第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述25

脳損傷理学療法2

Fri. Jun 5, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:高村浩司(健康科学大学 理学療法学科)

[O-0195] 脳卒中者の日常生活の改善を予測する

―回復期リハビリテーション病棟における日常生活の改善の特徴と入院時評価による改善度の予測―

北地雄, 鈴木淳志, 清水陽介, 髙橋美晴, 岡島亜美, 澤田なお, 原島宏明, 宮野佐年 (総合東京病院リハビリテーション科)

Keywords:予後予測, 脳卒中, 回復期

【はじめに,目的】

機能的帰結の予測はよく行われており,Kwakkelら(1996)は年齢,脳卒中の既往,尿失禁,発症時の意識障害,時間と場所の見当識障害,麻痺の重症度,座位バランス,入院時のADLスコア,社会的サポートのレベル,および梗塞領域外のグルコース代謝率が脳卒中後の機能回復の妥当な予測因子であることを示した。これ以外にも,心理・精神的側面も脳卒中後の機能的帰結に影響を及ぼす因子として知られている(例えばOstir et al, 2002;Jones et al, 2011)。しかし,我々の知る限りで基本動作,筋力,バランス,麻痺の重症度,歩行,およびADLの評価をバランスよく含め,さらに心理・精神的評価も取り込んだ脳卒中後の機能的帰結の回復の予測はされていない。このような広範な評価指標を用いた予後予測は,より臨床使用に耐えうるモデルを提供することができると考えた。本研究の目的は,上記のような複数の身体機能面の評価に加え,心理・精神的側面も含めた脳卒中後の機能的帰結の予測を行うことである。
【方法】

対象は脳卒中により当院回復期病棟に入院した23名(男性20名,女性3名;年齢69.9±13.8歳;発症からの期間27.6±19.5日)である。回復期病棟入院時点における初期評価は身体機能面としてABMS(Ability for Basic Movement Scale),10m歩行,TUG(Timed Up & Go test),FBS(Functional Balance Scale),最大等尺性膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom Stage),BI(Barthel Index),mRS(modified Rankin Scale),心理・精神的側面としてCES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale),やる気スコア,Vitality Index,自尊感情尺度,SS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)であり,回復期病棟退院時点における帰結評価として退院時のBI,mRS,回復期在棟日数,総入院日数を評価した。今回の主要な関心である日常生活の改善度は,入院時と退院時のBIの差分とし,ここではBI改善度と表現した。これらBI改善度と初期評価の関連性を相関分析および回帰分析を用い検討した。また,入院時BI 60点以上およびmRS 2以下を軽症群,BI 60点未満およびmRS 3以上を重症群と定義し改善度の比較を行った。統計解析はSPSS version 17.0を用い有意水準は5%とした。
【結果】

回復期在棟日数は82.0±45.9日,入院日数は102.3±51.2日,BI改善度は14.4±16.5点であった。BI改善度と相関を示した評価項目はABMS,FBS,BI,回復期在棟日数,および入院日数であった(それぞれr=-0.529,-0.490,-0.618,0.507,0.423)。入院時に重症群であったものは軽症群と比較し改善度が大きかった(p<0.05)。入院時のmRSとBI改善度に相関は認められなかったが,入院時mRSが0,1であっても5であっても改善度が小さい傾向にあった。BI改善度はBI,FBS,および回復期在棟日数により変数の70.8%が説明され,回復期在棟日数を除いても変数の60.5%が説明された。BI改善度の予測式はそれぞれ28.643+(-0.887)×BI+0.979×FBS+0.165×回復期在棟日数,もしくは58.033+(-0.949)×BI+0.683×FBSとなった。
【考察】

今回の結果は先行研究(例えばShahら1989, 1990)と同様に,入院時に重症である方がより大きな改善度を示すことを明らかにした。しかし,このことは今回採用した評価指標の天井効果,つまり入院時にすでに満点に近い場合,点数上の大きな改善を得にくいということも考慮しなければならない。その一方で,入院時mRSとBI改善度の関係から,入院時に寝たきりのような重症であっても大きな改善を得にくいことが示唆された。さらに,BI改善度が回復期在棟日数とも関連した今回のような結果は,回復期病棟入院時に軽症である場合,早期に日常生活が自立し早期に退院し,逆に重症である場合,ある程度の入院期間を要するという経験的に周知の事実とも合致する。今回,BI改善度と関連を認めた心理・精神的評価指標はなかったが,症例数が少なく統計的有意水準に達しなかっただけである可能性があり,実際にグラフの視覚的分析は抑うつやアパシーを有すると入院日数などが明らかに長いことを示していた。今後,症例数を増やしさらに頑健なモデルを作る必要がある。
【理学療法学研究としての意義】

回復期病棟には期限があるため,期間を含めた予後予測が重要である。今回の回帰式を移項することで,どの程度の改善をいつまでに達成するのかという明確な目標を立てることも可能となる。また,目標の重要性はDobkinら(2010)の研究からも明らかであるため,今回の結果はモチベーションの維持にも貢献できる可能性がある。