[O-0181] 立ち上がりの動作速度と運動力学的特徴の関係
キーワード:立ち上がり, 相互作用トルク, 角力積
【はじめに,目的】
体重心の上方への移動速度は立ち上がり動作の成功に重要な要因の1つとされている。先行研究において,離殿後の体重心の上方への運動量が不十分であると立ち上がることができないと報告されている。トルクは身体運動とその原因となる力との関係を明らかとするために動作分析で用いられる。立ち上がり動作速度と下肢関節のトルクに関する研究では,離殿後に起こる下肢関節それぞれの筋トルクのピーク値に焦点を当てたものが多い。しかし,運動量の変化は力と時間の影響を受ける。つまり,力を示すピーク値だけでは運動量全体の変化を十分に説明できない。角力積は力と時間の積で表されるため,立ち上がり中の運動量全体の変化を説明するのに重要と考えられる。
一般的に関節運動を起こす力は筋力,慣性力,重力が挙げられる。立ち上がり動作では筋力と慣性力は体重心を上方へ移動させるために働き,重力はそれらに拮抗する作用をもつと考えられる。また関節運動を起こす筋力,慣性力,重力を合計した力は正味トルクと呼ばれる。同じ動作を行う際に,筋力の作用(以下 筋トルク),慣性力(以下 相互作用トルク)が正味トルクに対して,筋トルクの割合は低く相互作用トルクの割合は高い方が筋の仕事が少なくより慣性力を利用し立ち上がっていると考えられる。しかし,動作速度が正味トルクに対する筋トルクの割合,相互作用トルクの割合にどのような影響を及ぼすかはまだ明らかではない。
本研究の目的は,立ち上がり動作速度の違いが正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積の割合,各トルクの合計の角力積に対する相互作用トルクの角力積の割合に及ぼす影響を明らかとすることである。
【方法】
対象は健常成人男性15名(年齢24.7±5.1歳,身長170.5±3.5cm,体重61.7±4.4kg)とした。使用機器は三次元動作解析装置(MotionAnalysis社製)と床反力計(日本キスラー株式会社製)を使用した。立ち上がる椅子の高さは膝関節屈曲90°,下腿が床と垂直となるように被験者ごとに調整を行った。被験者は上肢を胸の前に組み足部が動かないように,できる限り遅く(以下 遅い),快適,できるかぎり速く(以下 速い)の3条件で立ち上がりの測定を行った。測定前には各条件で十分な練習を行い,各条件で3回測定を行った。Lagrangeの運動方程式から正味トルク,筋トルク,相互作用トルク,重力トルクを求め,被験者の体重で正規化を行った。また足関節では底屈方向,膝関節と股関節は伸展方向のトルクを正とし,それらを総和した値をサポートトルクとして,これ以降の解析で使用した。筋トルク,相互作用トルクそれぞれのサポートトルクの角力積は,臀部離床から体重心の上方速度が最大となるまでの区間を対象として求めた。
データ分析は,正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積と相互作用トルクの角力積の割合を算出し,3回の平均値を使用した。速度条件間の比較には一元配置分散分析,多重比較検定にBonferroni法を用いた(p<0.05)。
【結果】
立ち上がり動作時間は,遅い6.87±1.10秒,快適2.80±0.48秒,速い1.46±0.26秒であった。正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積は,遅い946±441%,快適194±48%,速い91±32%で,すべの条件間に有意差を認めた(p<0.05)。正味トルクの角力積に対する相互作用トルクの角力積は,遅い12±25%,快適21±16%,速い37±20%で,遅いと速い,快適と速いとの条件間で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
立ち上がり動作においてサポートトルクは体重心を上方へ移動させる力と捉えられる。
速い立ち上がり動作では筋トルクの割合が低く,相互作用トルクの割合が高かった。このことから速い立ち上がり動作は筋の仕事量としては立ち上がりに有利であると考えられる。また動作速度が遅くなると筋トルクの割合が高くなった。遅い立ち上がり動作では体幹前傾角度が大きくなることや解析した対象区間が長くなることで,重力トルクが大きくなると予想される。一方相互作用トルクは速度に依存するため,遅い動作では小さくなる。これらのことから重力に打ち勝つために大きな力を発揮できるのは筋力のみであり,遅い立ち上がり動作では筋トルクの割合が高くなったと考えられる。
本研究で用いた角力積は力と時間の積で表される面積であり,瞬間的な力は反映されない。そのため今後は各トルクを単位時間あたりに換算するなどして立ち上がり動作速度と運動力学的特徴の関係を更に検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
