第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述25

脳損傷理学療法2

Fri. Jun 5, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:高村浩司(健康科学大学 理学療法学科)

[O-0193] 当医会における髄膜腫術後患者が屋内歩行自立に要する日数の算出と関連する因子の検討

橋本昂史朗1, 森信学1, 小蒲京子1, 宮島恵樹2, 奈良坂亮3 (1.森山記念病院, 2.了德寺大学健康科学部理学療法学科, 3.森山リハビリテーション病院)

Keywords:髄膜腫, 歩行自立, 予後予測

【はじめに,目的】
これまで,本邦において脳卒中や整形外科疾患における歩行自立時期に関しての報告は散見されるが,脳腫瘍に関する報告は少ない。そこで今回我々は,脳腫瘍の中で最も発生頻度の高い髄膜腫において調査を行った。神経学的所見が様々である髄膜腫術後患者の歩行自立に至るまでの日数を明らかにし,それに関係する因子を検討することは,術後予後予測において意義があると考えた。本研究の目的は,当医会における術後髄膜腫患者が歩行自立に至るまでの日数の算出,歩行自立と術前歩行障害の有無の関係,歩行自立に関連する因子を検討することとした。
【方法】
対象は,2012年8月から2014年8月までに当院にて髄膜腫と診断され,開頭腫瘍摘出術を施行しリハビリ処方のあった50名のうち,他院での開頭腫瘍摘出術の既往のある13名を除いた37名である。また,このうち5名は回復期病棟を有する姉妹病院へ転院となった。平均年齢58±13.3歳,男性9名,女性28名,平均在院日数は29±33.3日であった。方法は,術後より歩行自立に要する平均日数を算出し,平均日数を基準に早期自立群と自立遅延群に分け,屋内歩行自立に至らなかった群を非自立群と分類した。ここでの歩行自立の基準として,担当理学療法士が病棟内を独歩にて歩行可能と判断したこととした。また,検討因子は,年齢,術前では歩行障害の有無,術後では意識障害,高次脳機能障害,下肢運動麻痺の有無として,それらの歩行自立への影響を検討した。術前歩行障害に関しては,入院時Barthel Indexの移動項目10点以下の者とし,術後意識障害は,術後1週目にJapan Coma ScaleI桁以上の者,高次脳機能障害は,長谷川式簡易知能評価スケール,リバーミード行動記憶検査,コース立方体組み合せテスト,Trail Making Test,BIT行動性無視検査などの高次脳機能検査で平均値よりも劣っていた者,下肢運動麻痺は術後1週目にBrunnstrom recovery stageVI以下の者とした。統計学的分析は,早期自立群,自立遅延群,非自立群に対して,年齢について多重比較検定(Tukey-Kramer法),術前歩行障害の有無,術後意識障害,高次脳機能障害,下肢運動麻痺の有無についてはFisherの直接確立検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術後歩行自立までの平均日数は11±13.0日,早期自立23名(平均年齢52±11.1歳,男性6名,女性17名,平均在院日数15±4.3日),自立遅延9名(平均年齢66±10.9歳,男性2名,女性7名,平均在院日数35±25.8日),非自立群5名(平均年齢71±8.7歳,男性1名,女性4名,平均在院日数86±51.3日)であった。年齢,術後意識障害,高次脳機能障害に関して早期自立群と自立遅延群,早期自立群と非自立群で有意差が認められた(p<0.01)。また,術前歩行障害に関しては,早期自立群と非自立群で有意差が認められた(p<0.05)。術後下肢運動麻痺では有意差は認められなかったが,早期自立群と比較して非自立群で高い確率であった。
【考察】
今回,髄膜腫術後患者の屋内歩行自立に要する日数と,関連する因子について後方視的に検討した。結果より,屋内歩行自立を遅延または非自立とさせる因子として,年齢,術後意識障害,高次脳機能障害が挙げられた。これまで脳卒中患者の歩行自立に関連する因子として,諸家の報告ではこれらの因子の影響が示唆されてきた。今回の髄膜腫術後患者においても同様の結果を示した。そのため,髄膜腫術後患者においても,高齢,術後意識障害,高次脳機能障害が屋内歩行自立に影響する因子であることが考えられる。歩行自立に影響する原因として,意識障害は術後早期から積極的な介入ができないことや自発運動の低下による,起居動作などの獲得の遅延が考えられ,高次脳機能障害を有している場合は,運動学習能力の低下や病棟での危険行動が考えられる。また,屋内歩行自立を非自立とさせる因子として,術前歩行障害が挙げられた。術前歩行障害については,腫瘍による頭蓋内圧亢進症状や,局所神経症状が術後にも影響したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
これまでにあまり報告例のない髄膜腫術後患者の屋内歩行自立に要する日数を明らかにすると共に,歩行自立には高齢,術前歩行障害,術後意識障害,高次脳機能障害が影響していることが示唆された。今後,腫瘍の大きさや部位の違いによる影響を調査し,更なる予後予測の際の因子を検討することで,理学療法介入における一助になると考える。