[O-0199] 要支援・軽度要介護高齢者の重度化予防に対する運動機能検査の有用性
4959名における3年間の追跡調査
キーワード:要支援・要介護高齢者, 重度化予防, 運動機能
【はじめに,目的】
平成26年版高齢社会白書によると65歳以上の要介護者等認定者数は平成24(2012)年度末で545.7万人であり,13(2001)年度末から258.0万人増加している。介護保険財政上,要介護状態をどのように改善・維持するかという点が政策上,非常に重要になってきている。理学療法士として介護予防,要介護度の重度化予防に関わる上で,どのような運動機能が要介護度の重度化に陥る原因として重要であるか明らかにする必要性は高い。そこで本研究の目的は3年間の追跡調査によって要介護度の重度化に影響を与える運動機能とCut-off pointを明らかにし,効果的な介護保険サービス提供につなげることとした。
【方法】
対象は通所介護サービスを3年以上継続して利用していた要支援・軽度要介護高齢者4959名(年齢81.5±6.5歳,男性1433名,女性3526名)であり,ベースライン時の要介護度の内訳は,要支援1が873名(17.6%),要支援2が836名(16.9%),要介護1が2043名(41.2%),要介護2が1207名(24.3%)であった。認知機能は測定の信頼性を高めるためmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が3以上である者は除外した。測定項目は握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。要支援・要介護高齢者それぞれに関して,ベースライン時から3年間で維持,または改善した者を維持・改善群,ベースラインから3年間で要介護に重度化した者を悪化群として2群に分けた。
要支援・要介護高齢者それぞれの維持・改善群と悪化群の各変数の比較をするために,性別はχ2検定,年齢,握力,歩行速度は対応のないt検定,CST-5,開眼片足立ち,TUGはMann-WhitneyのU検定を用いて単変量分析を行った。
有意な関連が認めらえた項目に関してはcut-off値を求めるためにreceiver operating characteristic(ROC)曲線を用いた。cut-off値の決定には,Youden indexを使用した。また,各測定項目のAUC,cut-off値の感度,特異度を算出した。算出したcut-off値より運動機能の測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した。要介護度の重度化に影響を与えると考えられる年齢,性別,MSQを調整要因とし,これらの項目に運動機能cut-off値分類を加えた項目を独立変数,維持・改善群・悪化群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。(有意水準5%未満)
【結果】
要支援,軽度要介護高齢者ともに単変量分析より,開眼片足立ち,歩行速度では維持・改善群に比べ有意に低値を示し,CST-5,TUGは有意に高値を示した。
要支援高齢者に関して,Youden indexから算出したcut-off値はCST-5が10.1秒,開眼片足立ち12.5秒,歩行速度0.7m/s,TUG12.9秒であった。軽度要介護高齢者に関して,Youden indexから算出したcut-off値はCST-5が12.1秒,開眼足立ち4.5秒,歩行速度0.7m/s,TUG14.0秒であった。ロジスティック回帰分析の結果,要支援高齢者に関してはTUGが,軽度要介護高齢者に関しては開眼片足立ちが重度化に影響を与える要因として抽出された。これらの要因がcut-off値より悪い結果を示した場合の重度化に対するオッズ比(odds ratio:OR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)は,TUG(OR 1.45,95%CI 1.14-1.98,P<0.01),開眼片足立ち(OR 1.52,95%CI 1.21-1.90,P<0.01)であった。
【考察】
要介護度の重度化に影響を及ぼす要因として,運動機能に関しては,要支援ではTUG,要介護高齢者では片足立ちが抽出された。要支援高齢者では基本的日常生活動作が自立している者が多く,手段的日常生活動作を遂行するために必要な複合的移動能力を求められるTUGが重要となることが考えられる。片足立ちについては,要支援と要介護のcut-off値は12.5秒から4.5秒まで低下しており要介護度の重度化に伴いバランス能力が急激に低下していくことが示唆された。今回算出されたcut-off値が要支援・要介護高齢者の重度化予防に対する一つの目標値として使用できることが期待される。疾患や認知機能,生活機能,世帯構成等も要介護度の重度化に影響を及ぼす因子であることが予想されるため,今後はそれらの要因も踏まえ調査していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によってTUGや開眼片足立ちといった簡便に実施出来る評価結果が要介護度の重度化に影響することが明らかになったことは,理学療法士が配置されていない施設が多い通所介護サービスの中で,今後のサービス提供上,有意義であると考える。
