[O-0157] 歩行規則性の低下はロコモティブシンドローム判別の指標となる
キーワード:ロコモティブシンドローム, 歩行分析, 3軸加速度センサー
【はじめに,目的】
日本の一般高齢者におけるロコモティブシンドローム(locomotive syndrome:LS)の罹患率は約10~16%と報告されており,加齢に伴ってその割合は上昇する。運動器疾患の悪化による要介護移行を防ぐためには,LSの原因となる変形性膝関節症,変形性腰椎症,骨粗鬆症などに罹患しているものだけでなく,潜在的に運動器に問題を抱え,歩行能力,バランス機能が低下し転倒,骨折しやすくなっているものを早期に判別し,対策を講じていくことが重要である。過去の報告ではTUG,開眼片脚起立時間などがLS判別に有用であると報告されているが,転倒は歩行中に生じること,さらにLSは移動能力の低下を表す概念であることから,歩行状態を評価,分析することがその判別にもっとも有用でないかと考える。本研究の目的は歩行分析装置及び3軸加速度センサーを用いた歩行評価を行い,どのような歩行因子がLS判別の指標に有用であるか調査することである。
【方法】
対象は鳥取県日野町の特定健診及び後期高齢者健診を受診した273名のうち(1)歩行可能で運動検査が実施可能,(2)アンケートの解答が可能な認知機能を要するもののうち,要介護認定者を除いた223名(男性82名,女性141名,年齢73.6±8.3歳,身長154.7±9.1cm,体重53.1±9.6kg,BMI22.1±2.7kg/m2)を研究対象とした。まず,自己記入式アンケートにて基本項目,併存疾患,転倒歴,運動器疾患の有無,関節痛の有無などを聴取した。LSの判別にはロコモ5を用いた。ロコモ5におけるロコモ判別のカットオフポイントである6点をもとに対象者を非LS群,LS群に群分けした。歩行分析は歩行分析装置Opto gait(Microgate社製)を用いて,歩行速度,ステップ長,歩行周期における片脚立脚時間,両脚立脚時間,初期接地時間,足底接地時間,荷重応答時間,推進期時間,立脚終期時間,趾尖離地時間を測定した。歩行規則性,動揺性の評価に3軸加速度センサーを用いた。3軸加速度センサーはMVP-RF8(Micro Stone社製)を使用し,対象者の身体重心に近い第3腰椎棘突起付近にベルトで装着した。被験者に前後2mずつ含む5mの直線歩行路を独歩にて自由歩行してもらい,中間5mの歩行中の加速度を計測した。得られた水平,垂直,前後の3軸の加速度信号を用いて自己相関係数(Auto Correlation:AC)(歩行規則性)及びRoot mean square(RMS)を各軸について算出した。RMSを歩行速度で除して補正し,歩行動揺性と定義した。
【結果】
223名中41名(18%)がLSに該当した。非LS群とLS群で変数比較を行った結果,LS群は非LS群と比較し,統計学上有意に歩行速度が遅く,ステップ長が短かった。さらにLS群は両脚立脚,荷重応答に要する時間が長かった。3軸加速度センサーを用いた歩行分析ではLS群はRMSのすべての軸及びAC垂直軸,前後軸が非LS群より劣っていた。ロコモの有無を説明変数,単変量解析で有意差のあった変数を独立変数として年齢,身長,体重,BMI,性差及び,各運動器疾患の診断歴で調整したロジスティック回帰分析の結果,AC垂直軸が低値であることが唯一LSを判別する因子であった(Odds0.944,95%CI0.891-0.999,p=0.048)。
【考察】
歩行加速度分析の結果は高齢者における一般的な運動検査結果と相関があること,さらに本研究で用いた加速度波形AC分析は歩行規則性の指標として再現性に優れた分析方法であることから,3軸加速度センサーを用いた歩行評価は妥当性,信頼性のある運動機能評価法といえる。一方で,歩行規則性低下は高齢者の虚弱状態をよく表した現象であることが報告されており,歩行速度や他の歩行パラメーターよりも,locomotor frailであるLSの判別に有用な指標となる可能性がある。本研究においてAC分析の中でも垂直軸値の低下のみがLSに関連したのは,身体重心の垂直方向の移動に重要な股関節周囲筋の機能低下を反映した結果であると推察する。以上より,LSの判別には歩行規則性を評価することがもっとも重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
3軸加速度センサーによる歩行分析がLSリスクのスクリーニング法として一般化されれば,地域の健診事業などで使用することが可能となる。それによって早期に運動器の悪化リスクのある成人を精査へ移行させることができ,将来の要介護移行者を減少させることができる可能性がある点で本研究は社会的に大きな意義をもつ。
