[O-0167] 呼吸介助により吸気運動を促すことは可能か?
3次元動作解析装置を用いた検討
キーワード:呼吸介助, 吸気運動, 換気力学
【はじめに,目的】
呼吸介助による一回換気量の増加は,安静に比べ終末呼気肺気量位を減少させることによるもので,終末吸気肺気量位に差はない,つまり吸気は促せないという報告がほとんどである。しかしこれらはスパイロメーター等を用いた報告に基づいた結論であり,呼吸介助により胸郭の局所的な吸気呼吸運動が増加するかどうか検討されていない。本研究の目的は,呼吸介助中のchest wall運動を局所毎に測定し,特に呼吸介助が吸気運動を増大させることが可能か否かについて検討することである。
【方法】
呼吸介助を行う術者は呼吸理学療法経験9年の男性理学療法士1名,被術者は健常男性5名(29.8±0.8歳)とした。測定肢位は背臥位とし,安静呼吸(安静),肺活量測定を行った後,上部胸郭呼吸介助(上部介助),下部胸郭呼吸介助(下部介助)をそれぞれ2分間ランダムに実施した。測定は被術者の体表面に62個の反射マーカーを貼り付け,3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac3Dsystem)を用いて各マーカーの座標変化を測定し,得られた座標データからchest wall体積(Vcw)およびこれを分画した上部胸郭体積(Vrcp),下部胸郭体積(Vrca),腹部体積(Vab)を経時的に算出した。同時に,バルーン(外径2.5mm,内径1.5mmのポリエチレンチューブに長さ12cmのバルーンを付けたもの)を食道内と胃内に2本挿入し,胸腔内圧としての食道内圧(Pes)および,腹腔内圧としての胃内圧(Pga)の経時的変化も測定した。解析は各施行の安定した5呼吸における終末吸気位の体積および胸腔・腹腔内圧(終末吸気Vcw,Vrcp,Vrca,Vab,Pes,Pga),終末呼気位の体積および胸腔・腹腔内圧(終末吸気Vcw,Vrcp,Vrca,Vab,Pes,Pga)について,反復測定による一元配置の分散分析を行い,有意差を認めた場合はボンフェローニの方法にて多重比較を行った。すべての検定は統計解析ソフトSPSS15.0J for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
終末吸気Vcwは,安静(23.9±1.7L),上部介助(23.9±1.6L),下部介助(24.0±1.6L)の間に有意差を認めなかった。しかし局所毎に見てみると,終末吸気Vrcpは,安静(13.0±0.6L),上部介助(12.8±0.5L)に比べ,下部介助(12.5±0.6L)は有意に低値を示した(それぞれp<0.05)。一方終末吸気Vrcaは,安静(4.5±0.8L),上部介助(4.5±0.8L)に比べ,下部介助(4.7±0.8L)は有意に高値を示した(それぞれp<0.05)。終末吸気Vabは,安静(6.5±0.6L),上部介助(6.6±0.5L),下部介助(6.7±0.5L)の間に有意差を認めなかった。
終末呼気Vcwは,安静(23.4±1.7L)に比べ上部介助(22.2±1.6L),下部介助(22.6±1.7L)は有意に低値を示した(p<0.01,p<0.05)。局所毎に見ると,終末呼気Vrcpは安静(12.9±0.6L),下部介助(12.7±0.6L)に比べ,上部介助(12.0±0.6L)は有意に低値を示した(それぞれp<0.01)。終末呼気Vrcaは,安静(4.4±0.8L)に比べ,上部介助(4.1±0.7L),下部介助(3.7±0.8L)は有意に低値を示し(それぞれp<0.01),上部介助に比べ下部介助は有意に低値を示した(p<0.01)。終末呼気Vabは安静(6.1±0.6L),上部介助(6.2±0.6L),下部介助(6.0±0.6L)の間に有意差を認めなかった。
終末吸気Pesは安静(-1.51±2.26cmH2O),上部介助(-1.58±3.88cmH2O),下部介助(-2.53±3.18cmH2O)の間に有意差を認めなかった。また,終末吸気Pgaも安静(8.49±2.75cmH2O),上部介助(8.66±2.67cmH2O),下部介助(8.50±3.36cmH2O)の間に有意差を認めなかった。一方終末呼気Pesは,安静(1.56±2.57cmH2O)に比べ,上部介助(9.10±4.59cmH2O),下部介助(7.93±3.52cmH2O)は有意に高値を示したが(p<0.01),上部介助と下部介助の間に有意差は認めなかった。終末呼気Pgaは安静(5.04±2.14cmH2O)に比べ,上部介助(11.46±2.16cmH2O),下部介助(18.05±4.11cmH2O)の順に有意に高値を示した(p<0.01)。
【考察】
今回の結果から,上部介助では終末吸気位の増大は認めなかったが,下部介助において下部胸郭における終末吸気位の増加を認めたことからも,呼吸介助は局所の吸気運動を増大することがわかった。また,下部介助において終末呼気Pgaが最も高値を示したが,これは下部介助によって横隔膜直下の腹腔を圧迫するため腹腔内圧が上昇したと考えられた。また,この腹腔内圧の増加は横隔膜を頭側に移動・ストレッチし,横隔膜運動が促されるために結果的に下部胸郭の吸気運動が増大したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
