[O-0206] デイサービスにおける理学療法士および作業療法士の在籍が要介護高齢者の12ヶ月間の生活機能の変化に及ぼす効果
傾向スコアマッチングによる解析
Keywords:高齢者, デイサービス, 機能的自立度評価法(FIM)
【はじめに,目的】
介護保険下で利用できる通所施設に,通所リハビリテーション(デイケア)と通所介護施設(デイサービス)がある。デイサービスでは「機能訓練」として運動療法や日常生活動作の反復練習などが実施されており,機能訓練指導員を担当できるのは,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,柔道整復師,あん摩マッサージ指圧師と定められている。そこで本研究の目的は,複数の職種が機能訓練指導員を担うことが出来るなかで,リハビリテーションの専門職の在籍がデイサービス利用者の生活機能にどのような影響を与えるか検討することとした。
【方法】
対象は2006年6月から2014年5月の間で全国のデイサービスを利用していた要支援および要介護高齢者48758名(平均年齢82.2±8.6歳,男性17820名,女性30938名)であった。本研究は後方視的縦断研究であり,Functional Independence Measure(FIM)の得点について,2014年5月時点から直近のデータを抽出し,次いでその12ヶ月前をベースラインのデータとして抽出した。統計学的解析において,対象者は常勤の理学療法士もしくは作業療法士が在籍するデイサービスを利用していたPTOT群と,理学療法士もしくは作業療法士の在籍していなかった対照群に分けられた。ベースラインと12ヶ月後におけるFIM得点の群間差の比較と,FIM得点の変化率の群間差を比較するために単変量解析を実施した。
【結果】
12ヶ月間のFIMのデータを有していたのは9662名であり,その内訳はPTOT群1441名,対照群8221名であった。PTOT群について,他のリハビリテーションサービスを受けていた場合,またはPTOTの在籍期間がFIMの評価期間内全体に至らない場合は解析対象から除外したところ,543名が解析対象として残った。ここでPTOT群と対照群について,ベースラインにおける性別,年齢,FIM運動項目得点,FIM認知項目得点,FIM全合計得点を共変量とした傾向スコア(propensity score)を用いてマッチングを実施し,543組(n=1086)が解析対象として残った。
FIMについて,運動項目得点はベースラインにてPTOT群74.3±17.9点,対照群75.3±18.2点,12ヵ月後にてPTOT群72.0±18.6点,対照群71.5±20.7点,認知項目得点はベースラインにてPTOT群28.9±6.9点,対照群29.0±6.9点,12ヵ月後にてPTOT群27.9±7.3点,対照群26.8±8.5点,全合計得点はベースラインにてPTOT群103.2±22.6点,対照群104.3±23.1点,12ヵ月後にてPTOT群99.9±23.8点,対照群98.3±27.3点であった。運動項目,認知項目,全合計のいずれにおいても,ベースラインにおける群間差,12ヵ月後における群間差は認められなかった。一方,ベースラインから12ヵ月後への変化率を見たとき,運動項目はPTOT群-2.5±14.7%,対照群-4.0±25.6%,認知項目はPTOT群-2.7±17.6%,対照群-6.0±28.6%,全合計はPTOT群-2.8±13.4%,対照群-5.2±22.0%を示し,認知項目および全合計において有意な群間差が認められた。
【考察】
デイサービスにおける理学療法士および作業療法士の在籍が,要支援および要介護高齢者におけるFIM得点の12ヶ月間の変化に及ぼす影響を検討した。認知項目について,PTOT群が低下率を抑制する結果となっていたことから,PTOTによる運動指導や作業活動のみならず,専門的な視点からの日常生活への支援がコミュニケーションや問題解決等の低下抑制に寄与した可能性が考えられる。なお,12ヵ月後の結果に群間差が認められなかった点については,さらに長期的な調査を実施することによって群間差も認められるようになる可能性があり,今後の継続的なデータ蓄積が課題と言える。他方,運動項目の変化率に有意な群間差がなかった理由として,PTOT不在のデイサービスにおいても体操実施していることが要因として考えられる。しかし,運動に関してもさらに長期的な調査を実施することによってPTOT群と対照群の乖離が生じてくる可能性があり,どのような運動アプローチをしたか考慮した上での長期的な調査を実施していくことが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
運動療法に限らず,日常生活動作の指導や福祉用具の選定,他職種への介助法の指導などの多面的なアプローチが介護保険施設における理学療法士らには求められる。リハビリテーション専門職の通所介護施設への在籍が要介護高齢者の生活機能の維持に影響している可能性を示すことができたのは職域拡大にも有意義な一歩であると考える。
