[O-0190] 早期離床がくも膜下出血患者の機能予後に与える影響
―単施設ケースコントロール研究―
Keywords:くも膜下出血, 早期離床, 予後
【はじめに,目的】
脳卒中患者に対する急性期リハビリテーションに関して,ラクナ梗塞では診断が確定した日より,主幹動脈閉塞および脳出血では神経症候の増悪がないことを確認してから可及的早く開始することが勧められている(脳卒中治療ガイドライン2009)。しかし,くも膜下出血(SAH)では離床時期は個別に検討することが勧められるという記載に留まり,統一された見解がない。また,SAH患者においては発症後4日から14日頃までに生じる脳血管攣縮により神経脱落症状を伴うことも少なくなく,従来は脳血管攣縮が収束した後に離床を開始していたため,廃用症候群の原因となり結果的に予後を悪化させやすいとも言われていた。しかし,近年ではSAH患者の早期離床の安全性が報告され始めており,当院でも脳神経外科医およびリハビリテーション医の管理のもと,術後早期に離床を開始している。これまで,SAH患者の予後に関しては年齢,重症度および合併症発生の有無などと関連していることが報告されているが,早期離床が予後にどのような影響を与えるかについては検討されていない。本研究の目的は,SAH患者の機能予後に関して,早期離床も含めたさまざまな要因の影響を検討することである。
【方法】
対象は当院に平成22年4月から平成26年9月までに入院しリハビリテーションが処方されたSAH患者連続83例のうち,死亡例,治療転院例,発症後早期に外科的治療が施行されなかった例および脳神経外科疾患以外の合併症により長期臥床を強いられた例を除外した64例とした。研究デザインはケースコントロール研究とし,主要評価項目である退院時modified Rankin Scale(mRS)のほか,患者背景に関する項目として年齢および性別,疾患に関する項目としてHunt & Kosnikの重症度分類(重症度)および術式(開頭クリッピング術またはコイル塞栓術),入院中の経過に関する項目として入院から車いす移乗までの日数(離床開始日),人工呼吸器装着の有無および合併症発生の有無を調査した。なお,離床開始時期は脳血管攣縮期も含めて脳神経外科医とリハビリテーション医,そして担当理学療法士が検討した上で決定した。統計学的検定として,対象者を退院時mRS≦2の予後良好(良好)群とmRS>2の予後不良(不良)群の2群に割り付けし,Mann-WhitneyのU検定およびカイ二乗検定を用いて各項目の比較検討を行った。また,単変量解析で有意差を認めた因子を独立変数,予後の違いを従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,機能予後に与える因子を解析した。統計処理には統計解析ソフト(SPSS Statistics ver. 20)を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
対象は年齢60.5±15.3(平均値±標準偏差)歳,男性25名,女性39名であった。重症度の内訳はgradeIが6例,gradeIIが26例,gradeIIIが8例,gradeIVが20例,gradeVが4例,開頭クリッピング術は37例に,コイル塞栓術は27例に施行されていた。退院時mRSの結果,良好群は35名,不良群は29名であり,年齢(55.9±15.3歳vs. 66.5±13.3歳:良好群vs.不良群p<0.01),重症度(2.4±0.9 vs. 3.4±1.2,p<0.01),離床開始日(6.6±4.7日vs. 17.2±14.9日,p<0.01),人工呼吸器装着(1例vs. 6例,p<0.05)および合併症発生(8例vs. 21例,p<0.01)については両群間で有意差が認められた。これらの独立変数を用いた多重ロジスティック回帰分析の結果,離床開始日(p<0.05,オッズ比1.11,95%信頼区間:1.01-1.21),合併症発生(p<0.01,オッズ比6.13,95%信頼区間:1.76-21.36)が機能予後を予測する因子として抽出された。
【考察】
本研究の結果より,SAH患者の機能予後には離床開始日と合併症発生の有無が関連していることが明らかになった。SAH患者の入院中の経過は様々であり,呼吸器感染症や尿路感染症などの感染性合併症に加え,遅発性脳梗塞,髄膜炎および水頭症を生じる可能性があり,これら合併症発生は機能予後を悪化させる要因であることが報告されている(Rowland et al., 2012, Dupont et al., 2013)。一方,近年はSAH患者の早期離床の安全性に関する報告はあるものの,その効果に関する報告は少ない。本研究より,SAH患者において離床が遅延することは結果的に機能予後を悪化させる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,SAH患者の早期離床の有用性を支持する知見となり得る。SAH患者においても早期離床を行うことが機能予後の改善に寄与する可能性が考えられる。
