第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述24

運動生理学2

2015年6月5日(金) 15:00 〜 16:00 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:坂野裕洋(日本福祉大学 健康科学部)

[O-0189] 廃用性筋萎縮の回復期におけるヌクレオプロテイン摂取が筋タンパク質の合成と筋衛星細胞の増殖過程に及ぼす効果

中西亮介1, 平山佑介1, 田中稔1,2, 前重伯壮1, 近藤浩代3, 石原昭彦4, 藤野英己1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科, 3.名古屋女子大学家政学部食物栄養学科, 4.京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:筋回復, 再荷重, ヌクレオプロテイン

【はじめに,目的】
廃用性筋萎縮からの回復では収縮タンパク質の合成と筋衛星細胞の増殖・融合による筋核数の増加が必要である。これらの過程を促進させ,回復を促すために運動療法が実施されるが,より効率的に運動効果を引き出し,回復期間を短縮するために栄養素摂取との併用が有効であると報告されている。特にアミノ酸摂取は運動との併用により筋の肥大効果を高めると報告されている。また,ヌクレオチドの構成要素であるヌクレオシドは生体内の細胞周期を促進すると報告されているため,筋衛星細胞の融合を促進し,筋核の増加が促せると考えられる。そこで,萎縮後の回復期にアミノ酸とヌクレオチドを含む栄養素であるヌクレオプロテインを摂取することで,廃用性筋萎縮からの回復過程を促通できるかについて検証した。
【方法】
12週齢の雌性Wistarラットを対照群(CON群),後肢非荷重群(HU群),後肢非荷重終了後に再荷重を行った群(HUR群),後肢非荷重終了後に再荷重を行い,ヌクレオプロテインを摂取した群(HUR+NP群)に区分した。ヌクレオプロテイン(日産化学工業)は800mg/kg/日を経口摂取させた。HU群,HUR群及びHUR+NP群は14日間の非荷重を行い,HUR群及びHUR+NP群は非荷重後に5日間の回復期間を設けた。実験期間終了後にヒラメ筋を摘出し,急速凍結した。得られた筋サンプルはクライオスタットを用いて,横断切片(10μm)を作製し,ATPase染色を施した。光学顕微鏡画像をデジタイズし,Image J(NIH, MD, USA)で筋線維横断面積(CSA)を計測した。また,免疫組織化学染色により細胞膜(抗Dystrophin),筋衛星細胞(抗Pax-7),核染色(DAPI)を可視化し,細胞膜内の核及び筋衛星細胞の数を算出した。さらにタンパク合成に関与するAkt-1,rpS6のリン酸化及び総タンパク質発現量はWestern Blot法により測定し,リン酸化率を算出した(p-Akt-1/Akt-1,p-S6/S6)。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyによる多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
CSAはHU群でCON群と比較して有意に低値を示し,HUR群はHU群と比較して有意に高値を示した。また,HUR+NP群はHUR群と比較して有意に高値を示した。筋衛星細胞はCON群とHU群で有意な差はなく,HUR群はCON群,HU群と比較して有意な増加が観察された。一方,HUR+NP群はHUR群と比較して有意な低下がみられた。また,筋核数はHU群でCON群に比べ,有意な低下が見られた。HUR群はHU群と比較して有意な差は認められず,HUR+NP群でHUR群と比較して有意な増加がみられた。p-Akt-1/Akt-1の発現量はHU群でCON群に比較して有意に低値を示し,HUR群でHU群と比較して有意に高値を示した。一方,HUR+NP群とHUR群の間に有意な差は認められなかった。p-S6/S6の発現量はHU群でCON群に比較して低値を示し,HUR群はHU群と比較して有意に高値を示し,HUR+NP群はHUR群と比較して有意に高値を示した。
【考察】
本研究では廃用性筋萎縮からの回復期に再荷重に加え,ヌクレオプロテイン摂取をすることでタンパク質合成に関与するmTOR経路を活性化させると共に筋核数の増加を促すことが確認された。ヌクレオプロテインの構成成分であるアミノ酸はmTORを活性化させ,下流因子であるタンパク質合成の促進に直接作用するS6を活性化するが,Akt-1を経由しないことが報告されている。このため,ヌクレオプロテイン摂取ではAkt-1に変化を認めなかったが,S6の活性化を促したものと考えられる。また,ヌクレオプロテイン摂取で筋衛星細胞数の低下及び筋核数の増加が認められた。ヌクレオプロテインの成分であるヌクレオシドの添加は細胞周期の移行を促すと報告されている。また,筋衛星細胞が活性化すると細胞増殖周期に入り,増殖を繰り返した後,細胞周期を停止させ,筋線維との融合することが報告されている。このためにヌクレオプロテイン摂取では筋衛星細胞の増殖過程を促進させ,融合が早期に行われ,筋核の増加が認められたものと考える。これらの結果から後肢非荷重後の回復期にヌクレオプロテイン摂取することで筋タンパク質合成と筋衛星細胞の増殖過程を促進させ,筋萎縮からの回復を促すことができると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から従来の荷重運動刺激に加え,ヌクレオプロテイン摂取を組み合わせることで筋萎縮からの早期回復効果を高める手段となり得ることが示唆された点で理学療法分野において意義があると考える。