介護保険下で利用できる通所施設に,通所リハビリテーション(デイケア)と通所介護施設(デイサービス)がある。デイサービスでは「機能訓練」として運動療法や日常生活動作の反復練習などが実施されており,機能訓練指導員を担当できるのは,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,柔道整復師,あん摩マッサージ指圧師と定められている。そこで本研究の目的は,複数の職種が機能訓練指導員を担うことが出来るなかで,リハビリテーションの専門職の在籍がデイサービス利用者の生活機能にどのような影響を与えるか検討することとした。
【方法】
対象は2006年6月から2014年5月の間で全国のデイサービスを利用していた要支援および要介護高齢者48758名(平均年齢82.2±8.6歳,男性17820名,女性30938名)であった。本研究は後方視的縦断研究であり,Functional Independence Measure(FIM)の得点について,2014年5月時点から直近のデータを抽出し,次いでその12ヶ月前をベースラインのデータとして抽出した。統計学的解析において,対象者は常勤の理学療法士もしくは作業療法士が在籍するデイサービスを利用していたPTOT群と,理学療法士もしくは作業療法士の在籍していなかった対照群に分けられた。ベースラインと12ヶ月後におけるFIM得点の群間差の比較と,FIM得点の変化率の群間差を比較するために単変量解析を実施した。
【結果】
12ヶ月間のFIMのデータを有していたのは9662名であり,その内訳はPTOT群1441名,対照群8221名であった。PTOT群について,他のリハビリテーションサービスを受けていた場合,またはPTOTの在籍期間がFIMの評価期間内全体に至らない場合は解析対象から除外したところ,543名が解析対象として残った。ここでPTOT群と対照群について,ベースラインにおける性別,年齢,FIM運動項目得点,FIM認知項目得点,FIM全合計得点を共変量とした傾向スコア(propensity score)を用いてマッチングを実施し,543組(n=1086)が解析対象として残った。
FIMについて,運動項目得点はベースラインにてPTOT群74.3±17.9点,対照群75.3±18.2点,12ヵ月後にてPTOT群72.0±18.6点,対照群71.5±20.7点,認知項目得点はベースラインにてPTOT群28.9±6.9点,対照群29.0±6.9点,12ヵ月後にてPTOT群27.9±7.3点,対照群26.8±8.5点,全合計得点はベースラインにてPTOT群103.2±22.6点,対照群104.3±23.1点,12ヵ月後にてPTOT群99.9±23.8点,対照群98.3±27.3点であった。運動項目,認知項目,全合計のいずれにおいても,ベースラインにおける群間差,12ヵ月後における群間差は認められなかった。一方,ベースラインから12ヵ月後への変化率を見たとき,運動項目はPTOT群-2.5±14.7%,対照群-4.0±25.6%,認知項目はPTOT群-2.7±17.6%,対照群-6.0±28.6%,全合計はPTOT群-2.8±13.4%,対照群-5.2±22.0%を示し,認知項目および全合計において有意な群間差が認められた。
【考察】
デイサービスにおける理学療法士および作業療法士の在籍が,要支援および要介護高齢者におけるFIM得点の12ヶ月間の変化に及ぼす影響を検討した。認知項目について,PTOT群が低下率を抑制する結果となっていたことから,PTOTによる運動指導や作業活動のみならず,専門的な視点からの日常生活への支援がコミュニケーションや問題解決等の低下抑制に寄与した可能性が考えられる。なお,12ヵ月後の結果に群間差が認められなかった点については,さらに長期的な調査を実施することによって群間差も認められるようになる可能性があり,今後の継続的なデータ蓄積が課題と言える。他方,運動項目の変化率に有意な群間差がなかった理由として,PTOT不在のデイサービスにおいても体操実施していることが要因として考えられる。しかし,運動に関してもさらに長期的な調査を実施することによってPTOT群と対照群の乖離が生じてくる可能性があり,どのような運動アプローチをしたか考慮した上での長期的な調査を実施していくことが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
運動療法に限らず,日常生活動作の指導や福祉用具の選定,他職種への介助法の指導などの多面的なアプローチが介護保険施設における理学療法士らには求められる。リハビリテーション専門職の通所介護施設への在籍が要介護高齢者の生活機能の維持に影響している可能性を示すことができたのは職域拡大にも有意義な一歩であると考える。