脳卒中患者に対する急性期リハビリテーションに関して,ラクナ梗塞では診断が確定した日より,主幹動脈閉塞および脳出血では神経症候の増悪がないことを確認してから可及的早く開始することが勧められている(脳卒中治療ガイドライン2009)。しかし,くも膜下出血(SAH)では離床時期は個別に検討することが勧められるという記載に留まり,統一された見解がない。また,SAH患者においては発症後4日から14日頃までに生じる脳血管攣縮により神経脱落症状を伴うことも少なくなく,従来は脳血管攣縮が収束した後に離床を開始していたため,廃用症候群の原因となり結果的に予後を悪化させやすいとも言われていた。しかし,近年ではSAH患者の早期離床の安全性が報告され始めており,当院でも脳神経外科医およびリハビリテーション医の管理のもと,術後早期に離床を開始している。これまで,SAH患者の予後に関しては年齢,重症度および合併症発生の有無などと関連していることが報告されているが,早期離床が予後にどのような影響を与えるかについては検討されていない。本研究の目的は,SAH患者の機能予後に関して,早期離床も含めたさまざまな要因の影響を検討することである。
【方法】
対象は当院に平成22年4月から平成26年9月までに入院しリハビリテーションが処方されたSAH患者連続83例のうち,死亡例,治療転院例,発症後早期に外科的治療が施行されなかった例および脳神経外科疾患以外の合併症により長期臥床を強いられた例を除外した64例とした。研究デザインはケースコントロール研究とし,主要評価項目である退院時modified Rankin Scale(mRS)のほか,患者背景に関する項目として年齢および性別,疾患に関する項目としてHunt & Kosnikの重症度分類(重症度)および術式(開頭クリッピング術またはコイル塞栓術),入院中の経過に関する項目として入院から車いす移乗までの日数(離床開始日),人工呼吸器装着の有無および合併症発生の有無を調査した。なお,離床開始時期は脳血管攣縮期も含めて脳神経外科医とリハビリテーション医,そして担当理学療法士が検討した上で決定した。統計学的検定として,対象者を退院時mRS≦2の予後良好(良好)群とmRS>2の予後不良(不良)群の2群に割り付けし,Mann-WhitneyのU検定およびカイ二乗検定を用いて各項目の比較検討を行った。また,単変量解析で有意差を認めた因子を独立変数,予後の違いを従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,機能予後に与える因子を解析した。統計処理には統計解析ソフト(SPSS Statistics ver. 20)を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
対象は年齢60.5±15.3(平均値±標準偏差)歳,男性25名,女性39名であった。重症度の内訳はgradeIが6例,gradeIIが26例,gradeIIIが8例,gradeIVが20例,gradeVが4例,開頭クリッピング術は37例に,コイル塞栓術は27例に施行されていた。退院時mRSの結果,良好群は35名,不良群は29名であり,年齢(55.9±15.3歳vs. 66.5±13.3歳:良好群vs.不良群p<0.01),重症度(2.4±0.9 vs. 3.4±1.2,p<0.01),離床開始日(6.6±4.7日vs. 17.2±14.9日,p<0.01),人工呼吸器装着(1例vs. 6例,p<0.05)および合併症発生(8例vs. 21例,p<0.01)については両群間で有意差が認められた。これらの独立変数を用いた多重ロジスティック回帰分析の結果,離床開始日(p<0.05,オッズ比1.11,95%信頼区間:1.01-1.21),合併症発生(p<0.01,オッズ比6.13,95%信頼区間:1.76-21.36)が機能予後を予測する因子として抽出された。
【考察】
本研究の結果より,SAH患者の機能予後には離床開始日と合併症発生の有無が関連していることが明らかになった。SAH患者の入院中の経過は様々であり,呼吸器感染症や尿路感染症などの感染性合併症に加え,遅発性脳梗塞,髄膜炎および水頭症を生じる可能性があり,これら合併症発生は機能予後を悪化させる要因であることが報告されている(Rowland et al., 2012, Dupont et al., 2013)。一方,近年はSAH患者の早期離床の安全性に関する報告はあるものの,その効果に関する報告は少ない。本研究より,SAH患者において離床が遅延することは結果的に機能予後を悪化させる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,SAH患者の早期離床の有用性を支持する知見となり得る。SAH患者においても早期離床を行うことが機能予後の改善に寄与する可能性が考えられる。