[O-0184] 分枝鎖アミノ酸を併用した運動療法の実施が筋力増強に及ぼす効果と再現性
Keywords:アミノ酸, 筋力増強, 高齢者
【はじめに,目的】分枝鎖アミノ酸(以下BCAA)に関する研究は,近年,生理学的な側面から研究が進められ多くの知見が明らかとなった。BCAAは,運動前に摂取することによりタンパク質同化に影響する事が報告されている。さらに近年,Kimらはサルコペニアを有する虚弱高齢者に対して,週2回1時間の運動教室と週7日間のBCAA 6gの摂取の併用を3か月継続して実施し,運動教室のみやBCAAのみの高齢者と比較して,有意に筋力と筋量が増加したと報告している。しかし,外来形式の理学療法ではBCAAを毎日摂取することは臨床上困難であり,BCAAを毎日摂取せず,週1-2回程度のBCAAと運動療法の併用した場合の効果を検証する必要がある。そこで本研究は虚弱高齢者を対象に,クロスオーバー比較試験を用いて,週1-2回のBCAAを併用した運動療法の実施が身体機能改善に及ぼす効果と再現性を検討する事を目的とする。
【方法】通所リハビリテーションを利用し,高齢者用トレーニング機器を用いて運動介入が可能で,食事制限のない虚弱高齢者52名(平均79.4±8.3歳,男性33名,女性19名)を対象とした。無作為に,クールAでBCAAを摂取し,クールBでmaltodextrin(以下MD)を摂取する前投与群27名と,クールAでMDを摂取し,クールBでBCAAを摂取する後投与群25名との2群に分類した。また,対象者に対して盲検化した。研究期間はクールA(3か月),washout期間(1か月),クールB(3か月)とし,週1~2回の頻度で,クールAおよびBは運動介入と栄養介入を併用し,washout期間は運動介入のみを行った。運動介入は,最大筋力の30%負荷(以下MVC)での筋力練習を3セット,有酸素運動とバランス練習とを各1セット,計5セットを行った。栄養介入は,運動開始10分前にBCAA 6gもしくはMD 6gを摂取した。評価項目は,四肢粗大筋力(Leg press:LP,knee extension:KE,hip abduction:HA,Rowing),握力,Timed Up and Go test,Functional reach test(FRT),日常生活上の身体活動,介入回数と遵守率の評価を各クール前後に実施した。解析方法は無作為に割り付けた投与順序による群をクロスオーバーさせて,栄養介入の種類ごとにBCAA群52例とMDを摂取するcontrol群52例の2群に再編成した。BCAA摂取のベースラインを前投与群はクールA開始前,後投与群はクールB開始前に設定し,コントロール群のベースラインを前投与群はクールB開始前,後投与群はクールA開始前と設定した。2群間の比較は,投与順序による群分けでは2元配置分散分析,栄養介入の種類による群分けではMann-WhitneyのU検定を用いた。また,投与順序による群分けおよび栄養介入の種類による群分けの両方において,ITT analysisを用いた。ドロップアウトした症例は各介入時期の全体の中央値で補完した。
【結果】BCAAと運動療法を併用しての介入回数は17.5回,1週間あたり1.5回であった。各時期の介入回数は両群間に差を認めず,遵守率は運動・栄養ともに95%以上と高値で差を認めなかった。BCAA群とcontrol群との比較では,四肢粗大筋力の内,LP(BCAA:113.9±36.0%,control:102.7±12.5%)およびKE(BCAA:109.5±26.3%,control:99.2±18.2%)とFRT(BCAA:111.0±21.9%,control:101.0±17.3%)の改善率がBCAA群で有意に高値であった。その他の項目は差を認めなかった。BCAAの投与順序による群の比較ではLPとFRTにおいて,両群ともにBCAA投与時のみ有意な相乗効果を認め,HAは,後投与群がクールBにおいて有意な相乗効果を認めた。他の項目は有意な交互作用を認めなかった。
【考察】クロスオーバー比較試験を用いて,虚弱高齢者を対象者としてBCAA摂取を併用した運動療法の実施が身体機能改善に及ぼす影響について検討した。クロスオーバーさせた後のBCAA群とcontrol群との比較では,BCAA群の下肢粗大筋力(LP,KE),FRTは有意に高い改善率を認め,それぞれ約10%高い改善率を示した。また,BCAAの投与順序による群の比較では,LPとFRTは両群ともにBCAA摂取と運動療法の相乗効果を認めた。この点からBCAAと30%MVCでの運動介入との併用による筋力増強効果の再現性が認められた。運動開始10分前にBCAA摂取を併用し,30%MVCでの筋力練習を中心とした運動療法を週2回程度の頻度で実施することにより,虚弱高齢者かつ,低負荷の運動強度であっても,効果的に下肢筋力と動的バランス能力を改善することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】BCAAを毎日摂取せずとも,BCAAを併用した運動療法を週2回程度実施することで,効果的な下肢機能改善が期待できることは,より効果的な理学療法を目指していく上で有用である。