臨床で呼吸介助を行う理学療法士にとって,呼吸介助が生体に及ぼす影響について知ることは有用である。
呼吸介助による一回換気量の増加は,安静に比べ終末呼気肺気量位を減少させることによるもので,終末吸気肺気量位に差はない,つまり吸気は促せないという報告がほとんどである。しかしこれらはスパイロメーター等を用いた報告に基づいた結論であり,呼吸介助により胸郭の局所的な吸気呼吸運動が増加するかどうか検討されていない。本研究の目的は,呼吸介助中のchest wall運動を局所毎に測定し,特に呼吸介助が吸気運動を増大させることが可能か否かについて検討することである。
【方法】
呼吸介助を行う術者は呼吸理学療法経験9年の男性理学療法士1名,被術者は健常男性5名(29.8±0.8歳)とした。測定肢位は背臥位とし,安静呼吸(安静),肺活量測定を行った後,上部胸郭呼吸介助(上部介助),下部胸郭呼吸介助(下部介助)をそれぞれ2分間ランダムに実施した。測定は被術者の体表面に62個の反射マーカーを貼り付け,3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac3Dsystem)を用いて各マーカーの座標変化を測定し,得られた座標データからchest wall体積(Vcw)およびこれを分画した上部胸郭体積(Vrcp),下部胸郭体積(Vrca),腹部体積(Vab)を経時的に算出した。同時に,バルーン(外径2.5mm,内径1.5mmのポリエチレンチューブに長さ12cmのバルーンを付けたもの)を食道内と胃内に2本挿入し,胸腔内圧としての食道内圧(Pes)および,腹腔内圧としての胃内圧(Pga)の経時的変化も測定した。解析は各施行の安定した5呼吸における終末吸気位の体積および胸腔・腹腔内圧(終末吸気Vcw,Vrcp,Vrca,Vab,Pes,Pga),終末呼気位の体積および胸腔・腹腔内圧(終末吸気Vcw,Vrcp,Vrca,Vab,Pes,Pga)について,反復測定による一元配置の分散分析を行い,有意差を認めた場合はボンフェローニの方法にて多重比較を行った。すべての検定は統計解析ソフトSPSS15.0J for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
終末吸気Vcwは,安静(23.9±1.7L),上部介助(23.9±1.6L),下部介助(24.0±1.6L)の間に有意差を認めなかった。しかし局所毎に見てみると,終末吸気Vrcpは,安静(13.0±0.6L),上部介助(12.8±0.5L)に比べ,下部介助(12.5±0.6L)は有意に低値を示した(それぞれp<0.05)。一方終末吸気Vrcaは,安静(4.5±0.8L),上部介助(4.5±0.8L)に比べ,下部介助(4.7±0.8L)は有意に高値を示した(それぞれp<0.05)。終末吸気Vabは,安静(6.5±0.6L),上部介助(6.6±0.5L),下部介助(6.7±0.5L)の間に有意差を認めなかった。
終末呼気Vcwは,安静(23.4±1.7L)に比べ上部介助(22.2±1.6L),下部介助(22.6±1.7L)は有意に低値を示した(p<0.01,p<0.05)。局所毎に見ると,終末呼気Vrcpは安静(12.9±0.6L),下部介助(12.7±0.6L)に比べ,上部介助(12.0±0.6L)は有意に低値を示した(それぞれp<0.01)。終末呼気Vrcaは,安静(4.4±0.8L)に比べ,上部介助(4.1±0.7L),下部介助(3.7±0.8L)は有意に低値を示し(それぞれp<0.01),上部介助に比べ下部介助は有意に低値を示した(p<0.01)。終末呼気Vabは安静(6.1±0.6L),上部介助(6.2±0.6L),下部介助(6.0±0.6L)の間に有意差を認めなかった。
終末吸気Pesは安静(-1.51±2.26cmH2O),上部介助(-1.58±3.88cmH2O),下部介助(-2.53±3.18cmH2O)の間に有意差を認めなかった。また,終末吸気Pgaも安静(8.49±2.75cmH2O),上部介助(8.66±2.67cmH2O),下部介助(8.50±3.36cmH2O)の間に有意差を認めなかった。一方終末呼気Pesは,安静(1.56±2.57cmH2O)に比べ,上部介助(9.10±4.59cmH2O),下部介助(7.93±3.52cmH2O)は有意に高値を示したが(p<0.01),上部介助と下部介助の間に有意差は認めなかった。終末呼気Pgaは安静(5.04±2.14cmH2O)に比べ,上部介助(11.46±2.16cmH2O),下部介助(18.05±4.11cmH2O)の順に有意に高値を示した(p<0.01)。
【考察】
今回の結果から,上部介助では終末吸気位の増大は認めなかったが,下部介助において下部胸郭における終末吸気位の増加を認めたことからも,呼吸介助は局所の吸気運動を増大することがわかった。また,下部介助において終末呼気Pgaが最も高値を示したが,これは下部介助によって横隔膜直下の腹腔を圧迫するため腹腔内圧が上昇したと考えられた。また,この腹腔内圧の増加は横隔膜を頭側に移動・ストレッチし,横隔膜運動が促されるために結果的に下部胸郭の吸気運動が増大したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
臨床で呼吸介助を行う理学療法士にとって,呼吸介助が生体に及ぼす影響について知ることは有用である。