立ち上がり動作速度と運動力学的特徴を明らかとすることは,今後の臨床における立ち上がり動作分析の評価にとって有益な情報となる。
体重心の上方への移動速度は立ち上がり動作の成功に重要な要因の1つとされている。先行研究において,離殿後の体重心の上方への運動量が不十分であると立ち上がることができないと報告されている。トルクは身体運動とその原因となる力との関係を明らかとするために動作分析で用いられる。立ち上がり動作速度と下肢関節のトルクに関する研究では,離殿後に起こる下肢関節それぞれの筋トルクのピーク値に焦点を当てたものが多い。しかし,運動量の変化は力と時間の影響を受ける。つまり,力を示すピーク値だけでは運動量全体の変化を十分に説明できない。角力積は力と時間の積で表されるため,立ち上がり中の運動量全体の変化を説明するのに重要と考えられる。
一般的に関節運動を起こす力は筋力,慣性力,重力が挙げられる。立ち上がり動作では筋力と慣性力は体重心を上方へ移動させるために働き,重力はそれらに拮抗する作用をもつと考えられる。また関節運動を起こす筋力,慣性力,重力を合計した力は正味トルクと呼ばれる。同じ動作を行う際に,筋力の作用(以下 筋トルク),慣性力(以下 相互作用トルク)が正味トルクに対して,筋トルクの割合は低く相互作用トルクの割合は高い方が筋の仕事が少なくより慣性力を利用し立ち上がっていると考えられる。しかし,動作速度が正味トルクに対する筋トルクの割合,相互作用トルクの割合にどのような影響を及ぼすかはまだ明らかではない。
本研究の目的は,立ち上がり動作速度の違いが正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積の割合,各トルクの合計の角力積に対する相互作用トルクの角力積の割合に及ぼす影響を明らかとすることである。
【方法】
対象は健常成人男性15名(年齢24.7±5.1歳,身長170.5±3.5cm,体重61.7±4.4kg)とした。使用機器は三次元動作解析装置(MotionAnalysis社製)と床反力計(日本キスラー株式会社製)を使用した。立ち上がる椅子の高さは膝関節屈曲90°,下腿が床と垂直となるように被験者ごとに調整を行った。被験者は上肢を胸の前に組み足部が動かないように,できる限り遅く(以下 遅い),快適,できるかぎり速く(以下 速い)の3条件で立ち上がりの測定を行った。測定前には各条件で十分な練習を行い,各条件で3回測定を行った。Lagrangeの運動方程式から正味トルク,筋トルク,相互作用トルク,重力トルクを求め,被験者の体重で正規化を行った。また足関節では底屈方向,膝関節と股関節は伸展方向のトルクを正とし,それらを総和した値をサポートトルクとして,これ以降の解析で使用した。筋トルク,相互作用トルクそれぞれのサポートトルクの角力積は,臀部離床から体重心の上方速度が最大となるまでの区間を対象として求めた。
データ分析は,正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積と相互作用トルクの角力積の割合を算出し,3回の平均値を使用した。速度条件間の比較には一元配置分散分析,多重比較検定にBonferroni法を用いた(p<0.05)。
【結果】
立ち上がり動作時間は,遅い6.87±1.10秒,快適2.80±0.48秒,速い1.46±0.26秒であった。正味トルクの角力積に対する筋トルクの角力積は,遅い946±441%,快適194±48%,速い91±32%で,すべの条件間に有意差を認めた(p<0.05)。正味トルクの角力積に対する相互作用トルクの角力積は,遅い12±25%,快適21±16%,速い37±20%で,遅いと速い,快適と速いとの条件間で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
立ち上がり動作においてサポートトルクは体重心を上方へ移動させる力と捉えられる。
速い立ち上がり動作では筋トルクの割合が低く,相互作用トルクの割合が高かった。このことから速い立ち上がり動作は筋の仕事量としては立ち上がりに有利であると考えられる。また動作速度が遅くなると筋トルクの割合が高くなった。遅い立ち上がり動作では体幹前傾角度が大きくなることや解析した対象区間が長くなることで,重力トルクが大きくなると予想される。一方相互作用トルクは速度に依存するため,遅い動作では小さくなる。これらのことから重力に打ち勝つために大きな力を発揮できるのは筋力のみであり,遅い立ち上がり動作では筋トルクの割合が高くなったと考えられる。
本研究で用いた角力積は力と時間の積で表される面積であり,瞬間的な力は反映されない。そのため今後は各トルクを単位時間あたりに換算するなどして立ち上がり動作速度と運動力学的特徴の関係を更に検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
立ち上がり動作速度と運動力学的特徴を明らかとすることは,今後の臨床における立ち上がり動作分析の評価にとって有益な情報となる。