【方法】通所リハビリテーションを利用し,高齢者用トレーニング機器を用いて運動介入が可能で,食事制限のない虚弱高齢者52名(平均79.4±8.3歳,男性33名,女性19名)を対象とした。無作為に,クールAでBCAAを摂取し,クールBでmaltodextrin(以下MD)を摂取する前投与群27名と,クールAでMDを摂取し,クールBでBCAAを摂取する後投与群25名との2群に分類した。また,対象者に対して盲検化した。研究期間はクールA(3か月),washout期間(1か月),クールB(3か月)とし,週1~2回の頻度で,クールAおよびBは運動介入と栄養介入を併用し,washout期間は運動介入のみを行った。運動介入は,最大筋力の30%負荷(以下MVC)での筋力練習を3セット,有酸素運動とバランス練習とを各1セット,計5セットを行った。栄養介入は,運動開始10分前にBCAA 6gもしくはMD 6gを摂取した。評価項目は,四肢粗大筋力(Leg press:LP,knee extension:KE,hip abduction:HA,Rowing),握力,Timed Up and Go test,Functional reach test(FRT),日常生活上の身体活動,介入回数と遵守率の評価を各クール前後に実施した。解析方法は無作為に割り付けた投与順序による群をクロスオーバーさせて,栄養介入の種類ごとにBCAA群52例とMDを摂取するcontrol群52例の2群に再編成した。BCAA摂取のベースラインを前投与群はクールA開始前,後投与群はクールB開始前に設定し,コントロール群のベースラインを前投与群はクールB開始前,後投与群はクールA開始前と設定した。2群間の比較は,投与順序による群分けでは2元配置分散分析,栄養介入の種類による群分けではMann-WhitneyのU検定を用いた。また,投与順序による群分けおよび栄養介入の種類による群分けの両方において,ITT analysisを用いた。ドロップアウトした症例は各介入時期の全体の中央値で補完した。
【結果】BCAAと運動療法を併用しての介入回数は17.5回,1週間あたり1.5回であった。各時期の介入回数は両群間に差を認めず,遵守率は運動・栄養ともに95%以上と高値で差を認めなかった。BCAA群とcontrol群との比較では,四肢粗大筋力の内,LP(BCAA:113.9±36.0%,control:102.7±12.5%)およびKE(BCAA:109.5±26.3%,control:99.2±18.2%)とFRT(BCAA:111.0±21.9%,control:101.0±17.3%)の改善率がBCAA群で有意に高値であった。その他の項目は差を認めなかった。BCAAの投与順序による群の比較ではLPとFRTにおいて,両群ともにBCAA投与時のみ有意な相乗効果を認め,HAは,後投与群がクールBにおいて有意な相乗効果を認めた。他の項目は有意な交互作用を認めなかった。
【考察】クロスオーバー比較試験を用いて,虚弱高齢者を対象者としてBCAA摂取を併用した運動療法の実施が身体機能改善に及ぼす影響について検討した。クロスオーバーさせた後のBCAA群とcontrol群との比較では,BCAA群の下肢粗大筋力(LP,KE),FRTは有意に高い改善率を認め,それぞれ約10%高い改善率を示した。また,BCAAの投与順序による群の比較では,LPとFRTは両群ともにBCAA摂取と運動療法の相乗効果を認めた。この点からBCAAと30%MVCでの運動介入との併用による筋力増強効果の再現性が認められた。運動開始10分前にBCAA摂取を併用し,30%MVCでの筋力練習を中心とした運動療法を週2回程度の頻度で実施することにより,虚弱高齢者かつ,低負荷の運動強度であっても,効果的に下肢筋力と動的バランス能力を改善することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】BCAAを毎日摂取せずとも,BCAAを併用した運動療法を週2回程度実施することで,効果的な下肢機能改善が期待できることは,より効果的な理学療法を目指していく上で有用である。