:老健施設)の入所者を対象に,運動介入とビタミンD栄養介入また両方による組み合わせの転倒抑制効果を検証することとした。
【対象および方法】
対象者は老健施設入所者91名(女性68名),平均年齢84.8±8.8歳であった。介入期間は2013年9月から3カ月間,転倒の観察期間は6カ月間とした。
4群に無作為割り付けを行いコントロール群23名,運動回数減少群(以下:減少群)群22名,栄養群23名,複合介入群(減少群+栄養群)23名とした。コントロール群は短期集中リハビリテーションの運動回数週3回以上に併せ運動介入は週3回とした。減少群は通常の個別リハビリテーション週2回とし,コントロール群や複合介入群と比べ週20分程度の個別介入時間が少ない設定とした。栄養群は転倒予防効果がある摂取量800IU/day以上のビタミンDを経口摂取させた。複合介入群では減少群と栄養群に行う介入を実施した。なお,運動状況は理学療法士が,ビタミンD摂取状況は看護師と介護士が記録を行った。
なお,介入効果の指標として骨格筋量指標Skeletal Muscle Mass Index(以下:SMI)値,25ヒドロキシビタミンD(以下:25(OH)D),握力,FIMの4項目はベースラインおよび介入期間終了時点の2回実施した。年齢,身長,体重,BMI,要介護度,過去1年間の転倒歴,長谷川式簡易知能評価スケールは介入前に調査・測定を行なった。また,転倒は事故報告書を提出させ発生毎に記録した。
統計解析は転倒発生比較にコックス回帰分析を用い,介入効果の比較には二元配置分散分析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
91名のうち,6カ月間の追跡を完了出来なかった16名を除いた75名(コントロール群17名,減少群22名,栄養群17名,複合介入群19名)について分析を行った。なお,追跡率は82.4%であった。
介入前後の25(OH)D値の比較はコントロール群で介入前14.0±6.1ng/ml,介入後11.3±4.4ng/ml,栄養群で介入前12.5±4.0ng/ml,介入後36.3±4.8ng/ml,複合介入群で介入前12.3±3.8ng/ml,介入後36.3±11.2ng/mlとなり有意な交互作用を認めた。その他の測定項目で有意な変化は認めなかった。
転倒発生はコントロール群8名(47.0%),減少群5名(22.3%),栄養群6名(35.3%)複合介入群2名(10.5%)であった。次に,Cox比例ハザード分析にて,性,年齢で調整を行い,解析したところ減少群ハザード比0.48(信頼区間:0.17-1.30),栄養群ハザード比0.58(信頼区間:0.20-1.68),複合介入群0.28(信頼区間:0.08-0.92)であり,複合介入群はコントロール群と比較して有意に転倒抑制効果が認められた。
【考察】
老健施設の転倒抑制への取り組みとして,運動回数が多いことよりもビタミンDの栄養を摂取させることが効果的であると示唆された。既に虚弱な集団では,転倒予防を目的として運動回数を多く行う必要性は低いと考えられ,運動介入により転倒リスクが増したとする先行研究もある。そのため,運動の影響を受けにくい複合介入群は転倒抑制が実現したと考える。
介入効果では,運動回数や栄養介入の有無に関わらず,筋量・筋力の向上は見られなかった。これは介入期間が短いことや,既に運動療法を施設で実施している者を対象としたことが影響していると考えられる。介入効果を唯一認めた25(OH)Dは栄養群と複合介入群で,介入後に約3倍濃度が上昇しており,推奨される血中25(OH)Dの値,20mg/ml以上となっていた。このことが今回の転倒抑制効果を得る結果に繋がったと考えられる。
【理学療法研究の意義】
虚弱な入所者は積極的な運動介入よりもビタミンDの適正な摂取をすることで,転倒抑制効果があると示唆された。このことは,施設入所者の転倒に起因する活動性低下や骨折などの発生機会を減らす有益な知見である。