第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述26

予防理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:島田裕之(国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター生活機能賦活研究部)

[O-0196] 三世代間(若年・中年・高齢)における認知症に関する知識量の比較

久保田直人1, 加藤仁志1,2, 酒井みずき1, 岡部由季1, 鳥海亮1, 入山渉2 (1.群馬パース大学, 2.群馬パース大学大学院)

Keywords:認知症, 知識量, 三世代間

【はじめに,目的】
わが国の認知症者は高齢者人口の増加に伴い急速に増大し,平成27年には約250万人,平成37年には約320万人に達し,さらに増加の一途をたどることは確実であると言われている。近年,多くの人々にとって,自分自身あるいは家族が認知症になることが身近な問題になってきている。認知症になった家族を介護する身となった際,認知症者の心理,行動,言動を理解するきっかけとなるために,また,認知症と向き合っていくために,若年・中年・高齢の各世代が認知症について正しい知識を持つことが大切であると考えられる。認知症の知識量に関する先行研究では,高齢者に対する知識量調査(杉原ら,2005)や,学生に対する認知症のイメージの調査(柴田,2006)はあるが,中年世代を対象に知識量を調査した研究は少ない,また,若年・中年・高齢世代のイメージを世代間で比較した研究(谷田,2010)はあるが,三世代間の知識量を定量的に比較している研究は見当たらない。そこで本研究では若年・中年・高齢の三世代間における認知症に関する知識量を比較することを目的とした。
【方法】
対象は健常若年者280名(19.9±1.80歳)(若年世代),その両親51名(50.0±4.4歳)(中年世代),その祖父母29名(76.3±5.5歳)(高齢世代)とした。対象に対して,杉原らが先行研究で用いた認知症知識尺度を用いて,認知症の知識量調査を実施した。この知識尺度は自記式であり,認知症についての知識の設問として,一般的なもの(4問),症状に関するもの(中核症状について5問,周辺症状について2問,行動能力の障害について3問の合計10問),治療に関するもの(4問)の3分野,計18問を解答するものである。統計学的解析は,知識尺度の正答率を,多重比較(Tukey法)を用いて,若年・中年・高齢の三世代間で比較した。統計解析ソフトウェアはR2.8.1を使用した。
【結果】
認知症知識尺度の正答率は若年が77.0±12.7%,中年は83.0±10.0%,高齢は66.0±13.5%であった。三世代間の正答率を比較したところ,全ての群間で有意差が認められ,中年・若年・高齢の順に認知症知識尺度の正答率が有意に高かった。また,各世代の項目別の正答率は周辺症状の正答率が低い傾向が認められた。
【考察】
三世代間(若年・中年・高齢)で認知症の知識量を比較したところ,中年世代が最も高い結果となった。近年,メディアで認知症について取り上げられることが多くなり認知症の知識を得る機会が多くなってきたのではないかと考えた。また,中年世代の健康への意識が高くなってきたことにより,講演会へ参加するなど,知識を得る機会が多くなっていることも要因ではないかと考えられた。一方,高齢世代では,自宅付近や高齢者が集う場所で,認知症について誤った知識を得た可能性,認知症に対する誤ったイメージを持っている可能性,また,講演会などの認知症の知識を得る機会について調べる方法や参加する移動手段に乏しいという可能性が考えられ,これらのことより認知症の知識量が最も低い結果になったと考えられた。さらに,各項目別での比較では,三世代間共に周辺症状の正答率が低い傾向が認められた。これは,認知症の周辺症状について誤った考えを持っている可能性が考えられ,認知症高齢者の偏見にも繋がることが示唆された。今後,高齢化が進むにつれ高齢者1人あたりに対して介護を行える若年・中年世代が足りなくなることが示唆されている。これに伴い,老老介護がより一層増えることが考えられ,若年・中年世代のみならず高齢世代も認知症についてより高い知識をもつ必要がある。そのため,理学療法士として認知症についての知識を得る機会を設けることを考えておく必要があるのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
三世代間(若年・中年・高齢)の認知症の知識量を検討したところ,中年・若年・高齢の順に知識量が高いことが明らかになった。この結果は認知症高齢者介護における資料として,また,認知症予防事業の内容検討の資料として有意義であると考えられた。