日本の一般高齢者におけるロコモティブシンドローム(locomotive syndrome:LS)の罹患率は約10~16%と報告されており,加齢に伴ってその割合は上昇する。運動器疾患の悪化による要介護移行を防ぐためには,LSの原因となる変形性膝関節症,変形性腰椎症,骨粗鬆症などに罹患しているものだけでなく,潜在的に運動器に問題を抱え,歩行能力,バランス機能が低下し転倒,骨折しやすくなっているものを早期に判別し,対策を講じていくことが重要である。過去の報告ではTUG,開眼片脚起立時間などがLS判別に有用であると報告されているが,転倒は歩行中に生じること,さらにLSは移動能力の低下を表す概念であることから,歩行状態を評価,分析することがその判別にもっとも有用でないかと考える。本研究の目的は歩行分析装置及び3軸加速度センサーを用いた歩行評価を行い,どのような歩行因子がLS判別の指標に有用であるか調査することである。
【方法】
対象は鳥取県日野町の特定健診及び後期高齢者健診を受診した273名のうち(1)歩行可能で運動検査が実施可能,(2)アンケートの解答が可能な認知機能を要するもののうち,要介護認定者を除いた223名(男性82名,女性141名,年齢73.6±8.3歳,身長154.7±9.1cm,体重53.1±9.6kg,BMI22.1±2.7kg/m2)を研究対象とした。まず,自己記入式アンケートにて基本項目,併存疾患,転倒歴,運動器疾患の有無,関節痛の有無などを聴取した。LSの判別にはロコモ5を用いた。ロコモ5におけるロコモ判別のカットオフポイントである6点をもとに対象者を非LS群,LS群に群分けした。歩行分析は歩行分析装置Opto gait(Microgate社製)を用いて,歩行速度,ステップ長,歩行周期における片脚立脚時間,両脚立脚時間,初期接地時間,足底接地時間,荷重応答時間,推進期時間,立脚終期時間,趾尖離地時間を測定した。歩行規則性,動揺性の評価に3軸加速度センサーを用いた。3軸加速度センサーはMVP-RF8(Micro Stone社製)を使用し,対象者の身体重心に近い第3腰椎棘突起付近にベルトで装着した。被験者に前後2mずつ含む5mの直線歩行路を独歩にて自由歩行してもらい,中間5mの歩行中の加速度を計測した。得られた水平,垂直,前後の3軸の加速度信号を用いて自己相関係数(Auto Correlation:AC)(歩行規則性)及びRoot mean square(RMS)を各軸について算出した。RMSを歩行速度で除して補正し,歩行動揺性と定義した。
【結果】
223名中41名(18%)がLSに該当した。非LS群とLS群で変数比較を行った結果,LS群は非LS群と比較し,統計学上有意に歩行速度が遅く,ステップ長が短かった。さらにLS群は両脚立脚,荷重応答に要する時間が長かった。3軸加速度センサーを用いた歩行分析ではLS群はRMSのすべての軸及びAC垂直軸,前後軸が非LS群より劣っていた。ロコモの有無を説明変数,単変量解析で有意差のあった変数を独立変数として年齢,身長,体重,BMI,性差及び,各運動器疾患の診断歴で調整したロジスティック回帰分析の結果,AC垂直軸が低値であることが唯一LSを判別する因子であった(Odds0.944,95%CI0.891-0.999,p=0.048)。
【考察】
歩行加速度分析の結果は高齢者における一般的な運動検査結果と相関があること,さらに本研究で用いた加速度波形AC分析は歩行規則性の指標として再現性に優れた分析方法であることから,3軸加速度センサーを用いた歩行評価は妥当性,信頼性のある運動機能評価法といえる。一方で,歩行規則性低下は高齢者の虚弱状態をよく表した現象であることが報告されており,歩行速度や他の歩行パラメーターよりも,locomotor frailであるLSの判別に有用な指標となる可能性がある。本研究においてAC分析の中でも垂直軸値の低下のみがLSに関連したのは,身体重心の垂直方向の移動に重要な股関節周囲筋の機能低下を反映した結果であると推察する。以上より,LSの判別には歩行規則性を評価することがもっとも重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
3軸加速度センサーによる歩行分析がLSリスクのスクリーニング法として一般化されれば,地域の健診事業などで使用することが可能となる。それによって早期に運動器の悪化リスクのある成人を精査へ移行させることができ,将来の要介護移行者を減少させることができる可能性がある点で本研究は社会的に大きな意義をもつ。