平成26年版高齢社会白書によると65歳以上の要介護者等認定者数は平成24(2012)年度末で545.7万人であり,13(2001)年度末から258.0万人増加している。介護保険財政上,要介護状態をどのように改善・維持するかという点が政策上,非常に重要になってきている。理学療法士として介護予防,要介護度の重度化予防に関わる上で,どのような運動機能が要介護度の重度化に陥る原因として重要であるか明らかにする必要性は高い。そこで本研究の目的は3年間の追跡調査によって要介護度の重度化に影響を与える運動機能とCut-off pointを明らかにし,効果的な介護保険サービス提供につなげることとした。
【方法】
対象は通所介護サービスを3年以上継続して利用していた要支援・軽度要介護高齢者4959名(年齢81.5±6.5歳,男性1433名,女性3526名)であり,ベースライン時の要介護度の内訳は,要支援1が873名(17.6%),要支援2が836名(16.9%),要介護1が2043名(41.2%),要介護2が1207名(24.3%)であった。認知機能は測定の信頼性を高めるためmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が3以上である者は除外した。測定項目は握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。要支援・要介護高齢者それぞれに関して,ベースライン時から3年間で維持,または改善した者を維持・改善群,ベースラインから3年間で要介護に重度化した者を悪化群として2群に分けた。
要支援・要介護高齢者それぞれの維持・改善群と悪化群の各変数の比較をするために,性別はχ2検定,年齢,握力,歩行速度は対応のないt検定,CST-5,開眼片足立ち,TUGはMann-WhitneyのU検定を用いて単変量分析を行った。
有意な関連が認めらえた項目に関してはcut-off値を求めるためにreceiver operating characteristic(ROC)曲線を用いた。cut-off値の決定には,Youden indexを使用した。また,各測定項目のAUC,cut-off値の感度,特異度を算出した。算出したcut-off値より運動機能の測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した。要介護度の重度化に影響を与えると考えられる年齢,性別,MSQを調整要因とし,これらの項目に運動機能cut-off値分類を加えた項目を独立変数,維持・改善群・悪化群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。(有意水準5%未満)
【結果】
要支援,軽度要介護高齢者ともに単変量分析より,開眼片足立ち,歩行速度では維持・改善群に比べ有意に低値を示し,CST-5,TUGは有意に高値を示した。
要支援高齢者に関して,Youden indexから算出したcut-off値はCST-5が10.1秒,開眼片足立ち12.5秒,歩行速度0.7m/s,TUG12.9秒であった。軽度要介護高齢者に関して,Youden indexから算出したcut-off値はCST-5が12.1秒,開眼足立ち4.5秒,歩行速度0.7m/s,TUG14.0秒であった。ロジスティック回帰分析の結果,要支援高齢者に関してはTUGが,軽度要介護高齢者に関しては開眼片足立ちが重度化に影響を与える要因として抽出された。これらの要因がcut-off値より悪い結果を示した場合の重度化に対するオッズ比(odds ratio:OR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)は,TUG(OR 1.45,95%CI 1.14-1.98,P<0.01),開眼片足立ち(OR 1.52,95%CI 1.21-1.90,P<0.01)であった。
【考察】
要介護度の重度化に影響を及ぼす要因として,運動機能に関しては,要支援ではTUG,要介護高齢者では片足立ちが抽出された。要支援高齢者では基本的日常生活動作が自立している者が多く,手段的日常生活動作を遂行するために必要な複合的移動能力を求められるTUGが重要となることが考えられる。片足立ちについては,要支援と要介護のcut-off値は12.5秒から4.5秒まで低下しており要介護度の重度化に伴いバランス能力が急激に低下していくことが示唆された。今回算出されたcut-off値が要支援・要介護高齢者の重度化予防に対する一つの目標値として使用できることが期待される。疾患や認知機能,生活機能,世帯構成等も要介護度の重度化に影響を及ぼす因子であることが予想されるため,今後はそれらの要因も踏まえ調査していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によってTUGや開眼片足立ちといった簡便に実施出来る評価結果が要介護度の重度化に影響することが明らかになったことは,理学療法士が配置されていない施設が多い通所介護サービスの中で,今後のサービス提供上,有意義であると考える。